いつも自分を追い詰めてしまうあなたへ。“自責グセ” を解消する「セルフ・コンパッション」とは

セルフコンパッションとは01

あなたは「自分に厳しい」ほうですか? それとも「自分に甘い」ほうですか?

ストイックさや責任感が求められるビジネスシーンで揉まれているうちに、「まだまだ自分は未熟だ」「これじゃダメだ」などと、自分を責めるクセが染みついてしまっている方も少なくないのではないでしょうか。

もちろん、自分を厳しく律せるのはすばらしいこと。しかし、その厳しさが行きすぎてしまうと、ストレスのもとになったり、かえって自分のパフォーマンスを妨げてしまったりする恐れもあるのです。

今回は、自分自身を責め・追い詰めてしまうクセを解消し、心をラクにすることができる「セルフ・コンパッション」という方法について学んでいきましょう。

自分を責めてしまう7つのケースとは

そもそも、私たちはどんなときに自分自身を責めたくなってしまうのでしょうか。

心理カウンセラーの根本裕幸氏の解説を参考に、自分を責めたくなる感情(罪悪感)が生じる7つのパターンをご紹介します。

1. 誰かを傷つけてしまったとき(加害者の心理)

まず1つめは、つい相手にひどいことを言ってしまうなどして、自分が加害者になったと感じたとき。私たちは「あんなことしなければよかった」という罪悪感を抱き、自分を責めることになります。心の優しい人ほど、この「加害者の心理」に苦しめられた経験は多いのではないでしょうか。

2. 自分の無力さを感じたとき

自分の無力さを感じたときにも、つい自分を責めてしまいがち。仕事でミスをしたときや、試験などで思うように点が取れなかったときなど、「どうして自分はこんなこともできないんだろう」と後悔を引きずってしまうことは、誰しもあると思います。

この「無力感」に起因する罪悪感が行きすぎると、「今日の飲み会が盛り上がらなかったのは自分がいたせいじゃないか」など、被害妄想的な自責の念に苦しめられてしまうことも。生真面目な人、責任感の強い人は特に注意しましょう。

3. 何もしていないことへの罪悪感

3つめは「勉強をサボってしまった」「後輩が悩んでいるのに何もしてあげられなかった」など、やるべき行動を果たせなかったときに罪悪感を覚えるパターン。2の「無力さに対する罪悪感」と似ていますが、「何もしていないことへの罪悪感」は、自分の能力に対してではなく、自分が選んだ行動に対して罪悪感を抱いていると言えます。

4. 自分が恵まれすぎていることへの罪悪感

贅沢な悩みではありますが、「自分の環境が恵まれすぎている」と感じたときにも、罪悪感を覚えがちです。たとえば、ドキュメンタリー番組などで、貧しい国に生まれた子どもたちが大変な思いをして日々生きている様子を観ると、少なくとも寝食には困らない自分の環境と比較して、「なんだか申し訳ない」という気持ちになることがありますよね。

よく「セレブが慈善団体に巨額の寄付をした」というニュースを見聞きしますが、ひょっとするとその動機のひとつには「自分は恵まれすぎている」ことによる罪悪感もあるのかもしれません。

5.「自分は汚れている」という思い込みからくる罪悪感

さまざまな罪悪感によって、自分を責める習慣が染みついていった結果、自分の存在そのものに対して罪悪感を覚えてしまう人もいます。つまり「自分はダメな人間だから、どうせこの先も幸せになれないんだ」などと、無根拠に思い込んでしまっているケースです。

罪悪感の具体的な原因があるわけではなく、意識の深いレベルに思考が染み込んでしまっているぶん、改善するには困難が伴います。

6. 身近な人に由来する罪悪感

なかには、親やパートナーなど、身近な人が背負っている罪悪感に影響されてしまうケースも。

たとえば、身近な人が「私のせいで○○になってしまった」と自分を責めているのを見て、「あなたのせいじゃない。悪いのは私だよ」と、相手の罪悪感を一緒になって背負ってしまうことがあるのです。

7. 宗教思想に起因する罪悪感

そのほかに、信仰している宗教思想などに由来する罪悪感もあります。たとえばキリスト教には「人間は生まれつき罪を背負っている」という考え方(原罪)がありますし、仏教でも「欲望を捨てなさい」と説かれます。

したがって、敬虔に信仰を守っている人の中には「自分は罪深いんだ」「自分の素直な欲望は、悪いものなんだ」という意識をもってしまう人もいるのです。

以上、罪悪感の7つの分類をご紹介しました。根本氏によれば、私たちが抱く全ての罪悪感は、たいていこの7種類のどれかに分類できるのだそう。

セルフコンパッションとは02

自分を追い詰めることのデメリット

自分を責めたり追い詰めたりすることは、一見するとストイックに思えます。上司から「仕事には常に“自責”の意識で取り組め」と教わっている方も多いのではないでしょうか。

しかしじつは、自分を責めすぎると精神的なストレスが大きくなり、仕事や人間関係においてデメリットが生じる恐れがあるのです。

デメリット1. 適応能力が下がる

自分を追い詰めるクセがあると、新しい環境や不慣れな仕事に対して弱くなってしまう恐れがあります。医学ライターの井手ゆきえ氏によると、自分を追い詰めがちな人や完璧主義な人は、未経験の状況を前にしたとき、失敗への恐れから強い不安を感じやすいため、自己批判を繰り返したり、仕事を先延ばししたりしてしまう傾向が強いのだそう。

皆さんには、仕事や勉強、趣味などで「今は忙しいから、まだ始めるべきじゃない」「今始めてもどうせ続かない」などと思っているうちに、いつまでもチャレンジできずにいる物事はありませんか? 

もしあるのであれば、それは、失敗したり長続きしなかったりした場合に、「これだから私はダメなんだ」と自責してしまうのを恐れているのかもしれません。

デメリット2. 周りの人にもストレスを与えてしまう

根本氏によると、自責グセ(罪悪感)が強い人は、過度に自己犠牲的な振る舞いをしてしまうため、かえって周囲に気を遣わせてしまうことがあるのだそう。

先ほど「自分を責めてしまう7つのケース」の章で紹介した「身近な人がもっている罪悪感を受け取ってしまう」場合の反対で、自分がもっている罪悪感によって、ほかの人に対してネガティブな影響が及んでしまうこともあるのです。

たとえば、Aさんを飲み会に誘ったときに「私がいたら盛り上がらないと思うから、みんなだけで楽しんできて」などと返されてしまったら、どう感じるでしょうか。自責傾向の強いAさんとしては本心からの配慮だったのですが、周りの人は「Aさんにそんなに気を遣わせてしまって、こちらこそ申し訳ない」という罪悪感(あるいは不快感)を感じてしまうはずです。

もっともこれは極端な例で、実際には、Aさんのようにはっきりと口に出す人は少ないかもしれません。とはいえ、「私なんかが」「私のせいで」と自分を卑下していると、話している相手にもかえって気を遣わせてしまい、お互いに疲れてしまうことが多いのは事実。「自己犠牲」や「謙遜」は一般に美徳とされていますが、程度が過ぎるのもよくないのです。

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「セルフ・コンパッション」で自分をいたわろう

自責グセを改善するのに役立つのが、セルフ・コンパッションという考え方です。関西学院大学文学部の有光興記教授によると、セルフ・コンパッションは直訳すると「自分への思いやり」という意味。仏教的なルーツをもち、近年は心理学的な臨床研究も盛んになっている概念なのだそうです。

有光氏によると、セルフ・コンパッションの本質は、「『あるがまま』を受け入れる」ことだそう。

自分を責める気持ちが起きるのは、「自分はこうあるべき」「こうするべき」という理想をもっており、その理想と自分の乖離に苛立つことが原因。したがって「不完全な自分」をあるがままに受け入れることができれば、自分を責めすぎて傷つくこともなくなるのです。

そもそも、自分が描く「こうありたい」という理想像は、ちょっとしたことで崩れ去ってしまうような虚しいものである、と有光氏は言います。たとえば、せっかく自分なりにカッコいいと思う姿を見せられたと思っても、周りから思ったような反応が得られなかったり、冷笑されてしまったりしたら、理想の自分像はあっけなく崩壊し、さらに大きく自信を喪失してしまうでしょう。

つまり、無理に「理想の自分」を追いかけようとするよりも、まずは、手元にある等身大の自分を受け入れ、自分をいたわる気持ちをもつことで、不安感や焦燥感を手放す。これが、セルフ・コンパッションの考え方なのです。

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セルフ・コンパッションの実践方法

では、具体的なセルフ・コンパッションの実践方法を紹介しましょう。

有光氏が紹介しているのは、「慈悲の瞑想」という方法です。慈悲の瞑想とは、その名の通り、自分自身に対して、慈悲(優しさ)をかけながら瞑想を行なうこと。

以下3ステップで、具体的な方法をご説明します。

ステップ1. 身体をリラックスさせる

心を整える準備段階として、まずは、身体からリラックスさせていきましょう。

このときの体勢については、有光氏は特に指定していないので、自分なりに楽な体勢でけっこうです。ちなみに通常の瞑想(マインドフルネス)では、ベッドに寝そべったり、椅子やソファにゆったりと腰をかけたりする姿勢がよく推奨されています。

ステップ2. 慈悲のフレーズを唱える

リラックスできたら、自分をいたわる言葉を心の中で唱えましょう。有光氏がすすめているフレーズは、「私が安全でありますように」「私が幸せでありますように」「私が健康でありますように」「私の悩み苦しみがなくなりますように」の4つです。

この4フレーズを、自分が心地いいと感じる間隔で、繰り返し唱えるのがポイント。もし気が散ることがあっても、それほど気にせず、再びフレーズの繰り返しに戻ってください。

ステップ3. フレーズの対象を他者に広げていく

慈悲のフレーズによって、自分に対するいたわりの感情が沸いてきたら、徐々に慈悲の対象を他者へと向けていきましょう。大切な人→親しい人→ただの知人→嫌いな人→知らない人……と慈悲の対象を広げていき、最終的に「生きとし生けるものすべて」に慈悲の心をもつことができれば、理想的な境地です。

ただリラックスして言葉を唱えるだけ、と思われるかもしれませんが、実際にやってみると、自分を許す優しい気持ちが湧き上がってくることが実感できるはず。

忙しくて心がすさんでいるときや、自分自身を追い詰めてしまっているときには、ぜひ時間を確保し、ゆっくりと自分をいたわってみてください。

***
成長意欲が高い人ほど「これじゃダメだ」「もっとやれるはずだ」と自分を追い込むクセがついているもの。もちろん、向上心をもつのは大切ですが、それだけでは心が疲弊してしまいます。時には意識的に、自分を甘やかしてあげる時間をとりましょう。

(参考)
東洋経済ONLINE|「私が悪い」と自分を責めてしまう罪悪感の正体
DIAMOND online|完璧主義者がうつにならないためには「自分をいたわる」といい
公益社団法人日本心理学会|セルフ・コンパッションと「あるがまま」
根本裕幸(2019), 『いつも自分のせいにする罪悪感がすーっと消えてなくなる本』,ディスカヴァー・トゥエンティワン.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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