せわしなく働いているわりに、全然仕事が終わらない。もっとサクサク仕事を前に進められたらいいのに……。
そんなあなたは、作業のスピードを上げようとするだけではなく、ムダな何かを「捨てる」という視点もぜひもってみてください。
捨てると言っても、物や資料だけに限りません。では、仕事の効率を高めるために捨てるべきものとはいったい何か? 以下で詳しくご紹介しましょう。
1.「段取り」を捨てる
作業の前には、やっぱりコーヒーを飲まなくちゃな。いまだと中途半端だから、〇時ぴったりになってから仕事を始めよう……。このように、「段取りを踏んでからでないと、仕事はできない」と考えていませんか?
いろいろな条件が整うのを待っていると、仕事を始めるまでに時間がかかってしまうもの。ですので、「段取りを捨て、やろうと思ったら即、取りかかる」という原則を守るようにしましょう。
脳科学者の茂木健一郎氏によると、「~しなければ、仕事はできない」と考えると、脳の働きにブレーキがかかり、仕事に集中して向き合えなくなるそうです。“べき思考” に邪魔され、集中状態に入るまでに時間がかかってしまうのです。
深く集中して、スピーディーに仕事を片づけるには、とにかく手を動かし始めてしまうのがよいとのこと。実際に茂木氏自身も、“段取りなし” で仕事に着手し、本の原稿やSNS更新など多くの執筆をこなしているようです。とにかく作業を始めてしまうことで一気に集中状態に入り、限られた時間のなか膨大な仕事量をさばくそうですよ。
あれこれ段取りを踏んでばかりいて、仕事に着手するのが遅れれば遅れるほど、後半に慌てて作業する羽目になります。「即、開始」で、焦らず集中して仕事に取り組みましょう。
2.「自力で考える時間」を捨てる
取引先へ送る資料のつくり方がよくわからない。初めて担当するプロジェクトのスケジュールを立てるよう指示されたが、何にどれぐらいの日数が必要か想像もつかない。仕事上で起こるこうした問題について、いつもゼロから自力で解決策を導こうとしていませんか?
そんな人は、「まず調べる」ことを習慣づけましょう。
「下手の考え休むに似たり」という言葉があります。物事に習熟していない人がいくら考えても、それは休んでいるのと同じ。たいていの場合は、成果につながりにくいものです。
それは仕事においても同様であるよう。ベンチャー企業のアドバイザーや社外役員を務める須田仁之氏は、知識が浅い場合や、自分にはできなさそうだと感じたときなどには、「考える」時間を極力減らし、先人の知恵を素直に調べてまねることを推奨しています。
たとえば、
- 本で調べる
- インターネットで調べる
- 先輩社員や上司に尋ねる
- 社内のマニュアルやガイドラインを参照する
といった手段が考えられます。
先述の資料作成の場合なら、フォーマットを社内もしくはインターネットで探せばすむ話です。プロジェクトのスケジュールは、過去の例を先輩に尋ねて教えてもらえばいいでしょう。自分で考えるより、調べるほうがずっと早いわけです。
“ゆったり” しているようで仕事が速い人は、極力、自分で考えない――解決策を地道にリサーチする手間を惜しまない人こそが、仕事を最短距離で完結させられるのです。
3.「集中力への期待」を捨てる
集中力を維持できず、作業の進捗がどんどん遅れてしまう。集中力が続けば、もっと速くできるはずなのに……! そんな人は、「集中力は『続かない』ものだ」ということを前提とし、飽きる前に次へ次へと、短時間でタスクをコロコロ変えていきましょう。
前出の茂木氏いわく、脳は本来的に、ひとつのことに長時間集中できない仕組みになっているとのこと。茂木氏によれば、脳は1秒単位でやることを判断しているため、たった数分でも、脳からすれば「長時間」ということになるのだそうです。ましてや、何時間も連続で同じ作業を続けようとすれば、脳の仕組み上効率が下がって当然。
茂木氏と同様「集中力は続かない」ことを前提に仕事をしていると語る、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、まず「タスクを細分化する」ことをすすめます。
たとえば、1時間ほどかかりそうな資料作成の仕事がある場合。「資料作成」という仕事をひとまとまりにとらえるのではなく、
- 書式やレイアウトを決める 3分
- 1章めの文章を執筆する 8分
- 挿入する画像Aを作成する 5分
- 挿入する画像Bを作成する 5分
……
という具合に、仕事を細かく分けます。そして、集中力が切れないうちに、どんどん次のタスクへと移っていくのです。
佐々木氏いわく、特にその日の最初にやるタスクの場合は「3分」という短さで設定するとよいとのこと。そして、ひとつのタスクにかけてよい時間は8分まで。それより長くなると、集中力を維持できなくなってくるそうです。
この方法であれば、集中力切れで作業が滞るタイムロスがなくなります。仕事が遅れて、あとで慌てて挽回する……といったこともありません。ゆったりと余裕をもって仕事ができるよう、タスクを調整してみてくださいね。
4.「名刺」を捨てる
人と接する機会が多く、何十枚、何百枚とたまった名刺のなかから、連絡先の情報を探し出すのに時間がかかって困っている……。そんな人は、もらった名刺をデジタルデータ化したうえで捨てるのがベスト。
前出の須田氏は、名刺をファイルなどに入れて整理する作業を “ムダ” だと指摘します。整理や保管に手間がかかるからです。名刺の整理に時間を割く人は、仕事が遅い人の象徴だ――須田氏はそう言います。
「せっかくもらった名刺を捨てるなんて申し訳ない……」という気持ちもわかります。ですが仕事の効率を考えるならば、須田氏がすすめる以下の方法で、「名刺そのもの」ではなく「名刺に書かれた情報」を管理しましょう。
- 名刺管理用のアプリやツールを使って「スキャン」する
⇒ データだけを保管する - 名刺をくれた相手に、その日のうちに「お礼メール」を送る
⇒ 送信履歴で名刺データを保管する
メールには相手の情報を過不足なく記載するとよいそう。
「○○商事 ××課 △△様、本日は◇◇の件でお世話になりました」
こんなメールを1本送っておけば、いざ相手の情報が必要になったとき、メールソフトの検索機能を使って瞬時に探し出せるようになるわけです。
上記いずれかの方法によって、名刺に記載された情報をデジタルデータ化することを徹底し、紙の名刺を手作業で探し出す手間が発生しないようにしてください。
こういった小さなムダを潰していくことで、本来の業務にあてられる時間が増えます。ゆとりをもって仕事に取り組めるようになりますよ。
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「なぜか仕事が遅い」という自覚がある方は、上に述べた “4つのもの” を捨てることで、仕事の効率化を図ってみましょう。
(参考)
茂木健一郎 (2017), 『膨大な仕事を一瞬でさばく 瞬間集中脳』, すばる社.
goo辞書|下手の考え休むに似たり(へたのかんがえやすむににたり) の意味
須田仁之 (2019), 『捨てる。手を抜く。考えない。月460時間労働から抜け出した私の方法』, かんき出版.
東洋経済オンライン|「8分の集中」で仕事をぐんと効率化!超簡単7秘訣
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。