仕事におけるスピードを意識し、なんでもかんでも「なる早」で進めようとしている人はいませんか? そうすることにはリスクがともなうと語るのは、著書『なぜか仕事が早く終わらない人のための 図解 超タスク管理術』(あさ出版)を上梓した心理学ジャーナリストの佐々木正悟(ささき・しょうご)さん。
佐々木さんが教えてくれたのは、「なる早」でやることとは正反対の、「明日できることを今日手がけてはいけない」というタスク管理術でした。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
明日できることを今日手がけてはいけない
前回の記事では、「『いま』『ここ』に集中する」「『約束』をリストアップする」「『他人との約束』を厳守する」という「タスク管理における基本の3ステップ」を紹介しました。これによって、いまこの瞬間に取り組むべきことが明らかになり、結果的に仕事で成果を挙げやすくなります(『信用を高めるための「タスク管理3つの基本」。仕事とは「他人との約束」を厳守することにほかならない』参照)。
そして、この3ステップは、「GTD(Getting Things Done)」というアメリカ発のタスク管理術につながるものです。GTDは有名ですから、勉強熱心な人であれば一度は聞いたことがあるかもしれませんね。
今回は、GTDとは別に、イギリスのビジネスコーチであるマーク・フォースターが開発した「マニャーナの法則」と呼ばれるタスク管理術の一端を紹介しましょう。マニャーナの法則は、多くの人にとって取り組みやすいと感じられるものです。
というのも、マニャーナの法則の最大の特徴は「明日でもできることを今日手がけてはいけない」という点にあり、「今日することのハードルを低くする」ことが大きなポイントだからです。ちなみに、「マニャーナ(mañana)」とは、「明日」を意味するスペイン語です。
「今日すること」のハードルを下げて心の余裕をもつ
マニャーナの法則は、締め切りが先のプロジェクトを多く抱えていたり、仕事のボリュームが大きめで単発のものであっても4〜5日を必要とするようなタスクが多かったりする人に向いています。
そういう人が、なんでも「なる早」で進めようとしたらどうなるでしょう? 時間がかかるタスクや締め切りが先のプロジェクトですから作業はなかなかはかどりません。それなのに、「あれもこれもやらないと……」と思っていると、自分を心理的に追い詰めることになります。もちろん、そういう状態では仕事に集中できるはずもありません。
そこで、タスクが「明日やることリスト」に移しても問題が発生しないものなら、そうしてしまうのです。そうして「今日やるのはたったこれだけ!」とハードルを低くすることができれば、心の余裕をもつことができます。
そうした心の余裕をもつことができれば、それぞれのタスクにしっかりと向き合うことができ、その結果として少しずつでも着実にタスクを進められるのです。
「今日中に必ず終わらせなければならないこと」だけを残す
そして、マニャーナの法則を実践するための基本は、「今日のリスト」の活用にあります。「今日のリスト」とは、今日の予定と、「今日絶対にやらなければならないタスク」の組み合わせによってできるリストです(『あなたもきっとしている「タスク管理の誤解」2つ。「予定」と「タスク」はまったくの別物だった』参照)。
ここで言う「予定」とは開始時刻が決まっているもの、一方の「タスク」は開始時刻が決まっていないものを指します。
しかし、「今日のリスト」に入れるタスクは、開始時刻こそ決まっていないものの「今日絶対にやらなければならないタスク」です。そのため、「今日のリスト」からは「明日以降にやればいいこと」は徹底的に排除され、残るのは、開始時刻が決まっている予定も含めてまさに「今日中に必ず終わらせなければならないこと」だけになるのです。
そして、マニャーナの法則を実践すると、あることに対する認識も変わります。そのあることとは、「優先順位」です。仕事をするうえでは、「優先順位をつけて仕事を進めるべきだ」とよく言われますよね。
しかし、「優先順位には意味がない」というのがマニャーナの法則における真実です。なぜなら、「今日のリスト」にあるのは「今日中に必ず終わらせなければならないこと」だけであり、それらには優先順位などないからです。
マニャーナの法則を実践すれば、「明日以降にやればいいこと」はそもそも「今日のリスト」に出てくることはありません。そのため、「これは『なる早』でやることかな?」「どのタスクの優先順位が高いだろう?」などと考える必要もなくなり、それだけ本当にやるべきことに集中できるようになるというわけです。
【佐々木正悟さん ほかのインタビュー記事はこちら】
あなたもきっとしている「タスク管理の誤解」2つ。「予定」と「タスク」はまったくの別物だった
信用を高めるための「タスク管理3つの基本」。仕事とは「他人との約束」を厳守することにほかならない
【プロフィール】
佐々木正悟(ささき・しょうご)
1973年生まれ、北海道出身。心理学ジャーナリスト。「ハック」ブームの仕掛け人のひとり。専門は認知心理学。1997年、獨協大学卒業後、ドコモサービスで派遣社員として働く。2001年、アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年にネバダ州立大学リノ校実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。帰国後は「効率化」と「心理学」をかけ合わせた「ライフハック心理学」を探求し、執筆や講演を行う。ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)の他、『最小の整理で100%役立つノートシステムを手に入れる!』(金風舎)、『つい顔色をうかがってしまう私を手放す方法』(技術評論社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。