ひとり当たりの仕事量がかつてより大きく増えているとも言われるいま、「効率的に仕事をするには『タスク管理』が重要だ」と考えるビジネスパーソンが増えています。
しかし、「タスク管理について『誤解』している人も多い」と指摘するのは、著書『なぜか仕事が早く終わらない人のための 図解 超タスク管理術』(あさ出版)を上梓した心理学ジャーナリストの佐々木正悟(ささき・しょうご)さん。私たちはいったいどんな「誤解」をしているのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「予定」と「タスク」を別物と認識しつつ一括して扱う
タスク管理に関して多くの人がしてしまっている「誤解」のうち、特にここでお伝えしたいのは、次のふたつ。「『予定』と『タスク』はほぼ同じもの」「計画は『逆算』して立てるべき」というものです。
予定とは、「●月▲日■時よりA社と打ち合わせ」のように、開始時刻が決まっているものです。一方のタスクは予定とは異なり、開始時刻が決まっていない仕事や実務のこと。そのため、締め切りに間に合うのであればいつ始めてもかまいません。
つまり、予定とタスクはまったくの別物なのです。だからこそ、予定とタスクをきっちりと区別することが、タスク管理の基本だと私は考えています。
ただ、私たちは、実際には「■時の打ち合わせまでにどのタスクをやるべきか」ということを考えて行動を決めています。ですから、予定とタスクを別々に扱うことは現実には難しい。そう考えると、「予定とタスクは異なるものだ」と認識しつつ、一括して扱うことがタスク管理においては重要になってきます。
未来にあるゴールから「逆算」することなどできない
もうひとつのタスク管理に関する誤解は、「計画は『逆算』して立てるべき」というもの。ビジネスシーンではまさによく言われることですから、これが誤解だと聞くと意外に思う人も多いでしょう。
たしかに、長期的な計画のようにゴールが遠くにある場合は、そこから逆算して予定やタスクを設定するのが得策のように思えるかもしれません。でも、実際にそうすることには無理があります。なぜなら、未来のことは誰にもわからないからです。
ゴールから逆算して考えてみても、そのとおりに物事が進むことはまずほとんどありません。そうすると、「なんらかのアクシデントが起こりうるということを想定しておけばいい」と考える人もいるかもしれませんが、それもできません。
なぜなら、アクシデントが起こるかどうかという未来も、やはり誰にもわからないことだからです。未来のことがわからない以上は、未来について考えるのはやめたほうがいいでしょう。
私が考えるタスク管理が力を発揮するのは、1日か2日分のタスクをきちんとコントロールできているケースです。タスク管理でなすべきことは、考えられる範囲のなかで「いま現時点でやるべきこと」を明らかにして、それに全力を尽くすことなのです。
まずやるべきは、「今日のリスト」づくり
そう考えると、タスク管理をするうえでの最初の一歩と言うべきものが見えてきます。それは、「今日のリスト」をつくることです。
予定を確認するにはカレンダー、タスクを確認するにはToDoリストが必要になります。しかし、それぞれを別々のまま使って1日を送るのは不便です。だからこそ、カレンダーとToDoリストから「今日のリスト」をつくるのです。これが、先にお伝えした、「『予定とタスクは異なるものだ』と認識しつつ、一括して扱う」方法ということになります。
そのつくり方はとても簡単。カレンダーに記録されている「今日の予定」のあいだに、ToDoリストからピックアップした「今日絶対にやらなければならないタスク」を挟み込むだけです。
【「今日のリスト」のつくり方】
この「今日のリスト」をつくることの最大のメリットは、「なにをすべきかが明確になる」ということにあります。
逆にこのリストがない場合には、「いまはなにをするのがいいのか?」「次はなにをするんだっけ?」といった迷いが生じる可能性があります。そんな時間的なロスを生じさせてしまえば、効率的に仕事を進められるはずもありません。
自分が置かれている状況、いま、そして次にやるべきことを明白にし、それに集中できてこそ、仕事における成果も上がっていくのだと思います。
【佐々木正悟さん ほかのインタビュー記事はこちら】
信用を高めるための「タスク管理3つの基本」。仕事とは「他人との約束」を厳守することにほかならない
「優先順位」不要。「なる早」厳禁! 仕事が絶対はかどるタスク管理術「マニャーナの法則」って知ってる?
【プロフィール】
佐々木正悟(ささき・しょうご)
1973年生まれ、北海道出身。心理学ジャーナリスト。「ハック」ブームの仕掛け人のひとり。専門は認知心理学。1997年、獨協大学卒業後、ドコモサービスで派遣社員として働く。2001年、アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年にネバダ州立大学リノ校実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。帰国後は「効率化」と「心理学」をかけ合わせた「ライフハック心理学」を探求し、執筆や講演を行う。ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)の他、『最小の整理で100%役立つノートシステムを手に入れる!』(金風舎)、『つい顔色をうかがってしまう私を手放す方法』(技術評論社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。