「仕事が速い人」と「仕事が遅い人」――両者の違いはどこにあるのでしょうか。
その違いとして「『紙に書き出す』かどうか」を挙げるのは、手帳評論家の舘神龍彦さん。具体的にどのような違いがあり、効率的に仕事を進めるためにはなにをどう書き出せばいいのか、詳しく解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)
株式会社アスキー勤務を経てフリーのライター・編集者。手帳評論家・デジタルコンサルタント。手帳に関して、その歴史的な由来から構造、情報整理ツールとしての側面などを多角的に考察。自らはビジネスマン向け手帳をつくらず、ユーザーひとりひとりにとってどのような手帳がベストなのかを考察・提案する。また、文具メーカーのプロモーションや製品開発にもアドバイスしている。自らも手帳評論家としてメディア出演も多い。著書に『凄いiPhone手帳術』(エイ出版社)、『手帳と日本人』(NHK出版)などがある。
仕事を速く進めるには、「駆け出す前に書き出せ」
「仕事が速い人」にはどのような特徴があるでしょう? みなさんがそれぞれ思い浮かべた答えはさまざまかと思いますが、私は「紙に書き出す」ことだと考えています。
生産性を上げたい、効率的に速く仕事を進めたい人に対して、私はいつもこのような言葉を伝えています。それは、「駆け出す前に紙に書き出せ」というものです。
仕事が遅い人は、「位置について、よーいドン」と言われた途端に駆け出す人です。本人としては「素早く仕事を始めた」「仕事を速く進めている」つもりなのかもしれません。
でも、ノープランで駆け出してしまっているため、準備不足だった部分に途中で気づくことになります。「あの人に連絡しておかなければならないのだった」「あれに関する資料が集まっていない」など、その場で足踏みをしたり、場合によってはスタート地点に戻ったりしなければなりません。そうして、結果的に仕事が遅くなってしまうのです。
一方、仕事が速い人はすぐには駆け出しません。駆け出す前に、「この仕事に必要なものはあれとこれだ」「事前にあの人に連絡しておかなければならない」「あの部署に根回しもしておこう」など、必要なことを事前準備として紙に書き出します。駆け出すまでに時間がかかったとしても、いざ駆け出せばその後はスムーズに進められるため、仕事が速いのです。
こちらは実際に私が書いた、事前準備のメモです。DMをデザイナーに依頼するという仕事について、必要なタスクをざっと書き出しました。書き出す内容はこれぐらいシンプルでかまいません。
もちろん、それらを書き出すことはデジタルツールでもできます。しかし、アプリなどよりは、確認やチェックなどの自由度の点で紙のほうが便利です。
書き出して小さなタスクに分割し、すぐに着手する
もちろん、すぐに駆け出す人にもいいところはあります。それは、「すぐに着手する」というところです。とにかく着手しないことには仕事が進みませんから、すぐに手をつけるのは仕事を速く進めるための重要なポイントとなります。
特に、難易度が高くて時間がかかりそうな仕事を先延ばしする癖がある人には、すぐに着手する意識は欠かせないものでしょう。そして、すぐに着手するためにも、紙に書き出すことが有効なのです。
近世哲学の祖と言われるデカルトは「困難は分割せよ」という言葉を遺していますが、どれほど困難な仕事に見えても、どんどん分割していけばひとつひとつのタスクの難易度は下がっていきます。先にも触れた事前準備として、紙に書き出して仕事を分割するのです。
「それくらいの作業なら頭のなかでできる」と思うかもしれません。しかし、記憶に関する研究では、老若男女問わず「脳は一度に7つのことしか覚えられない」という結果が示されています。ハードルの高い大仕事を頭のなかで細分化するのは、それこそハードルが高い作業です。
また、困難な仕事を先延ばししてしまうのは、「いつ終わるのか先が見えない」ことにも理由があるように思います。そうして、「この仕事は時間がかかりそうだ」「もっと時間や体力に余裕があるときに取りかかろう」と考えて先延ばししてしまうのです。
でも、大きな仕事を細分化して小さなタスクに分解できたらどうでしょう? ひとつひとつは小さなタスクですから、「このタスクはこれくらいの時間で終われそうだ」と見積もることができます。そうして、着手しやすくなるのです。
不安や疑問を紙に書き出して手放し、集中力を取り戻す
また、仕事がなかなか進まないのは、「不安」や「疑問」がその原因となっているケースも考えられます。
「依頼の意図をきちんと汲めているだろうか?」「このまま進めていいのだろうか?」といった不安や疑問があれば、そのことが気になって仕事に集中できなくて当然です。もちろん、集中できなければ仕事を速く進められるはずもありません。
これについては、先にも触れた「脳は一度に7つのことしか覚えられない」というのが要因です。物事を考える、計算をする、言葉を書く、聞く、読むなどあらゆる作業をする際に働くのが、日本語で「作業記憶」と呼ばれる「ワーキングメモリ」という能力で、このワーキングメモリが一度に7つのことしか覚えられないのです。
7つのことしか覚えられないのに、そこに不安や疑問があれば、それだけワーキングメモリのリソースを不安や疑問に対して無駄に割いてしまうことになり、やるべき仕事に集中できなくなる仕組みです。
そのようなときは、やはり紙に書き出しましょう。不安や疑問を紙に書き出して、ワーキングメモリを開放してあげるのです。
不安や疑問は、頭のなかにあるときにはいかにも大きくて恐ろしいものに思えるものですが、実際に紙に書き出して客観視してみると、「思ったほどたいしたことないな」と感じる場合も少なくありません。そうして不安や疑問を払拭できれば、しっかりと仕事に集中できて効率も上がっていきます。
【舘神龍彦さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。