「寝不足でウトウトして仕事が捗らない」
「たくさん寝たのに頭がぼーっとする」
「ベッドに入ってもなかなか寝つけない」
このように、睡眠に関する悩みを持つビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。放っておくと、体に大きなダメージを与え、仕事のパフォーマンスを下げてしまうかもしれません。詳しく解説します。
日本は「睡眠後進国」である
まずは、現代の日本の睡眠事情について見ていきましょう。経済協力開発機構(OECD)による平均睡眠時間の調査(Gender Data Portal 2019)によると、アメリカ528分、イギリス508分、フランス513分、スペイン516分、中国542分と、1日の平均睡眠時間が500分を超える国が多い一方で、日本は442分と最短水準だったそう。
日本人の睡眠時間は多くの先進国の睡眠時間と比較しても短く、まさに日本は「睡眠後進国」だといえます。では、なぜ日本は睡眠後進国になってしまったのでしょうか。睡眠医学の第一人者である秋田大学医学部教授の三島和夫氏は、次の3つの理由を挙げています。
- 働きすぎ
OECDによる労働時間の国際比較調査によると、日本人の平日1日あたりの労働時間は年々増えており、残業時間においてはフランスの約3倍にも昇るそう。長時間働いているぶん、睡眠時間が削られ、結果、生産性が低くなっているのだとか。 - 通勤時間が長い
総務省統計局の調査(平成28年 社会生活基本調査)によると、通勤時間が長い都市部の人は、平日の睡眠時間が短いのだそう。都市部で働く人の多くは、通勤ラッシュと寝不足のストレスによる疲れがたまっているようです。 - スマートフォンの使いすぎ
東京都の調査では、ほとんどの人が、スマートフォンを「手放せないもの」として挙げています。三島氏によると、寝る直前までSNSやインターネット上でコミュニケーションをとることによって覚醒度が高まり、睡眠の質が低下してしまうのだとか。
睡眠不足は仕事のパフォーマンスを下げる
睡眠時間が足りていないことは、なぜ良くないのでしょうか。それは、睡眠不足が私たちの脳にさまざまな影響を及ぼしてしまうからです。
脳科学者の茂木健一郎氏によると、私たちが普段感じている眠気とは、そのほとんどが大脳を休ませてあげたいという欲求から来るものなのだそう。
睡眠不足は人間が物事を考えたり、感じたり、言葉を話したり、記憶したりといった役割を持っている大脳という部分の大敵となり、脳の細胞がどんどん破壊されてしまいます。(中略)脳を守るためにはしっかりと眠ることが必要なのです。
(引用元:茂木健一郎(2017),『脳が最高に冴える快眠法』, 河出文庫.)
茂木氏によると、睡眠が不十分であることによって、記憶が定着せず、記憶障害や言語障害を引き起こす恐れがあるのだそう。
また、脳科学の研究によると、睡眠不足は、仕事の効率にも深刻な影響を与えることがわかっています。 ハーバード大学の医学教授であるチャールズ・チェイラー氏によると、睡眠時間が5時間以内の日が1週間以上続いた場合、人の脳は、ほろ酔いに近い状態になるのだとか。これでは、仕事のパフォーマンスが下がるのはいうまでもありません。
睡眠の質を上げるコツ
前述した通り、日本人は長時間の残業や通勤のストレスによって睡眠時間が短く、質も悪いということがわかっています。しかし、住む場所や職場を変えることは難しいでしょうし、自分の都合では残業時間もなかなか減らせないという方がほとんどでしょう。
睡眠時間をしっかり確保することがベストですが、それが難しい人でも実践可能な「睡眠の質を上げるコツ」を紹介します。
スマートフォンは寝る2時間前までにやめる
寝る直前までスマートフォンを操作している人も多いはず。しかしスマートフォンやパソコンのブルーライトは、メラトニンの生成を抑えてしまうため、睡眠に悪い影響を与えます。メラトニンとは、体に「寝る時間ですよ」という信号を送るホルモンのこと。適切に分泌されないと、眠りにつくのが難しくなり、眠ったとしても深い睡眠に入ることが難しくなるそうです。
アメリカ科学会の研究者であるブライアン・ゾルトスキー氏は、皮肉を込めて次のように述べています。
One of the best biological cues we have to what time of day it is is light. And it turns out that blue light in particular is very effective at basically predicting when morning is.(今が何時なのかを教えてくれる最良の合図は光です。そしてブルーライトは特に、朝が来たことを知るのに効果的なのです)
(引用元:Youtube|How Smartphones Keep You Awake ※カッコ内の和訳は筆者が補った)
寝る前にブルーライトを浴びるのは、とても矛盾した行為なのです。
医師の資格と経営学修士号(MBA)を持つ経営コンサルティング会社ハイズ社長の裴英洙氏は、スマートフォンは寝る2時間前から触らないようにすることを推奨しています。スマートフォンを肌身離さず持っている現代人には厳しいかもしれませんが、良質な睡眠のためにも、夜は使用を控える習慣をつけましょう。
6分間の読書で睡眠の質が上がる!?
「疲れているのになかなか寝つけない」という人も多いのではないでしょうか。ストレスを軽減させ、眠りへと導くおすすめの方法があります。
サセックス大学の研究によると、たった6分間本を読むことで、心拍数が下がり、筋肉の緊張がほぐれ、ストレスレベルが68パーセント軽減されるそうです。これは音楽を聴く、お茶を飲む、散歩をするといった行為よりも効果が高いのだとか。研究に携わった認知神経科学者のデイビッド・ルイス氏は、以下のように述べています。
It really doesn't matter what book you read, by losing yourself in a thoroughly engrossing book you can escape from the worries and stresses of the everyday world and spend a while exploring the domain of the author's imagination.(どのような本でもかまいません、読書に集中し筆者の世界観に陶酔することで、日常の心配事やストレスから解放されるのです)
(引用元:The Telegraph|Reading 'can help reduce stress' ※カッコ内の和訳は筆者が補った)
ストレスをためやすい日本人にとって、上手にリラックスすることは、良い眠りへの鍵となるでしょう。
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働き盛りのビジネスパーソンだからこそ、睡眠を疎かにして仕事に向き合ってしまうものかもしれません。しかし、仕事の質を上げるためにも、睡眠を大切にすることは欠かせないのです。ぜひ、ご自身の睡眠習慣を見直してみてください。
(参考)
Nippon.com|40代の半数、睡眠時間は6時間未満 : OECD調査でも世界最短水準
東洋経済ONLINE|日本が「睡眠不足大国」に転落した3つの事情
茂木健一郎(2017),『脳が最高に冴える快眠法』,河出文庫.
Youtube|How Smartphones Keep You Awake
The Telegraph|Reading 'can help reduce stress'
日本経済新聞|眠り方改革で能率アップ 寝る前2時間スマホ断ち
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。