ビジネスパーソンとして成長するには、実務のスキルを伸ばすことはもちろん、勉強も欠かせません。その勉強のための手段というと、やはり「読書」が筆頭に挙げられるでしょう。ところが、世間にはビジネス書があふれているだけに、どの本を読めばいいのかわらかないということも多いもの。
そこで、マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚(ながい・たかひさ)さんにアドバイスをしてもらいました。永井さんは、著書『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)が注目を集める、「ビジネス書選びのプロ」でもあります。
それぞれに悩みを抱える若手ビジネスパーソン3人に向けて永井さんからおすすめのビジネス書を紹介してもらうというかたちの短期連載企画の第2回目。ふたり目のお悩みは……?
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
起業家、経営者が歩んだ道を追体験する
将来的に起業したいというのなら、やはり先人たちから学ぶことがもっとも手っ取り早いと思います。ひとつの方法は、起業家や経営者の「自伝」を読むことです。
たとえば、『成功はゴミ箱の中に』(レイ・クロック、ロバート・アンダーソン/プレジデント社)、あるいは『スターバックス再生物語』(ハワード・シュルツ、ジョアンヌ・ゴードン/徳間書店)もいいですね。レイ・クロックはマクドナルドの創業者、ハワード・シュルツは2018年までスターバックスの会長兼CEOを務めた人物です。
自伝を読むメリットは、起業家や経営者がどのような困難にぶつかってどうリカバーしたのかということを「追体験」できることです。本来なら、自分自身で失敗することがもっとも深く学べますし、人間を成長させます。しかし、読書による追体験は、質という点ではリアルな体験と比べると劣りますが、はるかに多くの量の体験をできるのです。
「自伝」よりフラットな視点で書かれた「伝記」で学ぶ
自伝と同じような効果を期待できるものとして「伝記」も挙げられます。おすすめは『幸之助論』(ジョン・コッター/ダイヤモンド社)。
「幸之助」とは、言わずと知れた松下電器産業(現パナソニック)の創業者・松下幸之助です。著者のジョン・コッターはハーバード大学ビジネススクールの名誉教授で、リーダーシップ論の世界的権威として知られています。彼が、ただひとつだけ書いた経営者の伝記がこの『幸之助論』であり、松下幸之助のリーダーシップについて深掘りした内容になっています。
とはいっても、彼はもともと松下幸之助のことを知りませんでした。松下幸之助はさまざまな大学に寄付をして記念講座をつくっていて、ハーバード大学ビジネススクール松下幸之助記念講座名誉教授の座にたまたま就いたのがジョン・コッターでした。そして、松下幸之助について調べてみたところ、「すごい人だ!」と知り、この本を執筆しました。
その点が、この本のいいところのひとつです。松下幸之助というと、日本では「経営の神様」です。一方、アメリカではそれほど有名というわけではありませんし、実際にジョン・コッターも松下幸之助を知りませんでした。だから、第三者が手がける伝記のなかでも、賛美するような内容ではなく、先入観がないニュートラルな視点で書かれているのです。
自分が敬愛する起業家や経営者の自伝を読むこともたしかにいいことですが、自伝の場合は著者自身のバイアスもかかります。そういう意味でも、客観的な視点で書かれているこの本をおすすめしたいですね。
新規事業を立ち上げる具体的方法論の定番解説書
自伝や伝記とは別の観点からおすすめしたいのが、「新規事業を立ち上げる具体的な方法論」を解説した本です。
世界的な定番というと、『アントレプレナーの教科書』(スティーブン・ブランク/翔泳社)と『リーン・スタートアップ』(エリック・リース/日経BP)になるでしょう。著者のふたりはともに起業家。エリック・リースはスティーブン・ブランクの弟子であり、著書を通じて師匠の理論をさらに進化させました。
両書に共通しているのは、「顧客開発」という概念です。新規事業というと、あたりまえのように商品開発のことばかり考えてしまうものです。でも、目新しい商品をつくっても、売れなければなんの意味もありません。商品開発にあたって絶対に見落としてはいけないポイントとは、「新しい客をつくる」ことなのです。つまり、商品開発の本質は、顧客開発だということです。
商品コンセプトを考えたら、まずはその段階で本当にその商品を求めている客を探さなくてはいけない。そして、その客に対してベストの商品となるようにプロトタイプをつくるという過程を繰り返し、客の課題を解決できるとなったらようやく商品として世に出す――。両書はそういう考え方を解説しています。そういう考え方が、いまのシリコンバレーでは標準的なものになっています。
起業家や経営者が歩んだ道を追体験する、そして新規事業を立ち上げる具体的な方法論を知る――。起業を志すなら、そのふたつの視点で本を選んでみてください。
今回は5冊を紹介しましたが、5冊すべて読むのはちょっと大変かもしれません。この5冊については、わたしの本である『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)にわかりやすくポイントをまとめています。こんな本で経営理論の全体像を理解することも、経営者を目指すうえで役立つと思います。
【永井孝尚さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ビジネス書ビギナーがいきなり「名著」に手を出してはいけない理由。
リーダーが絶対に読むべき4冊の名著たち。部下のやる気が出ない原因は “動機づけ” にあった!?
【プロフィール】
永井孝尚(ながい・たかひさ)
1962年、神奈川県出身。マーケティング戦略コンサルタント。ウォンツアンドバリュー株式会社代表。1984年、慶應義塾大学工学部計測工学科(現・理工学部物理情報工学科)を卒業し、日本アイ・ビー・エムに入社。1991年、IBM大和研究所の製品プランナー、製品開発マネージャーに就任。1998年、戦略マーケティングマネージャーとなり、CRMソリューション、ソフトウェア事業部などの事業戦略と実施を担当。2012年にはソフトウェア事業部人材育成部長に就任し、人材育成戦略立案と実施を担当。2013年、日本アイ・ビー・エムを退社し、ウォンツアンドバリューの代表に就任。専門用語を使わずにわかりやすい言葉でマーケティングを伝えるプロとして、幅広い企業や団体を対象に講演やワークショップ研修を実施。他に書籍の執筆、メディア出演等を通じて多くの人にマーケティングの面白さを伝え続けている。代表的な著書にシリーズ60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA/中経出版)、10万部の『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SBクリエイティブ)がある。その他、『時間がなくても有名ギャラリーで写真展を開催する方法』(日本写真企画)、『なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』(PHP研究所)、『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証(PDCA)』(幻冬舎)、『「あなた」という商品を高く売る方法 キャリア戦略をマーケティングから考える』(NHK出版)、『残業ゼロを実現する「朝30分で片づける」仕事術』(KADOKAWA)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。