スケジュール管理を徹底したり、目標を設定して作業効率化に励んだり。ビジネスパーソンなら、仕事中にさまざまなマネジメントを行なっていることでしょう。しかし、睡眠のこととなると完全オフモードになり、なんのマネジメントもしていない人が多いのではないでしょうか?
もしもあなたが、「キャリアアップしたいのに、思うように結果が出ない」という悩みを抱えているのであれば、その原因は、あなたがマネジメントできていない睡眠にあるかもしれません。仕事で結果を出すための睡眠法を説く医師の裴英洙氏は、「就寝を1日の終わりではなく1日の始まりと考え、睡眠もマネジメントすべきだ」と言います。
睡眠マネジメントという観点から、いい眠りについて考えてみましょう。
- 睡眠マネジメントができないのは、仕事のマネジメントができないのと同じ
- あなたの睡眠効率は何%? 現在の睡眠状況を確認しよう
- 睡眠効率を高めるポイントは「睡眠圧」
- 仕事終わりから始める、夜の睡眠マネジメント方法
睡眠マネジメントができないのは、仕事のマネジメントができないのと同じ
一流のビジネスパーソンを目指すなら、翌日のパフォーマンスを上げることを念頭において睡眠を取るべきだと、裴氏は述べます。この、睡眠に対する能動的な行動こそが、睡眠マネジメントの根幹です。
しかし実際には、翌日のことなんて考えることなく寝床に飛び込む人が多いのではないでしょうか。これでは睡眠をマネジメントできているとは言えません。結果、仕事にいくつかの悪影響を及ぼしてしまいます。
まず挙げられるのが「記憶力への悪影響」。裴氏が言うには、睡眠中の脳内では記憶の整理や振り分けが行なわれるため、睡眠を充分にとらないと、記憶力の向上が望めないそう。睡眠が不足すると、新しい作業を効率的に覚えられなかったり、仕事のミスを防げなかったりしてしまうのです。
また、「集中力にも悪影響」が及ぼされます。『ハーバード集中力革命』の著者で精神科医のエドワード・M・ハロウェル氏は、睡眠が不充分だと脳や身体に必要なエネルギーをしっかり蓄えることができず、集中力が低下すると言います。具体的には、ADHDにそっくりな兆候が出るようになり、作業中に気が散って注意力散漫になったり、指示を理解できず作業を正確にやり遂げることができなくなったりすることがあるそう。
そして、睡眠マネジメントの欠如は「脳疲労の解消にも悪影響」を与えます。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏いわく、仕事や職場の人間関係などによって引き起こされる脳疲労をとるには、睡眠が重要。脳疲労をため込むと、仕事のパフォーマンスを落とす原因になります。意欲が湧かない、物忘れがひどいという人は、睡眠の質が悪く脳疲労を解消できていないのかもしれません。
このように、睡眠を充分にとらないと、翌日のパフォーマンスは上げられません。つまり、睡眠マネジメントができていない人は、結局、仕事のマネジメントができていないも同然なのです。
あなたの睡眠効率は何%? 現在の睡眠状況を確認しよう
「いい眠りを取ろう」という言葉だけでは、睡眠をマネジメントするのは難しいですよね。そこで裴氏は、睡眠の質を測るために睡眠効率を計算することをすすめています。睡眠効率とは、「横になっている時間に対して、実際にどれくらい眠れているかを示す割合」のこと。次の計算式でおおよその睡眠効率を測ることができます。
睡眠時間はおおよそでかまいません。たとえば、23時に寝床に入り、1時ごろ眠りにつき、翌朝6時に起床している人の場合。実際の睡眠時間(5時間)を横になっていた時間(7時間)で割り、100を掛けると、睡眠効率は71%になります。
睡眠効率の合格ラインは85%以上。これが一流ビジネスパーソンを目指す条件だと裴氏は述べます。85%以上になると、翌日の体調や仕事のパフォーマンスに変化を感じられるそうです。あなたの睡眠効率は何%でしょうか? さっそく計算してみましょう。
睡眠効率を高めるポイントは「睡眠圧」
睡眠効率について知ると、いい眠りをとれているかどうかは睡眠時間の長さだけでは判断できないことがわかります。たとえば、同じ7時間睡眠でも、睡眠効率にこれだけの違いがあるのです。
- 22時に寝床に入り、深夜1時に眠りにつき、8時に起床した場合……睡眠効率は70%
- 23時に寝床に入り、深夜0時に眠りにつき、7時に起床した場合……睡眠効率は87.5%
あわせて、ベッドや布団といった寝床でダラダラ過ごすことが睡眠の質を低下させることもおわかりいただけるでしょう。帰宅後は寝床でゴロゴロするのが好き……という人は要注意です。
そして、睡眠効率の高さには「いかにスムーズに眠りに入るか」が関わっていることもわかりますね。この、寝床で自然に睡眠を引き起こす働きを「睡眠圧」と言います。
裴氏によると、睡眠圧を高めるうえで最も重要なことは、日中を活発に過ごすこと。たとえば休日でも、1日ソファで過ごした日より、庭の手入れをするなどして体を動かした日のほうが寝つきがいいですよね。
仕事がある日もこれと同じです。デスクワークや在宅ワークの人は、椅子に座りっぱなしになりやすいので、定期的にストレッチや体操をしたり、建物内の移動に階段を使ったりするなどの工夫をして、意識的に体を動かす必要があります。日中の過ごし方を変えることが、睡眠マネジメントの第一歩なのです。
仕事終わりから始める、夜の睡眠マネジメント方法
日中の仕事が終わったら、睡眠マネジメントはいよいよ本番です。夜には、裴氏が説く「睡眠圧を高める6つの方法」を実践しましょう。
- 19~21時に軽く体を動かす
- 夕飯は就寝4時間前までに済ませる
- お風呂では38~40℃のお湯に20~30分浸かる
- 就寝4時間前からカフェインの摂取は控える
- 就寝1~2時間前から照明を暗くし、スマートフォンやパソコンは見ない
- 寝室のエアコンをつけっぱなしにして寝ない
1.「19~21時に軽く運動する」
睡眠圧には午後から夜にかけて高まる性質があるのですが、19~21時ごろ一時的に低くなり、これを「睡眠禁止帯」と言います。裴氏によると、この時間帯にウォーキング程度の軽めの運動をしておくと、このあと睡眠圧が高まったときに寝つきがよくなるのだそうです。
2.「夕飯は就寝4時間前までに」
夜遅くの食事は胃もたれを起こし、睡眠の質を下げるためNGです。タンパク質や脂質を含む食べ物の消化には4時間ほどかかることから、遅くても22時までに夕食を済ませることを裴氏はすすめています。もちろん、就寝時間によっては夕食の時間を前倒しする必要があるでしょう。
3.「お風呂は38~40℃で20~30分」
人間の体には、活動を終えた夜に体温を下げることで自然と眠気を起こし、入眠後さらに体温を下げて体をオフモードにする性質があります。最初に起こる眠気をより強くし、寝つきをいっそうよくするために、お風呂で湯船にゆっくり浸かって体温を上げましょう。そうすれば、その後の体温変化が顕著になります。ただし、熱すぎる湯は交感神経を刺激して、かえって目が覚めてしまうので温度設定に注意してください。
4.「カフェイン摂取は就寝4時間前まで」
覚醒作用があるカフェインは、コーヒーのほか、紅茶やウーロン茶などにも含まれています。夜にお茶を飲むならカフェインレスと書かれているものがおすすめです。
5.「就寝1~2時間前から照明を暗くする」
明るい照明や新しい情報による刺激は脳を覚醒させる原因になるので、就寝1~2時間前からは間接照明に替え、メールのチェックやネットを見るのをやめましょう。もちろん、寝床でスマートフォンを見るのは厳禁です。
6.「就寝中、エアコンはタイマーを活用」
エアコンのつけっぱなしは、先ほど述べた睡眠時に起こる体温の変化を妨げ、眠りの質を下げる原因になります。タイマーを活用し、エアコンをつけたままにしないことが大切です。
奈良女子大学生活環境学部教授の久保博子氏は、夏に薄着でタオルケット程度の少ない寝具を使う場合は、26~28℃ぐらいの室温が快眠につながるとしています。タイマーは就寝3時間後にオフになるように設定するとよいとのこと。
一方で、冬の寒い時期は設定温度を18~20℃にするといいと、杏林大学名誉教授の古賀良彦氏は述べます。タイマーは2時間後にオフ、そして起床1時間前にオンになるよう設定するのがおすすめだそうですよ。
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定期的に睡眠効率を計算して数値が高まっているのを実感できると、睡眠マネジメントに対するモチベーションがよりいっそう高まりますよ。ぜひ、パフォーマンスアップのために実践してみてくださいね。
(参考)
裴英洙(2018),『一流のパフォーマンスアップ習慣: できる自分に瞬間で戻れる!』,学研プラス.
東洋経済オンライン|「集中力の続かない人」は睡眠を軽視している
NIKKEI STYLE|すべての疲れは「脳の疲れ」 脳疲労をためない新習慣
NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター|ADHD(多動性症候群)
快眠タイムズ|【睡眠と体温の関係性】仕組みを理解して熟睡を
ダイキン工業株式会社|熱帯夜の困りごとと解決法
CanCam.jp|寝るときの暖房はこれがベスト!エアコンメーカーに聞いた、冬の睡眠の質を上げるコツ
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。