あらゆる端末からアクセスできるデジタルのスケジューラーの利用がスタンダードなものとなり、以前は予定管理の主役だった「手書きの手帳」を手放す人が増えています。
しかし、手帳評論家の舘神龍彦さんは、「手帳の用途は予定管理だけではない」と語ります。「仕事の質を上げる」という観点から、舘神さんがおすすめする手帳の使い方を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)
株式会社アスキー勤務を経てフリーのライター・編集者。手帳評論家・デジタルコンサルタント。手帳に関して、その歴史的な由来から構造、情報整理ツールとしての側面などを多角的に考察。自らはビジネスマン向け手帳をつくらず、ユーザーひとりひとりにとってどのような手帳がベストなのかを考察・提案する。また、文具メーカーのプロモーションや製品開発にもアドバイスしている。自らも手帳評論家としてメディア出演も多い。著書に『凄いiPhone手帳術』(エイ出版社)、『手帳と日本人』(NHK出版)などがある。
紙の手帳が思考を深め、対人関係を改善させる
手帳というと、予定管理やその振り返りに使っている人が多いと推測します。しかし、手帳はもっと幅広い用途に使えます。たとえば、自らの思考を深めることだってできるのです。
自分の考え方や感じ方といったものには個人によりそれぞれ癖がありますが、それを自覚できている人は多くありません。そこで、「なんらかの出来事や情報に対して自分がなにを考えてどのように受け取ったか」をメモしてみましょう。
すると、「こういうことが起きると自分はいつもこういう考え方をしているな」と自覚できます。つまり、自分が収まっている思考の枠が見えてくると、「こんなふうにも考えられないだろうか」という発想に至り、思考の幅を広げたり思考を深めたりできるのです。
あるいは、このメモが対人関係の改善につながることも考えられます。対人関係の悩みは多くのビジネスパーソンが抱えています。しかし、先の考え方や感じ方の癖と同じように、「なんとなく自分と合わない」と、苦手な人が苦手な理由をきちんと自覚できていないのもよくあるケースです。
そこで、苦手な人と会ったときに残したメモから、「この人の、こういった物言いが苦手なのかもしれない」といったことが見えてくれば、「今後はこんな対応をしてみよう」「同じような物言いをされたら、いったんスルーしてみよう」というような自分なりの対応策を思いつくことだって可能です。
スマホ最大のデメリットは、集中力の低下
もちろん、これらのメモはスマホのメモアプリなどデジタルツールにだってできます。しかし、私は紙の手帳を使うことを強くおすすめします。なぜなら、スマホなどのデジタル端末を使うと、集中力が著しく阻害されてしまうからです。
スウェーデンの精神科医であるアンデシュ・ハンセンのベストセラー『スマホ脳』(新潮社)を読んだ人も多いと思います。この本は、スマホを使うことの数々の弊害について科学的なエビデンスを提示しながら紹介しています。その弊害のひとつに、集中力の低下があるのです。
ただ、科学的なエビデンスなど知らずとも、このことについてはみなさん自身がよく感じているのではないでしょうか。なんらかの目的があってスマホを見ようとしたのに、各種SNSやニュースアプリからの通知が気になって、本来の目的を果たす前にSNSをチェックしたり、仕事とも自分ともいっさい関係のない芸能ニュースを見てしまったりした経験は誰しもにあるはずです。
それこそ、先の例のように自分の思考を深めようとしている、あるいはこれまでに記録したアイデアメモを見ながら仕事の企画を練るような、高い集中力が必要とされる場面では、スマホにひっきりなしに届く通知は邪魔なものでしかないのです。一方、紙の手帳であれば、通知が届くことはいっさいありません。高い集中力を保てるというわけです。
ガジェットとしての利便性は手帳のほうが上
しかも、紙の手帳の場合、スマホと比べて自由に書ける点も大きなメリットです。そもそも、スマホの面積は手帳と比べて小さなものです。私が使っているiPhone12の画面サイズは68mm✕140mm程度。これに対してA6サイズの手帳は105mm✕148mmで、見開きで使えば210mm✕148mmとその差はさらに広がります。
新規の企画を練るなど思考する場面でも、その大きなサイズのなかでキーワードを丸で囲んだりキーワードどうしを線でつないだり、あるいは気になることを新たに書き込んだりと、思うがままに紙面を使えます。
また、単純に物忘れを防ぐためにも紙の手帳が有効です。なにかを忘れてしまうのは、メモを残しておかないからです。
これが、スマホの場合にはやりづらいのです。紙の手帳であれば、その場ですぐに開いて書き込むことができます。スマホの場合、ロックを解除してアプリを立ち上げてメモモードにして……など、どうしても手間がかかります。そうして、億劫に感じてメモをしない、結果的に忘れるということになるのです。
別の例でいえば、外出先で電話を受けてメモをするような場面をイメージしてみてください。スマホでメモする場合、スピーカーフォンにしてメモアプリに書き込む、あるいは会話を録音してあとで聞きながらメモアプリに書き込むといった方法もあるかもしれません。
でも、やはり億劫ですよね? 手帳やメモ帳なら、通話しながらその場でメモができるのですから、ガジェットとしての利便性がシンプルに手帳のほうが上だと私は考えているのです。
【舘神龍彦さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。