「自分はあまり集中力がないほうだ」
「最近、仕事のミスが多い」
「複雑なことを考えるのは面倒」
「難しい問題には目を背けたくなる」
仕事や勉強へのやる気はあるのに、いざ向き合おうとすると集中力が発揮されなかったり、複雑な問題に直面すると投げ出したくなったりする人は、認知機能が低下しているかもしれません。
今回は、認知パフォーマンス(認知行動能力)を下げてしまう要因をご紹介。身に覚えがあるようでしたら、ぜひ改善してみてくださいね。
「認知」とは?
「認知」とは、何かについて知識を得たり、物事を判断したり、情報を集めて処理したり、記憶を結びつけたりするための機能のこと。勉強や仕事においては、わからないことを学んだり、やるべきことを決めたり、適切なスケジュールを組んだり、物事の問題点を見極めたりと、さまざまな局面で欠かせないものです。
この「認知」は、情報のインプット(認識)はもちろん、アウトプット(インプットに対してどのように理解し、行動するか)も含みます。外界で起きていることを認識し、それに応じた行動をとる――毎日当たり前にやっていることかもしれませんが、これも認知の力が関係しているのです。
たとえば、仕事でトラブルが起きたときに瞬時に適切な対応ができる人は、認知パフォーマンスが高いといえるでしょう。いま起きているトラブルをいち早く認識し、自分のもつ知識や経験を総動員し、適切な態度と行動で問題を解決していく――認知機能が低下していると、このような行動は難しくなってきます。
認知パフォーマンスが低下する4つの要因
仕事・勉強・人生で達成したい目標など、あらゆる場面で鍵となる認知パフォーマンスを低下させないためには、どうしたらよいのでしょうか。以下で、認知パフォーマンスを下げてしまう要因を4つご紹介しましょう。
【1】「水」が足りていない
体内の水分が少しでも足りていないと、認知機能が下がることが判明しています。ジョージア工科大学とイーストカロライナ大学の共同研究によると、水分量が足りていないと、ケアレスミスが出てくるようになり、脱水が酷くなるほど、ミスが増えるようです。
さらに、体重に対して2%以上、適切な水分量より少なくなると(目安として、何も飲まずに数時間運動した場合、このような症状が出ます)、細かいミスだけでなく、難しい問題(数学や、論理的な問題など)を解く能力も低下してしまうそう。簡単な問題よりも、難しい問題を解くことのほうが、脱水症状による影響を大きく受けるのだとか。
研究に携わったミラード・スタッフォード博士によると「長時間の会議で集中すること、車を運転すること、工場で単調な作業をすること」などあらゆるシチュエーションで、脱水から来る悪影響が見られたそう。運動はあまりしないという人も、こまめに水分補給することをおすすめします。
【2】常に「スマートフォン」を肌身離さず持っている
勉強中や仕事中もスマートフォンをそばに置いている人は、認知パフォーマンスに悪影響を与えている可能性があります。それを証明するのが、ラトガース大学の研究です。
実験内容:学生118名を【スマートフォン(もしくは、タブレットやノートPC)を持ち込んで授業を受けるグループ】と、【それらの持ち込みが禁止のグループ】の2つに分ける
結果:スマートフォン類の持ち込みを禁止されたグループのほうが、学期末のテストで好成績を収めた。
複数のことに同時に集中しようとすることで、認知機能が低下したと考えられます。スマートフォンに気をとられていたグループのほうが、禁止されていたグループよりも、授業の内容が長期的な記憶に定着しづらかったようです。
また、複数のことを同時にこなすマルチタスキングも、学習の阻害につながっています。授業を聞くこととスマートフォンを見ることは、一見同時にできそうですが、脳は別々のタスクとして瞬時の切り替えを繰り返しているそう。結局、どちらのタスクにも集中することが難しくなり、学習に悪影響が出るのだとか。
仕事中にスマートフォンが気になったり、通知によって意識がそれたりすることで、集中力や学習能力が阻害されてしまうのは、ビジネスパーソンも同じ。電源を切る・別の部屋に置いておくなどの工夫をすることをおすすめします。
【3】「睡眠」が足りていない
認知機能に大きな影響を与えるのが睡眠です。慢性的な睡眠不足はもちろん、たった1日の睡眠不足でも認知パフォーマンスは下がってしまうよう。
カリフォルニア大学とテルアヴィヴ大学が共同で、脳細胞と認知の関係を研究したところ、睡眠不足の被験者の脳細胞は、タスクを行なう際に反応も動きも遅くなったのだとか。さらに、慢性的な睡眠不足になると、認知機能が衰えるのに加え、記憶を定着させる能力も減退するそう。
脳は、寝ているあいだに記憶を整理し、不要な記憶を排除して重要な記憶を脳に定着させる作業をします。睡眠不足だと、これらができなくなるのだとか。寝る時間を削ってでも勉強や仕事をすることは、本末転倒と言えますね。毎日きちんと睡眠をとることを心がけましょう。
【4】タスクをこなすときに「終わり」を決めていない
仕事や勉強をするとき、「○時には終わらせる」「○ページまでやったら終わり」など終わりを決めていますか? テルアヴィヴ大学の研究によると、このように終わりを決めることによって認知パフォーマンスが上がるそう。
- 被験者の64人の学生らを【あと何問で課題が終わるかを提示されながら解くグループ】と【何も言われないまま課題を解くグループ】に分ける
- ストループ課題(注意力を測るときによく使われるテスト)を受けてもらう
結果:【あと何問で課題が終わるかを提示されながら解くグループ】のほうが、タスクをこなすスピードと正確性の両方が上がった
長時間仕事や勉強をしていると、集中力ややる気が低下してしまいますよね。それは、同じ作業をすることによって、脳が疲れてくるから。しかし、「あとどれくらいで終わるのか」がわかると、脳細胞レベルで働きがよくなり、その結果、認知のパフォーマンスが上がるのだとか。
仕事や勉強をするときは、ぜひ「終わり」を設定して進めてみてくださいね。
***
心理学用語で使われる「認知」という言葉は、あまり耳なじみがないかもしれません。しかし、私たちの仕事や勉強を、円滑に効果的に進めるにあたって、重要なポイントとなります。「最近、頭の働きが悪い……」と感じる人は、ご紹介した対策を実践してみてください。
(参考)
Weblio|認知
Very Well Mind|The Basics of Cognition and Mental Processes
National Center for Biotechnology Information|Exercise-heat stress with and without water replacement alters brain structures and impairs visuomotor performance
Taylor and Francis Group|Dividing attention in the classroom reduces exam performance
Nature Medicine|Selective neuronal lapses precede human cognitive lapses following sleep deprivation
Mentalist DaiGo Official Blog|切れかけたやる気と集中力を復活させる方法
Science Direct|Cognitive performance is enhanced if one knows when the task will end
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。