もしも社会人のあなたが、“いまよりもっと賢くなりたい” と願うなら、あらゆる知見が詰まった数々の本が、大いに助けてくれることでしょう。しかし、そう思うだけでなかなか読書を始められないなら、まずは “自分の本棚を見直し、改善してみる” といいかもしれません。その理由とともに、本棚づくりのヒントを紹介します。
「読書」と「賢さ」の関係
元マイクロソフト社長で、現在は書評サイトのHONZ代表と、株式会社インスパイア(事業開発支援)のファウンダー顧問を務める成毛眞氏は、著書『本棚にもルールがある』のなかで、
本を読めば読むほど、昨日まで知らなかったことを知ることができる。多くの本を読めば、本を読まない平凡な人とは違った人間になれる。私が付き合っている優れた経営者たちや、クリエイティブな人間に、本を多く読んでいない人間はいない。
(引用元:成毛眞著(2014),『本棚にもルールがある』,ダイヤモンド社.)
と伝えています。また、ライフネット生命保険株式会社の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏は、
人間が賢くなる方法は「人」「本」「旅」に尽きる
(引用元:Travel Journal Online|出口治明APU学長が語る人生における人×本×旅の必要性)
と言います。
しかし、慶應義塾大学教授の中室牧子氏は、児童の学力に関する文部科学省の報告(2013年)を挙げ、
この報告書で指摘されているのは、あくまで読書と学力の相関関係であって、因果関係ではないことに注意する必要がある。つまり、読書をしているから子どもの学力が高い(因果関係)のではなく、あくまで学力が高い子どもが読書している(相関関係)にすぎない可能性があるのだ。
(引用元:リクルートマネジメントソリューションズ|読書は子どもの学力を上げるのか?)
としています。たしかに成毛氏が述べた「優れた人間に本を多く読んでいない人間はいない」といった意見は、その側面を表しているとも言えますが――
成毛氏と出口氏の両者が述べた多くの言葉は、読書が未知を既知に変える活動であり、賢くなる方法のひとつであることを示しています。しかも、読書はいつでもどこでも、誰でもすぐに始められるのです。そんな方法を取り入れない手はないですよね。
それでも読書を始められない理由
しかし、本を読もうという気持ちがあっても、なかなか行動に移せない場合があります。
顧客体験価値の向上を目的に、デジタルの領域でマーケティング課題のソリューションを提供する株式会社オノフが、全国の20歳~69歳の男女を対象に「読書習慣」に関するインターネット調査(2020年9月8日~9月9日)を行なったところ、読書しない理由の上位は以下のとおりであったそうです。
- 「忙しくて読書の時間をとれないから」:25.0%
- 「読むのに時間がかかるから」:20.4%
- 「他の趣味に時間を使いたいから」:19.6%
(参考およびカギカッコ内引用元:株式会社オノフ|『読書週間』本を読んでいますか?)
読書には、時間を要するイメージがあるからでしょうか……。速さと効率を求める現代の時間感覚には、そぐわない部分もあるのかもしれません。しかし、『最強の働き方』(東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)の著者であるムーギー・キム氏は次のように述べています。
忙しければ忙しいほど、読書量を確保している人が世の中には多い。
(引用元:東洋経済オンライン|読む本でバレる「一生、成長しない人」の3欠点)
だとすれば、“時間がないから読書できない” はイメージだけの問題かもしれません。つまり、どんなに忙しくても、(たとえば数分のスキマ時間だけ本を読み重ねるなど)何かしら工夫をすれば、物理的に読書を取り入れるのは可能だということです。
それならきっと、“まずはやってみる” ことが最善の方法です。なぜならば、私たちは活動でエネルギーを増やすことができるからです。
活動すればエネルギーが増える?
元ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員で、早稲田大学名誉教授・作家・社会心理学者の加藤諦三氏は、著書『行動してみることで人生は開ける』の前書きで、「ごくごく軽い気持ちで、新しい行動をしてみることがきわめて大切」だと説いています。
そして、「やれることからやってみる」こと、「まず “一歩” を踏み出すこと」をすすめ、さらには「活動するから元気になるのであって、エネルギーがないから元気になれないのではない。エネルギーを使わないから気がめいってくるのである」と述べています。同氏いわく、
人間のエネルギーは貯金ではない。使ったらなくなるものではなく、使えばふえるものである。
(カギカッコ内含む引用元:加藤諦三著(1999),『行動してみることで人生は開ける』,PHP研究所.)
とのこと。そう言えば――私たちの細胞内にあるミトコンドリア(細胞内小器官)について、こんな説明があります。
運動を行う際に生体は筋肉を収縮させるための多くのエネルギーを必要とします。このエネルギーの大部分が、ミトコンドリアによる有酸素性エネルギー代謝により作り出されます。継続的な運動(トレーニング)は、骨格筋や心筋におけるミトコンドリアの適応をもたらし、更なるエネルギー供給や疲労耐性を可能とします。
(引用元:e-ヘルスネット(厚生労働省)|ミトコンドリア)
つまり、私たちの体内には活動で使うエネルギーを、活動によってつくり出すメカニズムがあるわけです。
もちろん上記の引用は “運動” について述べられたものですが、加藤氏の言葉(活動するから元気になる・エネルギーは使うと増える)通りのことが、細胞レベルで行なわれているのも確かだと言えるはずです。
まずは自分の本棚を見直すといいワケ
これまでの内容から、
- 読書は賢くなる方法のひとつである
- “読書する時間がない” はイメージだけの問題
- 活動すればエネルギーが増える
といった可能性を見いだすことができました。これらをふまえると、“まずは本を読み始めてみる” ことが最善ですが――先のインターネット調査(株式会社オノフ)結果にあったとおり、読書には少なからず時間がかかるイメージがあります。
だとすれば、読書習慣が身についていない人の、行動第一歩めにその活動をもってくるのは、やはりハードルが高すぎるのではないでしょうか。
そこで、冒頭で述べたように、まずは “自分の本棚(あるいは本を置くスペース)を見直し、改善してみる” ことが浮上するわけです。本を読む行為より、ずっと作業的で、とっつきやすいのではないでしょうか。大切なのは、まずやってみること。極端な話、「ここに本を置こう」と30センチ四方のスペースを空けるだけでもいいのです。
そうして、たとえばインテリアとしても見栄えがいいなど、魅力的な受け皿(本を置くスペース)ができれば、なんだか本を置かずにはいられなくなり、また、本をその魅力的な受け皿に置けば、本を読まざるを得なくなるかもしれません。
本棚づくりのコツ
前出の成毛氏は、いろいろと試したのちに自身の「理想の本棚」を確立したそうです。その内容と、ほかの知見も参考にしながら、本棚づくり(および本を置くスペースづくり)のコツを3つ紹介しましょう。
1. 自分の頭のなかだと考え、見やすく並べる
成毛氏いわく、本のタイトルが見にくい本棚は機能しないとのこと。逆に、スッキリと並んだ見やすい本棚を眺めていると、新しい発想が生まれ、積ん読本まで読むのが楽しみになってくるのだとか。
また、自分の興味や知識が見えてきたり、強化すべきジャンルや、排除すべき分野にも気づけるとのこと。その理由は、見やすい本棚によって自分の頭のなかを可視化できるからです。
(参考:成毛眞著(2014),『本棚にもルールがある』,ダイヤモンド社.)
ただ本棚を見やすくするだけで、これだけの効果が生まれるのですね。加えて言えば、“これは自分の頭のなかだ” と思いながら本を並べたり眺めたりすると、本と本棚に対する愛着も湧いてくるのではないでしょうか。それにともない読書意欲も高まるはずです。
ちなみに――
本棚がない場合でも、たとえば背文字がよく見えるよう壁にくっつけて、ズラリと床に並べたり、
上からも横からも取り出せる、丈夫な透明の収納ケースなどに入れて並べたりしてもいいかもしれません。どんなかたちにしても、自分の頭のなかだと考え、見やすく並べることがおすすめです。
2. 本棚の余白で、知的欲求を刺激する
また、成毛氏にとって理想の本棚は、見やすいだけでなく「2割の余白があること」なのだそう。この余白を成毛氏は、「自分の成長の余白の象徴だ」と表現し、人それぞれの成長の伸びしろに重ね合わせています。また、その余白があることで「知的好奇心が湧くに違いない」とのこと。
(参考およびカギカッコ内引用元:同上)
そこで、この “余白” にフォーカスしてみると、人間の脳は空白を嫌うという事実が浮かび上がってきます。たとえば法医学心理学者・鑑定人のスコット・フレイザー氏は、著名人および知識人のスピーチを配信するTEDで、
たとえ至近距離からの目撃であっても、人間の脳は空白を嫌うが故に、見てもいない「記憶」を造りあげてしまう
(参考:TED Talk|スコット・フレイザー: なぜ目撃証言はあてにならないか)
という事実を力強く語ったそうです。
また一方では、コーチングのプロで株式会社チームダイナミクス代表取締役の三浦将氏が、自身の著書のなかで
脳科学的に「脳は空白を嫌う」といいます。脳は出された問いに対して、答えられないままの空白の部分を残しておくことを嫌うのです。だから、常日頃から自分に問いかけることで、あなたの脳は、その答えを出すために動き続けます。
(引用元:三浦将著(2017),『才能スイッチ』,クロスメディア・パブリッシング.)
と述べています。それならきっと本棚の余白に対しても、私たちは常に創造し、新たな知識(答え)を求めようとするに違いありません。それはもはや、本棚の余白によって生じる知的な欲求と言ってもいいのではないでしょうか。それが成毛氏の言う “成長の伸びしろ” でもあるわけです。
どんなかたちの本棚(本を置くスペース)にしても、必ず余白を設けるようにすれば、知的欲求が刺激され、あなたの成長を後押ししてくれるはずです。
3. 並んだ本を見る際の、視線を考慮して並べる
同志社大学免許資格課程センター 准教授、佐藤翔氏が行なってきた「書架と図書館を対象とする、視線追尾研究」によると、人が本棚のなかから「自身が欲しいと思う図書を1冊、選択」しようとすると、下の画像のように視線が両端いっぱいにジグザグと動いて、下方へと向かうことがわかったそうです。(例:左→右→下に行く→右→左→下に行く→左→右の繰り返し)。
(※上の画像は佐藤氏の論文内写真を参考に、筆者が入手した画像に加工したもの)
もちろん図書館と自分の家の本棚ではだいぶ違うかもしれませんが、本の量が増えてきたら、こういった目の動きで本を探すことになるかもしれません。
ちなみに図書館では、棚ごとに左から右に向かって配列するのが一般的なのだそうです。実際の、人の目の動きとは違っていたのですね。
また、
実図書館環境において、書架の注視時間の多くは上段に費やされ、下段の図書はほとんど閲覧されていない
とのこと。具体的には(平均すると)1段目:19.3%、2段目:20.9%、3段目:26.1%、4段目:16.4%といった閲覧時間になっており、5段目以下の閲覧時間は極端に下がっていたそうです(海老名市立図書館での実験)。ちなみに被験者の身長との関連はなかったとのこと。
(参考および引用元:佐藤翔(2018),「人は図書館と本棚をどう見ているのか?」,Musa 博物館学芸員課程年報.第32号,pp.47-52.)
上記を参考にすると、
- 本を並べるときはジグザグ視線を意識
- 未読・読みかけ・いま気になる分野を上段に
- 完読した保存版を下段に置く
といったかたちがいいかもしれませんね。
***
「本を読んで賢くなりたい、でも、なかなか行動できない」という人に、 “まずはやってみる” ことの重要性と、行動の第一歩として自分の本棚を見直し、改善してみることのすすめ、およびそのコツを紹介しました。いつの間にか読書に夢中になって、賢い人だと噂されるようになっているといいですね。
(参考)
成毛眞著(2014),『本棚にもルールがある』,ダイヤモンド社.
三浦将著(2017),『才能スイッチ』,クロスメディア・パブリッシング.
加藤諦三著(1999),『行動してみることで人生は開ける』,PHP研究所.
佐藤翔(2018),「人は図書館と本棚をどう見ているのか?」,Musa 博物館学芸員課程年報.第32号,pp.47-52.
Travel Journal Online|出口治明APU学長が語る人生における人×本×旅の必要性
リクルートマネジメントソリューションズ|読書は子どもの学力を上げるのか?
TED Talk|スコット・フレイザー: なぜ目撃証言はあてにならないか
東洋経済オンライン|読む本でバレる「一生、成長しない人」の3欠点
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