「年収5,000万円を超える人は、どんな頭の使い方をしているんだろう?」
「NYで活躍する一流ビジネスパーソンは、もともと地頭がいいに違いない!」
そう思ったことはありませんか。
圧倒的な年収を得ているNYのビジネスパーソンは、自分とは頭のつくりも使い方も違うはず——そう感じる人もいるかもしれませんが、じつはNY流「地頭力」はとってもシンプル。今日から実践可能なちょっとした習慣で、あなたも地頭力を高めることができます。
今回は、私がモルガン・スタンレーNY本社で勤務していた頃に学んだ、NYで活躍する一流ビジネスパーソンの「地頭力とその伸ばし方」をご紹介します。
「ブック・スマート」VS.「ストリート・スマート」
NY流「地頭力」とは、どのような力を指すのでしょう。
じつは、2000年代初頭までのNYの金融業界では、「地頭力」に当たる言葉は存在しませんでした。代わりに使われていたのが、”Street Smart”(ストリート・スマート)という言葉。対となる表現は、“Book Smart”(ブック・スマート)です。
“Street Smart”(ストリート・スマート)とは......
- さまざまな経験を通して知恵を集め、現場からの気づきによって実践的に問題解決を行なう人材
- 「どのように」にしたら(How)課題を解決できるのか、ゴールから逆算して施策を導き出すタイプで、困難な課題にも瞬時に対応できる
“Book Smart”(ブック・スマート)とは......
- 文字通り高学歴で、理論などの豊富な知識に基づいて問題解決を行なう人材
- 課題に対して、学んだ知識と照らし合わせて「なぜ(Why)」そうなるのか、「なに(What)」がそのような状況を生んでいるのか、という観点から考察するタイプ
外資金融では、ブック・スマートであることが採用の条件。しかし、ブック・スマートであるだけでは、ビジネスで成功できないのも事実です。仕事で成果を出すには、ストリート・スマートになることが必須。実践的な思考力のある「ストリート・スマート」になることこそが、NY流「地頭力」を伸ばすことなのです。
モルガン・スタンレー流「地頭力UP」3つの日常習慣
ブック・スマートになるためには、膨大な量の勉強が必要です。しかし、ストリート・スマートになら、日々のちょっとした習慣でなることができます。難しく考える必要はありません。
ストリート・スマートになるのに欠かせないのが「クリエイティブな発想力」。クリエイティブな発想力をつけるには、以下の3つが重要になります。
- 相反する立場から、新たな気づきを得る
- 常識にとらわれず、前提条件を取っ払って考える
- 多角的な視点で、想像力と考察力を伸ばす
そして、これらを達成するために効果的なのが、以下3つの日常習慣。
- 相反する立場から、新たな気づきを得る
→「新聞の相関読み」 - 常識にとらわれず、前提条件を取っ払って考える
→「ゼロイチ・ブレインストーミング」 - 多角的な視点から、想像力と考察力を伸ばす
→「主語転換ゲーム」
ひとつずつ説明しましょう。
1. 新聞の相関読み
ストリート・スマートに近づく1つめのコツは「相反する立場から新たな気づきを得ること」。そのためには、日頃からさまざまな新聞記事に目を通し、世のなかの事象に相関関係を見いだすことが大切だと、モルガン・スタンレーの先輩から教わりました。
モルガン・スタンレーでの下働き時代に私がやっていたのは、英字新聞「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」の読み合わせ。先輩に付き合ってもらい、毎日出社前に朝食を食べながら、新聞記事に目を通していました。
当時実践していた新聞の読み方、名づけて「相関読み」の4ステップはこちら。
【ステップ】
- 毎日必ず読む箇所を決める
- 記事内の「動きを表す表現」に着目する
(例:急上昇、急増、上昇、増加) - 2の関連記事から、2と逆の表現を探す
(例:急落、急減、下降、減少) - 2と3の情報をもとに、異なる視点を組み合わせて新たなアイデアを導き出す
【例】
- 新聞の Stock(株式)や Bond(債券)セクションを読む
- 「アメリカ国債の価格が急上昇」( “The Price of U.S. 10Y treasury has surged ...... ” )という記述に着目する
- 関連記事にて「トウモロコシの価格が急落」( “Price of Corn Futures traded at CME plunged ...... ” )という記述を見つける
- 「アメリカ国債を買ってトウモロコシを売るという流れがあるのではないか」というアイデア(※)を導き出し、それを反映した金融商品を提案する
※1990年代当時の場合。
新聞は情報量が多いため、ただ読むだけだと情報の渦に巻き込まれ、そこから新たな価値を生み出すのは難しいもの。
「相反する立場から新たな気づきを得て価値を創造する」という目的をもって新聞を読めば、まったく新しい視点で、ビジネスにつながるアイデアを導き出しやすくなるでしょう。
2. ゼロイチ・ブレインストーミング
ストリート・スマートに近づく2つめのコツは「常識にとらわれず、前提条件を取っ払って考える」こと。そのためには、ゼロからのブレインストーミングが大切です。
「ゼロイチ・ブレインストーミング」と称し、その4ステップをお教えしましょう。
【ステップ】
- ゴールを明確にする
- ゴールを達成するために、常識の枠を取り外して考える
- 2の中から直感的に「おもしろい」と思うアイデアを選ぶ
- どのようにすれば3のアイデアを実現できるか、具体的な方法を考える
2では、リソースや法的制約などの制限は考慮に入れずに、自由に思考をめぐらせていきます。3でも、現実的に実行可能か否かはまだ考えません。なぜなら、現状の枠内で考えていては、常識を覆す発想はできないから。
必要なのは、既存の枠を取っ払い、ゴール達成への道のりを探る「柔軟さ」。NYの金融街における例を挙げましょう。
【例】
アメリカの社債の償還期間(債務を払い終わるまでの期間)は通常1〜30年間。ところが以前クライアント企業に、100年間にわたり返済義務のある社債発行を提案した投資銀行家がいました。
普通に考えると常識はずれの発案ですが、該当企業が100年間存続すると見込んで100年債の発行を提言し、実行したのです。 当時の金利水準と企業の成長性から、従来の枠にとらわれない発想で提案に行きついたのでしょう。
事実、その企業の社債は相当人気が高く、飛ぶように売れていきました。ストリート・スマートらしい柔軟な発想で既存の枠組みを取っ払い、成功を収めた一例です。
現実のなかから解決策を探すだけでは、時には解消できない課題もあります。そんなときは、ゼロベースでのブレインストーミングが効果的。
常識に縛られず、ゼロから新たな価値を生むためにアイデア出しをして、その後にアイデアを実現するための現実的な方法を探っていきましょう。紙に書きながら、または他者と対話しながら進めるのがおすすめです。
3. 主語転換ゲーム
ストリート・スマートに近づく3つめのコツは「多角的な視点で想像力と考察力を伸ばすこと」。そのためには、常日頃から主語を変えて物事をとらえ直す姿勢が大切です。
そんな「主語転換ゲーム」の3ステップはこちら。
【ステップ】
- 日常生活で行動を起こすたびに、自分の立場を明確にする
- 1とは逆の立場を挙げる
(例:消費者→生産者、購入者→販売者、従業員→経営者) - 2を主語にして、2の思考と、それが現実にどう反映されているかを想像する
- 2の主語になったつもりで、自分ならどう商品やサービスに関わるかを考察する
【例】
1. 以前インスタグラム上で発見し、ずっと気になっていたフルーツサンドイッチを店頭で見つけたので、買って食べた(=消費者)
2. フルーツサンドイッチの開発・生産・販売を担う「果物屋」の立場を挙げる
3. 果物屋はなぜ数あるマーケティング手法のなかからインスタグラムでの発信を選んだのか、このフルーツサンドイッチをどのように開発したのか(フルーツを選ぶ基準は? カットの仕方やクリームの甘みを決めた経緯は?)などを想像する
4. 自分が果物屋ならば、どのようなフルーツサンドイッチをつくってどう差別化するか、どのように認知を広げてどう売り上げを伸ばすかを考える
主語を変えて、さまざまな立場から物事をとらえる習慣をつけることで、いままでとは異なる視点が得られます。続けていくと、多様な人々の思考を思い描く「想像力」、多角的に物事を分析する「考察力」もついてくるでしょう。
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外資金融の地頭力は、「ストリート・スマートな思考力」。柔軟に物事をとらえ、創造的に解決策を見いだしながら、ゼロイチで新たな価値を生み出すことで、「ストリート・スマート」に近づくことができます。
みなさんもぜひ、今回ご紹介した方法を日常生活に取り入れてみてくださいね。
【ライタープロフィール】
Stephen Pong(スティーブン・ポング)
青山学院大学卒。モルガン・スタンレーNY本社に新卒で入社し、東京支店でも勤務。リーマン・ブラザーズに移り、東京支店およびNY本社でキャリアを重ねたのち、メリルリンチ日本証券にて初代WEBマネージャーを務める。その後、ライブドアへ転職し、WEB事業部・戦略コンサルティング事業部(電通へ出向)・ファイナンス事業部にて勤務。現在は独立し、ビジネスパーソン向けに外資系企業への転職支援を行なう。
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