あなたは、外資のコミュニケーションで一番重要なことはなんだと思いますか?
『外資で働くための「一流ワークハック術」』と題してスタートした本連載。第2回となる今回は、外資でのキャリアをハックするコミュニケーション術についてお伝えします。
ビジネスコミュニケーションで一番大切なこと
外資のコミュニケーションで一番大切なこと——それは、自ら主体的に「価値をつくり出す」発言をすることです。なぜなら、コミュニケーションを通して価値ある情報を生み出せれば、おのずと自社の利益も上がるから。価値ある人材とは、利益を出せる人材なのです。
あなたの発言には、どのような “added value” があるか。つまり、あなたが話すことで、どのような付加価値が加わり、どれくらいの利益につながるのか。外資のコミュニケーションでは、ここしか見られていません。
言えたら即、高評価! 外資の会議で一目置かれる発言
難しく聞こえるかもしれませんが、価値を生み出す発言は誰にでもできるもの。駆け出しの新人を例にとって説明しましょう。
駆け出しの新人は、クライアントとの会議でほとんど発言できません。なぜなら新人は、会議における自分のミッション(求められている使命)を見落としているから。そこでやるべきなのは、「自分に何が求められているのか」を事前に上司に確認しておくこと。会議における自身の役割がわかれば、おのずと発言の方向性と内容が決まります。
たとえば、誰がいつまでに、どのような成果物を完成させるのか。これはとても重要な点ですが、会議が白熱すればするほど、明確化せずにどんどん議論が先に進んでしまいがちです。こんなときに新人に求められているのは、以下の発言を挟むこと。
“Excuse me, but I think we should clarify several things like, ownership, due date and output condition for this practice.”
(すみませんが、本件について、責任者は誰で、いつまでに、どのようなアウトプットを完成させるのかを、明確にしておいたほうがいいと思うのですが)
わずか数秒で完結するこれらの簡単なフレーズを言えるかどうかで、周囲からの評価が大きく変わります。
新人は、白熱する討議の渦中には入れません。逆の言い方をすれば、議論を外から冷静に見られるということ。このように客観的な視点をもつ存在がいることが、チームやクライアントにとっての安心感につながるのです。
さらに会議の終わり間際に、討議内容をまとめて全体の確認をとるのも、新人に求められていることのひとつ。その日話した事柄を決定事項と未決事項に分け、未決事項における今後の動きとその責任者を慎重に確認していきます。たとえばこんなフレーズがよいでしょう。
Let me go over with what we’ve discussed today.
(本日の討議内容を確認させてください)
We’re clear on the following issues: A, B, and C.
(A、B、Cは決定事項です)
But we still have some open issues, that are: D, E, and F.
(しかし、D、E、Fについては引き続き検討が必要です)
For D and E, Allison will follow up and for F, Jonathan is supposed to follow up
(DとEについてはアリソンが、Fについてはジョナサンがフォローすることになっています)
Have I missed anything?
(なにか見逃していることはありませんか?)
Or anything else to add?
(他に加えるべきことはありますか?)
会議終了時に記憶に残っている事柄は、参加者の立場により異なります。そのため、討議内容全体をまとめて再確認する作業は、議論を外から見てきた新人が行なうべきなのです。
“Add value” できる人材かどうかは、会議での発言からすぐにわかります。外資でキャリアを築きたいと思ったら、自分に求められている役割を把握したうえで、価値を生み出す発言方法を身につけることをおすすめします。
チームワークが円滑に! “Diplomatic Approach”
もうひとつ、コミュニケーションを通して価値を生み出す方法をご紹介しましょう。
外資ではチームワークが重視されます(第1回『モルガン・スタンレーの新入社員が最初の1週間で叩き込まれる5つのこと』参照)。そんな外資で仕事を円滑に進め、利益を上げるには、チームメンバーのモチベーションに気を配ることが必須。
意見の食い違いがあったとき、依頼した業務の成果が期待通りでないとき——トラブルが起きたときこそ、コミュニケーションによって価値を生み出せるかが問われます。話し方を工夫することで、メンバーの意欲を損なわず、こちらの期待している成果を出させるのが、ここでの価値です。
そのために外資では、感情をそのまま表現することはしません。特に、いきなりの「何やってんだ! バカやろう!」は禁句。感情にまかせて言いたいことを言うと、聞き手のモチベーションが下がるだけでなく、チームワークも乱れてしまいます。
大切なのは、相手に配慮した言葉選びをすることです。3つ例を挙げましょう。
- 会議で使う予定のテーブルが汚れているとき
✕ “Table is dirty.”(テーブルが汚れていますね)
◎ “Table is not clean.”(テーブルがきれいでないようですが) - 部下に依頼した仕事の成果に不満があるとき
✕ “I am unhappy with your job.”(あなたの仕事に不満を抱いています)
◎ “I am not entirely happy with your job.”(あなたの仕事のすべてに満足しているというわけではありません) - 上司に予算の増加を提案するとき
✕ “We need more budget.”(もっと予算が必要です)
◎ “We might need more budget.”(もっと予算が必要かもしれません)
1では “dirty(汚い)” というマイナス表現を直接使わず、「ポジティブな言葉を否定する」型に変換することで、好感度を上げています。2では全否定を部分否定に変えることで、3では断定を避けることで、発言のトーンを和らげています。
じつはこれらはすべて、 “Diplomatic Approach(外交的なアプローチ)” という、国家間の外交で使われるアプローチ。国際的な外交の場では、いきなり白黒をつけるような議論はしませんね。望まない戦争を避けるために、建設的な話し合いをするでしょう。それと同じやり方です。
外資では、チームワークを駆使して利益を最大限高めるために、常にチームメンバーのモチベーションに配慮した言葉選びが求められます。“Diplomatic Approach” は、外資でとても重要なコミュニケーションスキルのひとつなのです。
価値を生み出す「ハイパフォーマー」になるために
今回は以下のふたつの観点から、価値を生み出すコミュニケーション術をご紹介しました。
- 自分に求められている役割を把握し、チームやクライアントの利益につながる発言をする
- チームメンバーのモチベーションに配慮し、“Diplomatic Approach” に基づいた言葉選びをする
年収3,000万円以上を達成する外資のハイパフォーマーは、私たちには想像もつかないようなコミュニケーションスキルをもっているのではないか——こう思っている方もいるかもしれません。しかし、じつはそうではなく、彼らは価値を生み出すための話し方に長けているだけなのです。
いまからでも決して遅くはありません。ぜひ今日からこのふたつを意識して、日々の仕事に取り入れていってくださいね。
【ライタープロフィール】
Stephen Pong(スティーブン・ポング)
青山学院大学卒。モルガン・スタンレーNY本社に新卒で入社し、東京支店でも勤務。リーマン・ブラザーズに移り、東京支店およびNY本社でキャリアを重ねたのち、メリルリンチ日本証券にて初代WEBマネージャーを務める。その後、ライブドアへ転職し、WEB事業部・戦略コンサルティング事業部(電通へ出向)・ファイナンス事業部にて勤務。現在は独立し、ビジネスパーソン向けに外資系企業への転職支援を行なう。
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