現代人は抱えがち。脳の海馬を破壊する「慢性的な○○」の正体

慢性的なストレスを解消する科学的方法01

仕事の内容がいまいち合っていないような気がして、少しつらい……。
苦手な人と一緒に仕事をしなければならず、心が疲れる……。
このように、「慢性的なストレス」に悩んでいる人はいませんか?

その状況を放置し続けると、脳は多大なダメージを受けてしまうかも。今回は、慢性的なストレスが及ぼす悪影響を指摘しつつ、最新脳科学の知見から、有効な対処策をご紹介しましょう。

慢性的なストレスで脳の「海馬」が破壊される

日常的にストレスにさらされると、脳にどういった影響が及ぶのでしょうか。ワシントン大学で脳機能の研究をしているライアン・ボグダン准教授、およびアリゾナ州立大学で神経科学の視点からストレス研究をしているシェリル・コンラッド教授が指摘するのは、慢性的なストレスにより「脳の海馬が破壊される」ということ。

一般に、人間がストレスを受けると、脳の偏桃体が活性化して「ストレスに対処せよ」という指令が出ます。すると、副腎(腎臓の上にある臓器)からコルチゾールをはじめとするストレスホルモンが分泌され、自分の体を守ろうとします。

しかし、仕事内容が合わなかったり人間関係に問題を抱えていたりするなどして、慢性的にストレスを受け続けると、コルチゾールが過剰分泌されることに。結果、本来は脳で無害化するはずのコルチゾールが脳内にあふれ、海馬を中心とした神経細胞が破壊されてしまうのです。

海馬と言えば、記憶力をつかさどる部位ですよね。上司からの指示をすっぽかしてしまった……大事な話の内容を忘れてしまった……こんなふうに、仕事をするうえで欠かせない脳機能が、慢性的なストレスにより大きく阻害されてしまう可能性があります。

どう対処していけばいいのでしょうか?

慢性的なストレスを解消する科学的方法02

【対策1】「ストレスコーピング」で扁桃体の活性化を抑える

1つめの対策は、「ストレスに対処せよ」という指令を止めること、すなわち偏桃体を興奮させないことです。

ストレスのもと(=ストレッサー)にうまく対処しようとすることを「ストレスコーピング」と言います。心理的ストレス研究の権威であるリチャード・S・ラザルス博士らによると、ストレスコーピングは大きく2つに分けられるとのこと。

1つは「問題焦点コーピング」。ストレッサーそのものに働きかけて、それ自体を変化させて解決を図ります。たとえば、部署異動をしたものの性に合わずストレスを感じているという場合、もとの部署に戻れれば今のストレスからは解放されますよね。根本的な解決策とも言えますが、社内調整が必要で時間がかかるなど、自分ひとりではどうにもできない問題を含んでいるというデメリットも。

もう1つは「情動焦点コーピング」。ストレッサーに対する考え方を変えたり気晴らしをしたりします。根本的な解決には至らないかもしれませんが、実行に移すのが簡単であるため、問題焦点コーピングが難しそうな場合はこちらから取り組むとよいでしょう。過酷な状況で仕事をする宇宙飛行士のストレス対策の専門家である “宇宙航空医師” 緒方克彦氏が提唱する情報焦点コーピングのやり方を紹介しましょう。

1.「気晴らしリスト」をつくる

ストレスがかかったとき、どんな気晴らしをすれば気分がよくなるかをあらかじめリストアップしておきます。「旅行に行く」といった大きなものから、「おいしいものを食べる」「散歩をするといった小さなものまで含めて、なるべく多く挙げてみましょう。

2. ストレスの程度に合った気晴らしをピックアップして実行する

深刻なストレスを感じたら「とっておきの気晴らし」、軽度なストレスを感じたら「ちょっとした気晴らし」といったように、ストレスの具合に応じて気晴らしを実行します。先ほどの例で言えば、会社を辞めることを考えるほど精神に負荷がかかった場合は「旅行に行く」、慣れない仕事に少し手こずるなど軽度なストレスを感じた場合は「コーヒーブレイクを挟む」「外に出て散歩する」など。主観的な判断で結構ですので、ストレスの程度を冷静に見極めて、それに見合った気晴らしを行ないましょう。

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【対策2】「有酸素運動」でコルチゾールの分泌を抑え、海馬を活性化させる

次に、コルチゾールの分泌を抑えること、ならびに海馬を活性化させることについて考えます。

精神科医のアンダース・ハンセン氏によれば、定期的な有酸素運動によって、コルチゾールの分泌を抑制できるとのこと。ランニングやスイミングなどの有酸素運動を、週に2~3回、20~30分程度すると、ストレスを感じてもコルチゾールの値が上がりにくくなるのだとか。

なお、いくら有酸素運動がいいと言っても、やりすぎは逆効果。運動の強度としては、「やや息が切れるくらい」が適切とされています。気持ちいいと感じられる程度にしておきましょう。

そして、東京大学薬学部教授で脳科学者の池谷裕二氏によると、「5分間走る」だけで海馬を活性化させられるのだそう。加えて、1~3ヶ月ほどランニングを続ければ、海馬の肥大化も期待できるのだとか。

その際は、室内でランニングマシンを使うのではなく屋外を、それも毎回「新しいルート」を走りましょう。場所を移動することによる空間学習、そして「どの道を通って、どこまで行くか」という予測が、海馬活性化を促すそうです。

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可能であればストレッサーを取り除き、それが難しそうであれば、適度な気晴らしと有酸素運動を。健全な精神を維持し、仕事のパフォーマンスを上げていきましょう。

(参考)
NHKスペシャル取材班(2016),『キラーストレス 心と体をどう守るか』, NHK出版.
東洋経済オンライン|あなたを殺してしまうキラーストレスの恐怖
e-ヘルスネット|ストレスコーピング
リチャード・S・ラザルス, スーザン・フォルクマン 著, 本明寛 , 織田正美, 春木豊 翻訳(1991),『ストレスの心理学―認知的評価と対処の研究』, 実務教育出版
東洋経済オンライン|ストレスを飲酒で抑え込むのが危ないワケ
NewsPicks|脳を活性化し、パフォーマンスを上げるランニングとは
東洋経済オンライン|物覚えの悪い人が知らない記憶のカラクリ

【ライタープロフィール】
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。

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