読書は、エリートになるために必要な大事な勉強のひとつだ――そう信じて、日々努力して読書している人は多いはず。
ただ、有象無象に数だけは多い本の中から、自分にとって本当に価値のあるものを見つけ出すのは難しいですよね。どんな本を読めば自己成長につながるのか……と悩むビジネスパーソンのために、読書に持論を持つ人が語る「読むべき本の選び方」についてご紹介します。
【読むべき本1】“2種類”の本
『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』の著者山口周氏は、エリートビジネスパーソンになるには「2種類の読書」が必要だと説いています。2種類とは、ビジネス書と教養書。この両方を読んで初めて、オンリーワンのビジネスパーソンになれるのだそう。ただし、それぞれの読み方は明確に異なります。
山口氏の説く「ビジネス書の読み方」と「教養書の読み方」をご紹介しましょう。
■ ビジネス書の読み方
山口氏によると、ビジネス書とはビジネスパーソンとしての基礎体力を作る本。これを読むことは、エリートを目指すうえでの必須項目です。
ビジネス書の読み方の最大のキーワードは「狭く、深く」。定番・名著と呼ばれる限られたより良い本を(=狭く)、繰り返し(=深く)読むべきだと、山口氏は言います。
“限られたより良い本”とは、「ビジネス全般の基礎を体系的に学べる本」。いわば“超基本”の本です。山口氏いわく、ビジネスパーソンはまずそれを最初に読むべきなのだそう。たとえ「マーケティングの知識を深めたい」と思ったとしても、いきなりマーケティングの専門書に飛びついてはならず、まずはビジネス全ての基礎を学んでから、マーケティングの教科書的な本へと移るべきなのです。
また、本屋には有名なCEOらがビジネス術を披露した本もよく売られていますが、そういった本を読むのは最後でいいとのこと。それらの本はあくまでケーススタディであり、学びを深くすることはできても、体系的な学びを得ることは難しいからです。
ここまでの話を踏まえると、山口氏が言う読むべき本の順番はこうなります。
- ビジネス全般の基礎を体系的に学べる本
- 各分野の教科書的な本
- 専門分野における応用的な本(例:あるCEOの仕事術、等)
では、上記の1にあたる全てのビジネスパーソンが最初に読むべき書籍として山口氏がすすめる本のうち2冊をご紹介します。
山口氏いわく、「この本1冊で経営の全体像が分かるようになる」。以後の学習の基礎を作ることができる本です。
具体的な財務の計算は省き、ファイナンスの考え方を簡単な言葉で紹介している本。財務の知識はどの分野の仕事でも必要なので、まずはこの本で“基礎の基礎”をおさえるといいでしょう。
■ 教養書の読み方
山口氏いわく、ビジネス書を読んだだけでは、他から抜きんでた人材にはなれないとのこと。周囲と自分を差別化するために必要なのは教養書です。教養書は、個性を形成するための本なのです。
ビジネス書と違い、教養書は自分の気持ちの赴くままに「広く、浅く」読むべきなのだそう。ベストセラーだからとか、他の人がすすめていたからといった理由ではなく、「おもしろそう」と感じる本を、次々読んでいくといいのだとか。他人と違うインプットこそが差別化につながるのです。
「教養書ってどんな本?」と疑問をお持ちの方には、山口氏が考える「教養書の7つのカテゴリー」が参考になります。少しでも興味をひかれるカテゴリーがあったら、その分野の本を手に取ってみてください。
- 哲学(近・現代思想)
- 歴史(世界史・日本史)
- 心理学(認知・社会・教育)
- 医学・生理学・脳科学
- 工学(含コンピューターサイエンス)
- 生物学
- 文化人類学
ここで「生物学」の知識がビジネスにつながる例を紹介しましょう。アリには次のような生態があります。
アリの集団には「働くアリ」と「働かないアリ」がいる。両者の違いは「仕事に対する感度(腰の軽さ)」の差。必要な仕事が現れる(例:急に餌が落ちてくる)と、まずは最も腰の軽いアリがその仕事をし、別の仕事が現れると、次に腰の軽いアリがそれに取りかかる。アリはこうして、必要に応じて労働力をうまく配分している。
これは、アリなどの社会性昆虫を研究する北海道大学大学院准教授の長谷川英祐氏が明らかにしたもの。この自然科学の事実から得られる示唆について、長谷川氏は次のように説明しています。
組織では、誰かが疲れて働けなくなったときには別の人が対応するなど、突発的な事態に対応する余力を残しておくことが大事だ。最近は、あらゆる分野で効率化が叫ばれ、無駄を省こうとする傾向が強いが、それと同時に社会に余裕がなくなってきている。これでは、突発的な事態に対応し得る余力をそぐことになりかねない。
このように、普通の人なら「へぇ~」と素通りしてしまいかねない自然科学の事実からも、ビジネスへの意外な示唆を得ることは可能です。教養書で知識を得て、自分なりに考えを広げることが、ほかのビジネスパーソンとの差別化につながる。そのことがおわかりいただけたと思います。
【読むべき本2】「自己検証、自己嫌悪、自己否定」につながる本
幻冬舎の創業者で社長の見城徹氏は、著書『読書という荒野』の中で、「自己検証、自己嫌悪、自己否定の3つがなければ、人は成長しない」が自身のモットーだと述べています。これがまさに、見城氏の考える「読むべき本の選び方」です。
自己検証
作者の考えと自分の考えを比較して、自分の思考や行動を客観的に見直し、修正すること。
自己嫌悪
本の中の登場人物と比較して、自分のずる賢さ、怠惰さに苛立つこと。または、登場人物の強烈さや鋭い思想と巡り合ったとき、自分の普通さを嫌悪すること。
自己否定
読書によって自分の世界にはなかった事実を知り、自己満足していた自分に気づくこと。自己満足を排除し、成長していない自分を否定して、新たな自分を手に入れること。
成長に不可欠な「自己検証、自己嫌悪、自己否定」につながる本として、見城氏は人間や社会の本質が書かれている古典的な文学を勧めています。
ヘミングウェイの3冊目の短編集。始まりは喧嘩のあとに人が死んだというシーンで、生き残った人に賞賛は与えられません。見城氏はこの本から、強固な意思を持って生に向き合う方法を学んだそうです。
沢木耕太郎本人の経験をもとにした、1970年代の香港からロンドンまでの旅行記。見城氏はこの本から、旅が自分自身と向き合う行為であることに気づいたのだとか。その後の自身の変化に与えた影響は大きかったことでしょう。
【読むべき本3】生徒であり続けるための本
アメリカの実業家・作家のKimanzi Constable氏は、ビジネスパーソンとして成長し続けるためには「生徒であり続けることが重要だ」と言います。それはつまり、新しいことを学び続けるということ。時間のなさを言い訳にして読書を疎かにしていては、成長は望めません。Constable氏いわく、成功している起業家たちは、読書を通じた自分自身への教育により、その成功を得ているとのこと。
「専門家」の域に達するまでに成長するために、毎週よい本を読み続けることの重要性を説くConstable氏が、読むべき本として挙げているもののうち2冊をご紹介しましょう。
カリスマ投資家ウォーレン・バフェットら金融界の偉人たちの、投資に対する考え方を紹介した本。Constable氏いわく、大学院で学ぶような知識が得られる本だとのこと。とはいえ、複雑な理論は一般的な読者にもわかりやすく説明されていて、初心者にも適しているそうです。
ビジネスにおける「やめ方」「引き際の見極め方」について解説した本。原書は、たったの本文76ページ。Constable氏は、薄くてすぐに読める本でありながらすべての起業家の必読本だとしてこの本を推薦しています。
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本屋に行くと、いつも同じようなジャンルの本棚に向かいがち。ですが、時にはちょっと別の本棚を見てみると、自分の成長につながる新しい発見があるかもしれませんね。
(参考)
山口周(2015),『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』,KADOKAWA.
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見城徹(2018),『読書という荒野』,幻冬舎.
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【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。