「最近、新しいことを学ぶのが億劫になってきた」
「資格の勉強がはかどらない」
このように、大人になってから「学んだことが定着しづらくなった」と感じる人は多いのではないでしょうか。 それは運動が足りていないからかもしれません。
じつは、「記憶力・思考力」と「体を動かすこと」は深く結びついています。今回は、定期的な運動で長期的に記憶力を高める方法と、試験直前でも効果を発揮する記憶術をご紹介します。
記憶力と運動の関係
定期的な運動習慣は、記憶力を高めるうえでさまざまな効果があります。
たとえば、運動を定期的にする人たちの脳は、そうでない人たちに比べ、記憶や思考をつかさどる前頭前野が大きいということが数々の研究で判明しています。ハーバード大学にて神経学を教えるスコット・マクギニス博士によると、中強度の運動を6ヶ月〜1年間、定期的に行なうことで、脳の特定の部位が大きくなるのだそう。
また、気分や睡眠を改善させ、ストレスや不安を減らす作用も期待できます。ストレスや不安を抱えている人は認知症になりやすく、記憶力が低下する傾向にあるため、これを防ぐことができるのです。
マクギニス博士は、「運動することは、脳の働きを高める薬のような効果を発揮する。これは科学で裏づけられていることだ」と述べています。
【長期的な効果を出すには】定期的な運動で記憶力を高める
定期的な運動が脳機能を向上させることはわかったものの、「どの程度やらなければならないのだろう?」という疑問があるかもしれません。
マクギニス博士によると、早歩きなど中強度の有酸素運動を週に150分程度行なうのがおすすめだそう。いままでほとんど運動をしていなかった人にとっては難しいかもしれませんが、1日5分から始め、翌週は10分、その翌週は15分……など、少しずつ増やしていきましょう。効果を感じるまでは半年程度かかるため、気長に続けることがポイントですよ。
また、学会誌『Journal of the American Geriatrics Society』に発表された記事によれば、太極拳がお年寄りの脳機能を向上させることが判明したそう。特に、記憶力・計画性・問題解決などの認知をつかさどる部分が活性化したのだとか。動きに集中することや、新しいスキルや動きのパターンを学ぶことなどが、このような結果に結びついていると考えられています。
あるいは、ヨガもこれと近い効果を発揮します。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のネハ・ゴーテ博士によると、ヨガには有酸素運動と似たような効果があるそう。ヨガは、脳の海馬・扁桃体・帯状回・前頭前野にプラスの影響をもたらし、記憶力や情報処理能力や感情をコントロールする脳機能を向上させてくれるのだとか。
【急いで結果を出したい場合】試験直前でも効果を発揮できる記憶術
短期的に効果が現れる記憶術もあります。筑波大学の征矢英昭教授が率いる研究チームによると、勉強前に10分ほど軽い運動を行なうことで記憶力が上がることが判明したそう。
研究では、成人36人を対象に、運動条件と安静条件の両方で調査しました。運動条件のときは、かなり楽だと感じられる超低強度の運動(実験では自転車をゆっくりこいでもらいました)をしてもらい、安静条件のときは運動せずに10分間そのまま座らせ、どちらも5分後に記憶テストを行なったそう。その結果、運動条件のときのほうが安静条件のときよりも記憶力が高いことが判明したのです。
記憶テストに取り組んでいるときに脳の活動を高磁場MRIで測定したところ、超低強度の運動を行なったときは「海馬歯状回」と「周辺皮質」という脳の情報伝達をつかさどる部分が活発になっていることがわかりました。それによって、記憶力が高まったのです。
試験勉強を控えている人は、学習前に、軽い運動(疲れない程度のランニングなど)を10分ほど行なうことで、効率的に記憶できると言えるでしょう。
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記憶力や思考力は、何歳になっても役立つ能力。脳の機能を向上させるためにも、ぜひ時間を見つけて運動してみてください。
(参考)
Harvard Health Publishing|Boost your thinking skills with exercise
Runner’s World|How Yoga Benefits Your Brain, According to Science
Harvard Health Publishing|Need to remember something? Exercise four hours later
Kodansha Bluebacks|記憶力は「たった10分の軽い運動」でアップすることが判明
筑波大学|短時間の軽運動で記憶力が高まる!
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。