普段から本をたくさん読んでいるのに、読んだ本について話ができないと感じたことはありませんか? 本の感想や自分の意見をしっかり述べられる人のことを見て、うらやましく思ったことはないでしょうか?
「それって自分のことだ……」と感じた、読書家なのに浅い話しかできない残念な人は、今回紹介する改善策によって、読書経験を「深い話」へとつなげられる人を目指しましょう。
あなたの話が「浅い」理由
「話が浅い」とは、そもそもどういうことなのでしょうか。漫画やアニメの話でも、政治やビジネスの話題でも、テーマはなんであれ深い話ができる人もいれば浅い話しかできない人もいます。その違いはどこから生まれるのでしょう?
オウンドメディア支援を手がけるティネクト株式会社代表取締役の安達裕哉氏は、話が浅くなる理由は、話そうとしている物事の成り立ちや根拠を知らず、権威に頼ったものの言い方しかできないからだと言います。
つまり、読書家なのに浅い話しかできない原因は、本にある話をなぞるだけで背景まで知ろうとせず、ただ「本にこう書いてあった」としか言えないから。本に書かれていること以上のことを学ぶという発想がないのが、大きな問題なのです。
たとえば、安達氏が例として挙げている「国産品は安心だ」というフレーズ。何が安心なのか、なぜそう言いきれるのかを説明できなければ、話は浅くなります。読書についても同じで、本に書かれていることについて根拠や背景を語れなければ、そのテーマで深い話をすることはできないのです。
では、「本にはこう書いてあった」で話を済ますことなく、書かれている以上のことを本から学び取るにはどうすればいいのでしょうか。3つの方法をご提案します。
1. 読後に深い「調べ作業」をする
K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授の三谷宏治氏は、本で読んだ知識をより深めるために、調べ作業によって関連知識を得ることが重要だと言います。
関連知識とは、たとえば「過去や他業界での出来事のなかに、似たようなことはなかったか?」といった情報。三谷氏いわく、「本の内容」と「調べて得た情報」とを対比させると、本で得た知識を客観視できるとのこと。そうすると、本の内容について偏りのない視点で気づきを得られ、それがそのまま自分の意見になり、深い話ができるようになるのです。
もしも読後の調べ作業をしない場合、本に書かれている内容だけは知ることができても、それ以外の関連情報は得られません。偏った知識しかもてず、浅い話しかできなくなってしまいます。
調べ作業の具体的な方法として三谷氏は、Googleの検索結果の上位20ページぐらいまで読み込むことや、Wikipediaの英語版を読むことなどを挙げています。本を読んだあとには、こうした調べ作業により多くの情報を取り入れましょう。あなたの話は一段深いものになるはずです。
2.「数字」に着目しながら読む
三谷氏は、本から多くのことを読み取るには、数字にこだわることも大切だと言います。三谷氏が挙げている例を紹介しましょう。
【書かれている情報】
ファスナーを製造するYKKは、世界市場において、金額シェア40%、数量シェア20%を占める。
(三谷氏が、2015年6月の雑誌記事に書かれていたデータとして紹介したもの)
この情報で三谷氏は、ファスナー業界全体におけるYKKの立ち位置がわかると言います。
【数字に着目して自ら導き出した情報】
YKK以外の企業は、金額シェア60%、数量シェア80%。YKKと、YKK以外の企業の平均単価を比べると、単価差は2.7倍になる。
(平均単価は金額シェア÷数量シェアで計算)
こうすると、YKKのファスナー(当時)は高価格帯にあることがわかるというわけです。
ただ、こうして例を読めばイメージできても、実際に自分が本を読むとなると、どんな数字に気をつけながら読めばいいのかわかりにくいですよね。そこでぜひ押さえるべきなのが「差」です。
グロービス経営大学院経営研究科研究科長の田久保善彦氏は、数字に着目して解釈を行なうときには、まず差を見いだすべきだと述べています。差がある箇所を探し出し、どうしてその差が生まれるのかを考えたり、その差の意味合いを考えたりすると、重要な示唆を得やすくなるそうです。まさに上の例でも、YKKと他企業との差に注目していました。
本を読む際は、数字から読み取れることはないかと考えを巡らせてみましょう。あなたの読解力が向上し、より深いことが語れるようになるはずです。
3.「追体験」する
本を読むことで増えていく豆知識。明治大学文学部教授の齋藤孝氏は、ただ豆知識をもっているだけの状態では「浅い」と言います。本で得た事実を単に頭のなかに並べて置いているだけでは、体系的に知っている状態(つまり教養)ではないため、その知識をもとに話をしても浅い話しかできないのだそう。
齋藤氏いわく、点でしかない豆知識を体系的な教養にするために必要なのは、想像しながら本を読むこと。情報をインプットすると同時に、想像力を働かせ、頭のなかで自分が登場人物とコミュニケーションをとるように本を読む。齋藤氏はこれを「追体験」と呼んでいます。
たとえば、登場人物の姿を想像したり、心理描写をなぞったり、自分なら同じように行動できるかを想像したりする。こうした過程を経ることで、読者は本の中身を疑似体験するというわけです。
齋藤氏は、追体験による成果を挙げたひとりとして、ロンドンオリンピック金メダリストでプロボクサーの村田諒太氏を紹介しています。村田氏が影響を受けたのは『夜と霧』。第二次世界大戦中にアウシュビッツに捕らえられたユダヤ人精神科医による作品です。村田氏はこの本を通して著者が経験した極限状態を追体験し、どんなつらい練習であってもアウシュビッツの地獄よりはましだと感じたとのだとか。
疑似体験により得た知識は、ただの豆知識ではなく深く身についた教養になります。おのずと、話も深いものになっていくはずです。
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深い調べ作業、数字への着目、追体験。この3つを気にしながら本を読むことで、本に書かれている以上のことを学ぶことができます。実践すればきっと、より深い話を語れるようになるでしょう。
(参考)
Books&Apps|「話が浅い」とはどういうことか。
プレジデントオンライン|「読書家なのに話がつまらない人」に欠けている5つの視点
グロービス・田久保善彦(2008),『ビジネス数字力を鍛える』』, ダイヤモンド社.
齋藤孝(2019),『読書する人だけがたどり着ける場所』, SBクリエイティブ.
東洋経済オンライン|「本から学ばない人」と「読書家」の致命的な差
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。