「勉強時間をもっと減らせたらいいのに……」と、お悩みではありませんか? 多忙な人にとって、勉強のための時間を確保するのは大変なこと。できれば短時間の学習で最大の成果を出したいものですよね。
あなたの勉強時間が長くなってしまうのは、もしかしたら非効率な方法で学習しているせいかもしれません。勉強を進めるなかでは、「やりすぎないほうがいいこと」があるのです。3つお伝えしますので、ぜひ勉強時間の短縮にお役立てください。
「ひとつのジャンルだけ」を勉強しすぎる
たとえば資格試験の勉強をしているとき、単元Aを完璧にマスターしようと、単元Aに長時間を割き、今度は単元Bにまた相当な時間を割き……というように、同じことを長々と学び続けていませんか?
たしかに、新しいことを勉強して覚えるには、反復することも必要です。でも、ひとつの分野だけを勉強し続けているうちに、飽きてしまうことはないでしょうか。
『神メンタル-「心が強い人」の人生は思い通り』の著者 星渉氏は、こう語ります。
もともと脳は、新しい環境や刺激に対して大きく反応して、活性化されるようにできています。ところが、同じ刺激が繰り返されると次第にその活性化は弱まっていきます
(中略)
脳が活性化しなくなった後は、「飽きて、面倒になりやめてしまう」
(引用元:東洋経済オンライン|「3日坊主の人」が劇的に変わるたった1つのコツ)
先の例で言うと、単元Aのことを繰り返し勉強していくうち、単元Aの勉強にマンネリ感が生じかねないということ。意欲が下がり、勉強がはかどらなくなっていきそうですよね。
たとえ頑張って長時間勉強しても、いい効果が出ないのであればもったいないこと。そこでおすすめしたいのが、「学習中に関連性はあるが違う何かを混ぜる」「インターリーブ」という勉強法です。(引用元:ダイヤモンド・オンライン|反復学習よりも効果大! 学習に変化を取りいれる「インターリーブ」のすごさ)
インターリーブ学習法の効果を示した研究の代表例に、ともにアメリカの心理学者であるロバート・ビョーク氏とネイト・コーネル氏が行なった、絵画を用いた実験があります。(以下はKornell, Nate and Robert A. Bjork (2008), “Learning Concepts and Categories: Is Spacing the “Enemy of Induction”?,” Psychological Science, Vol. 19, No. 6, pp.585-592.の内容をまとめたもの)
実験では、被験者をふたつのグループに分け、以下のように異なる方法で絵を提示。12人の画家の絵を6枚づつ学ばせました。目的は、被験者たちに、各画家の作風をつかませることです。
- ひとりの作家の絵を6枚連続で見せる
(例:作家A6枚→作家B6枚→作家C6枚……) - 異なる作家の絵をランダムに見せる
(例:作家A1枚→作家B1枚→作家C1枚→作家D1枚→作家E1枚→作家F1枚……)
その後、すべての被験者に未学習の絵を見せて、作者を選ばせるテストを実施。上の学習により作風をつかめていれば、未学習の絵を見ても、作者を答えることができるだろうというわけです。
結果は、異なる作家の絵をランダムに学習した「インターリーブ学習」のほうが正答率が高く、効果的な学習方法だと明らかになったのです。
『脳が認める勉強法 ー「学習の科学」が明かす驚きの真実!』の著者でサイエンスレポーターのベネディクト・キャリー氏は、インターリーブ学習のメリットについて、次のように述べています。
種類を混ぜた練習を行うと、学ぶ力全体が向上し、ものごとの違いを理解する力が高まる。
(引用元:ベネディクト・キャリー著, 花塚恵訳(2015),『脳が認める勉強法ー「学習の科学」が明かす驚きの真実!』, ダイヤモンド社.)
たとえば、英語の勉強をするときは「今日は文法問題を3時間。明日は長文読解を3時間……」のように「ひとつの勉強に時間をかけすぎる」のはやめたほうがいいかもしれません。「文法問題を30分→長文読解を30分→リスニングを30分……」といった具合に、内容やスタイルを混ぜて学習してみてください。勉強したことが効率よく身につくので、勉強にかかる時間を短縮できるでしょう。
「時間があればあるだけ」勉強する
「今日は休日だし、充分に時間がある」と思ったので、ちょっと勉強範囲を広げてみた。そうしたら、本来やるべき勉強が終わらなかった……。という経験はありませんか?
イギリスの歴史学者、シリル・ノースコート・パーキンソン氏が1958年に唱えた、「パーキンソンの法則」というものがあります。これは「人は時間やお金といったあらゆる資源を、あればあるだけ使ってしまう」ことを意味しているのだとか。(引用元:グロービス経営大学院|パーキンソンの法則)
たとえば、「今日は勉強する時間が5時間あるな」と思ったとします。すると、その日に本来やるべき勉強にはじつは5時間もかからない……という場合でも、ノートを必要以上にきれいにまとめてみたり、テキストをのんびりと読んでしまったりなどの余計なことをして、5時間使ってしまうということ。とても効率的な勉強ができているとは言えません。
時間があるからといって、長時間勉強しすぎてはいけない――では、具体的にどれくらいの時間勉強するのがベストなのでしょうか。
京都大学名誉教授・地球科学者の鎌田浩毅氏は、ベストセラー著書『一生モノの勉強法ー京大理系人気教授の戦略とノウハウ』のなかで、次のような勉強方法を推奨しています。「人間の集中力の持続時間」は「15分」であることに基づいたものです。
(枠内のカギカッコ部分は同著書より引用)
- 【15分法】「15分ずつ次から次へと勉強する中身を変えていく」方法
(例)
最初の15分:英単語の暗記
→次の15分:英文法の確認
→次の15分:リスニング
- 【45分法】「最初の45分を得意な問題に割り当て」「加速をつけた状態で一気に最後の15分で不得意な問題に取り組む」方法
(例)
最初の45分:得意な長文読解に取り組む
→残りの15分:苦手な英文法に取り組む
「ダラダラと勉強してしまい、結局終わらなかった……!」となることを防ぐために、時間に余裕があるときこそ制限時間を決めて勉強してみましょう。予定していた勉強内容を制限時間内に終わらせれば、残りの空き時間は別の有意義なことに使えるはず。勉強時間を短くしたいなら、ぜひやってみてください。
「ToDoリスト」にこだわりすぎる
勉強を効率化するため、「ToDoリスト」をつくっている方は多いでしょう。ToDoリストは、学習すべきことを可視化して抜け漏れを防ぎ、やることの優先順位をつけるのに役立つもの。ですが、ToDoリストをつくるだけで時間がかかったり、リストにあれこれ詰め込みすぎてモチベーションが下がったりすることはありませんか?
脳の働きの観点で見ると、あまりToDoリストにこだわりすぎるのはよくないようです。脳科学者の上岡正明氏は、ToDoリストのデメリットを次のように説いています。
「こんなにやることがあるのか」「どれからやればいいのか」などと脳のワーキングメモリを無駄に消費して、集中力が削がれてしまいます。
(引用元:上岡正明(2021),『脳科学者が教えるコスパ最強!勉強法』, 宝島社. ※太字による強調は編集部にて施した)
同書によると、「ワーキングメモリ」とは「人が短期的に処理できる脳の情報量」のこと。あれもやろう、これもやろう……とToDoリストにどんどん盛り込むと、ただでさえ限られたワーキングメモリに過度の負担がかかることに。結果、脳のパフォーマンスが低下し、かえって学習効率が悪くなってしまうのです。
ToDoリストのかわりに上岡氏は、「シングルタスクメモ」をつくることをすすめています。方法は以下のとおり。
- 集中タイム開始前に、集中するタスクをひとつだけ書く
- シングルタスクを、やるべきミニタスクに分解する
- 全タスクにフォーカスして、集中タイム内に処理する
- メモに書かれたタスクに線を書いて消していく
(引用元:同上)
実際に筆者が、後回しになりがちな教養の勉強のため、シングルタスクメモを活用してみました。集中タイムは、前章でご紹介した15分法で設定。キッチンタイマーで時間を計りながら進めてみました。
左上が勉強前に書いたミニタスク。右下が勉強後に線を引いたものです。
シングルタスクメモを試してみた結果、「15分間、この課題だけに没頭する」と決めてタイムを計ることで、集中力が無理なく持続し、想像以上に達成感を得られました。
また、シングルタスクメモで勉強を効率的に進めるために、必ずやるべきだと思ったポイントは次の2点です。
- 勉強を始める前に、必要な物を全部手元に準備しておく
→探し物のせいで集中力を削ぐことなく、スムーズに課題を進めるため - 制限時間が来たら、学習の途中でも必ず切り上げて次に進む
→集中力を維持し、勉強を無駄に長引かせないため
ぜひ、実践する際の参考にしてくださいね。
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勉強に時間がかかるわりに成果が感じられないのなら、本記事でご紹介した効率の悪い勉強法にはまってしまっているのかも。
心当たりがある人は、ぜひ「やりすぎていた」ことをやめ、学習法をチェンジしてみてください。勉強時間をもっと減らせるかもしれませんよ。
(参考)
星渉(2018),『神メンタル 「心が強い人」の人生は思い通り』, KADOKAWA.
東洋経済オンライン|「3日坊主の人」が劇的に変わるたった1つのコツ
ダイヤモンド・オンライン|反復学習よりも効果大! 学習に変化を取りいれる「インターリーブ」のすごさ
Kornell, Nate and Robert A. Bjork (2008), “Learning Concepts and Categories: Is Spacing the “Enemy of Induction”?,” Psychological Science, Vol. 19, No. 6, pp.585-592.
ベネディクト・キャリー著, 花塚恵訳(2015),『脳が認める勉強法ー「学習の科学」が明かす驚きの真実!』, ダイヤモンド社.
グロービス経営大学院|パーキンソンの法則
上岡正明(2021),『脳科学者が教える コスパ最強!勉強法』, 宝島社.
鎌田浩毅(2021),『100年無敵の勉強法ー何のために学ぶのか?』, 筑摩書房.
鎌田浩毅(2009)『一生モノの勉強法ー京大理系人気教授の戦略とノウハウ』, 東洋経済新報社.
北村拓也(2020),『知識ゼロからのプログラミング学習術 独学で身につけるための9つの学習ステップ』, 秀和システム.
【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。