「謙虚さ」が美徳とされる日本においては、自信満々に「自分は『一流』だ!」と思っている人は少ない傾向にあるかもしれません。でもやはり、「あなたは三流だ」とは言われたくありませんし、心のどこかでは「できれば一流と呼ばれる人になりたい」と考えている人もいることでしょう。
お話を聞いたのは、文字通り『一流の人の心の磨きかた』(三笠書房)という著書を上梓したビジネスコンサルタントの山﨑武也(やまさき・たけや)さん。山﨑さんは「一流の人」を、なんと「普通の人」に位置づけます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/河合秀直
一流ビジネスパーソンになるには、利益を追求するのはNG?
何をもって「一流」と言うのかにもよりますが、一流のビジネスパーソンには「利益」ばかりを追求しないという共通点があるように思います。
利益のことを頭のなかから外すなんていうと、「儲けないと会社が成り立たない」と思う人も多いでしょう。でも、ビジネスコンサルタントとしてのこれまでの私の経験からも、「自分の欲を抑えて人の欲を優先する」ことに徹していれば問題がないと断言できます。
なぜなら、自分の欲を抑えて人の欲を優先していれば、関わるあらゆる人から「あの人はこっちのことを考えてくれている」「裏切らない」「嘘をつかない」と評価されて信頼を勝ちえるため、たとえ困った場面に出くわしたとしても、周囲の人が必ず助けてくれるからです。あるいは、「こういう人にはしっかり稼いでほしい」と思われ、いい仕事を回してくれるといったこともよくあります。
もちろん、欲はあらゆる人がもっているもの。働く以上「お金が欲しい」と思って当然ですからね。でも、「お金が欲しい」と思っているのは自分だけではありません。
自分の欲をちょっとだけ小さくして、仕事で関わる周囲の人たちの欲を大きくとらえましょう。そうすれば、必ず利益はあとからついてきます。
「礼儀」に欠かせない「正しいお辞儀」ができているか?
そういう意味では、やはり人柄をつくる「礼儀」も重要でしょう。その礼儀が表れるもののひとつが、「お辞儀」だと私は考えています。
みなさんは、どんなお辞儀をしていますか? 私から見ると、残念ながらいまは正しいお辞儀ができる人が減っているように思います。テレビを観ていても、出演者のほとんどが手を太ももの横に置いてお辞儀をしますし、なかには後ろに回した手をお尻に置いている人も見受けられます。
正しいお辞儀は、手を重ねることなく太ももの前側に置いてするものです。正座をして行なう座礼を立って行なうのが、お辞儀だからです。正座をして座礼をするとき、手を太ももの横やましてお尻に置いて行なう人はいませんよね。
また、手を太ももの前側に置くことには、大きな意味があります。手を太ももの横や後ろに回す場合、武器を隠し持つこともできます。でも、手を前に出していればそんなことはできません。そのため、手を太ももの前側に置くことは、「私はあなたの敵ではありませんよ」「良好な関係を築いていきましょう」という意思表示でもあるのです。
日頃から「親切」をすれば、「一流の人」に近づける
冒頭に「何をもって『一流』と言うのか」という話をしました。そしてここまで「自分の欲を抑えて人の欲を優先する」「正しいお辞儀をして礼儀を身につける」といった話をしてきましたが、もしかしたら「一流」とは「普通の人」になることなのかもしれません。
多くの人と関わりながら社会生活を営む人間には、周囲の人と良好な関係を築いていくことがとても大切です。そうできる人が、人間という生き物の特性から見た場合には「普通の人」だと見ることもできるでしょう。いっさいの人間関係を拒絶したり周囲の人とトラブルばかり起こしたりしている人は、「普通の人」とは言いにくいですよね?
でも、この「普通の人」になるのがなかなか難しい。自分の欲を抑えて人の欲を優先することも簡単ではありません。だからこそ、みなさんが「一流になりたい」と思うのなら、「普通の人」を目指すことです。
そして、そのためのひとつの指針になるのが、小学校の校訓ではないでしょうか。義務教育である小学校教育は、世界的に名を知られるような優秀な人材を生むためのものではありません。そうではなく、人として社会のなかできちんと生きていける「普通の人」を育むためのものです。
では、小学校の校訓によく見られるものとして、「親切」を日頃から行なうのはどうでしょう。それはまさしく、周囲の人と良好な関係を築いていくために欠かすことのできない要素。でも、これもまた簡単なことではありません。なぜなら、親切は心に余裕がないとできないからです。忙しい現代人にはハードルが意外と高いものなのです。
ただ、安心してください。忙しい現代人でも心に余裕をつくる方法があります。それは、親切をすること。「心に余裕があるから親切をすることができる」一方、「親切をするから心に余裕ができる」というふうに、心の余裕と親切の因果関係は入れ替えられるものだと私は考えています。なぜなら、親切をするには、自分の心にある欲や「面倒だ」と思う気持ちなどを捨てなければならないからです。それらを捨てれば、心に余裕ができるというロジックです。
ぜひ、「一流の人」=「普通の人」を目指して、今日からたくさんの親切をすることを心がけてほしいと思います。
【山﨑武也さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
山﨑武也(やまさき・たけや)
1935年2月8日生まれ、広島県出身。ビジネスコンサルタント。1959年に東京大学法学部卒業後、商社の財務部門に所属し、1961〜1967年までニューヨーク勤務。そのあいだ、ニューヨーク・スクール・オブ・インテリア・デザインでインテリア・デザイン、ファッション工科大学でファッション、ニューヨーク大学でマーケティング等をそれぞれ学ぶ。1970年に独立。ビジネスコンサルタントとして国際関連業務に幅広く携わるかたわら、茶道など文化面でも活動を続ける。著書には、ベストセラーとなった『一流の条件』(日本能率協会)をはじめ、仕事術、仕事にまつわる人間関係に関するものが多い。ほかに、『なぜか感じのいい人が気をつけていること』『一流の人の心の磨き方』『好かれる人のちょっとした気の使い方』『気くばりがうまい人のものの言い方』『さりげなく「感じのいい」人』(いずれも三笠書房)、『老後になって後悔しないために、知っておくべき88のこと』(日本実業出版社)などの著書がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。