みなさんは、暗記や記憶力に自信はありますか。「子どもの頃は暗記が得意だったのに、いまはなかなか記憶に定着しない……」という人も多いはず。
記憶をつかさどる脳の海馬は、1年に1%ずつ小さくなっていくのだそう。しかし、この海馬の萎縮を止め、記憶力を増大させる効果的な方法があります。それは「運動」です。
ウォーキングで脳が若返る?
アメリカの研究チームが、海馬と運動の関係についての実験を行ないました。120名の被験者をふたつのグループに分け、一方はストレッチ、もう一方は40分間のウォーキングを週3回行なってもらいます。そして、1年の間隔を空けて、MRIで海馬の様子を観察しました。
その結果、ストレッチのグループの海馬は、1.4%縮んでいました。そもそも1年に1%縮小するものですから、何も不思議はありません。対して、ウォーキングのグループの海馬は2%も大きくなるという結果に。週3回、40分間歩くだけで、海馬が2歳も若返ったのです。
運動で「BDNF」が増える
いったいなぜ、ウォーキングで海馬が大きくなったのでしょうか。キーとなるのは、BDNF(脳由来神経栄養因子)という物質です。BDNFは、主に海馬や大脳皮質で活性化され、脳のニューロンの成長を促したり、つながりを強化したりするもの。ニューロンどうしのつながりが強くなると、学習能力や記憶力が高まります。
このBDNFを増加させるのに、有酸素運動が有効なのです。なかでも、「1分間全力で走り、1分間ゆっくり走る」を5〜10回繰り返すといったインターバルトレーニングが特に効果的なのだとか。負担が大きい運動なので、前後に入念なストレッチをし、無理のない程度を心がけ、くれぐれも怪我には気をつけましょう。
BDNFは、運動をやめてもしばらくは増え続けることがわかっています。値が下がり始めるのは2週間ほど経ってから。そのため、体にかかる負担も考慮して、インターバルトレーニングは週2回ほどが適切です。運動するごとに、BDNFの生産量は増えていくので、週2回の運動を習慣化しましょう。
短時間の運動でも記憶力が上がる
また、先ほどの実験のように1年間続けなくても、短時間の運動で記憶力が上がるという実験結果もあります。
筑波大学の研究では、21名の被験者に「10分間のペダリング運動→記憶テスト」と「10分間の座位安静→記憶テスト」のふたつを、無作為に割り当てられた順序で行なってもらいました。その結果、運動後のテストのほうが高い正答率となったのです。暗記の直前に運動しておくだけでも、効果的ということ。
ただしその場合、激しすぎる運動は逆効果となります。動いて疲れると、筋肉が血液を必要とし、脳に流れる血液の量が減ってしまうためです。短期的な効果を狙うなら、ウォーキングや軽いジョギングがよいでしょう。
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記憶力とは無縁に思える「運動」が、脳に与える影響を解説しました。「記憶力がない」「昔は暗記が得意だったのに、覚えられない……」といったことで悩んでいるみなさん。椅子から立ち上がって、体を動かしてみてはいかがでしょうか。
(参考)
アンダース・ハンセン(2018),『一流の頭脳』,御舩由美子訳,幻冬舎.
AFPBB News|適度な運動で海馬の容積が増加、米研究
Wikipedia|脳由来神経栄養因子
プレジデントオンライン|脳細胞が増える運動「3つの条件」
ダイヤモンド・オンライン|「ただの運動」が脳をとんでもなく変える理由
東洋経済オンライン|物覚えの悪い人が知らない記憶のカラクリ
エクシオマラソン|インターバルトレーニング/マラソン・ランニングにお役立ち
Kazuya Suwabe, Kazuki Hyodo, Kyeongho Byun, Genta Ochi, Michael A. Yassa and Hideaki Soya.(2017), "Acute Moderate Exercise Improves Mnemonic Discrimination in Young Adults," Hippocampus DOI: 10.1002/hipo.22695.
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。