勉強法はいろいろ知っているし、あれこれ試してみた。しかし、いまひとつうまくいっている実感がない。どうして……?
そう首をかしげるあなたは、知らず知らずのうちに「勉強法ホッパー」になっているのかもしれません。
勉強法への関心は人一倍高いはずなのに、成果に結びつけることができない……。そんな残念すぎる状況はどうすれば改善できるのでしょうか?
あなたも「勉強法ホッパー」かも?
「勉強法ホッパー」とは、勉強法をいろいろ学び、あれこれ試すのが好きで、「勉強法を勉強する」こと自体を楽しんでいるような人のこと。『独学の技法』著者で独立研究者の山口周氏が、こう呼んでいます。「ホッパー」の “hop” とは「飛び回る」という意味。新たな勉強法に次々飛び移るイメージですね。
山口氏は、そんな勉強法ホッパーに対し、「勉強法は実際の勉強に活かしてこそ価値があるものだ」と指摘します。逆に言えば、あれこれ知って、ちょっと手を出すぐらいでは、勉強法の “お試し” をやってみたに過ぎず、なんら意味はないということ。
たとえば、あなたにこんな経験はないでしょうか。
「Aというノート術がよさそう! Bというのもいいらしい……。自分にぴったりなのはどれだろう?」と迷ったものの、実践するには至らなかった。
「資格の用語をこの記憶術で覚えてみよう。いや、あの記憶術も気になるな……」と思っているうち、時間だけが過ぎた。
これらは、勉強法を調べるだけで満足してしまっている典型例。ノート術も記憶術も、取り組んだ結果「成績が上がった」とか「長期間記憶できた」というような成果が出て初めて、意味があったと言えるもの。そうでなければ、いくら方法を知っていても仕方がありませんよね。
だからこそ山口氏は、「勉強法を勉強する」というところから一歩踏み出して、実際の行動に出ることが大切だと述べています。
そうはいっても、「自分に合った勉強法がわからないから、いつまでも勉強法を探し続けてしまうんだけど……」という人もいるはず。そんな人が勉強法ホッパーから脱するには、どうすればよいのでしょうか? 3つのヒントをお伝えします。
【1】「論点→仮説→検証」で学習手段を見つける
勉強法とは、勉強で成果を出すための手段のはず。勉強法ホッパーがしているのは、“手段の目的化” にほかなりません。早稲田大学教授の菅野寛氏によると、手段と目的を混ぜがちな人は、「論点→仮説→検証」の手順を踏むとよいのだそうです。
その手順を、「効率のよい勉強法」を模索する場合に当てはめてご紹介しましょう。
1. 論点:知りたいことを「正しく」設定する
まず、「本当に知りたいことは何か」を決めます。ただし、ここで「効率のよい勉強法は何か?」を論点にしても、あなたは勉強法ホッパーのまま。なぜなら、それでは漠然としすぎていて、答えにたどり着くまでに時間がかかるからです。
そこで菅野氏は、以下のように「なぜ?」と繰り返し、具体的に掘り下げることをすすめています。
「なぜ効率よく勉強したいのか?」→時間がないから
「なぜ時間がないのか?」→仕事が忙しいから
⇒知りたいこと「仕事が忙しくてもスキマ時間でできる勉強法は何か?」
2. 仮説:「何を知りたいか」に対し、仮の答えを自分で考える
次に、自分なりに最善の仮説を立てます。論点に対する答えを手当たり次第に探しても、必要な情報が100%見つかるわけではないと菅野氏。つまり、勉強法ホッパーでいることは、成果を出すには効率が悪いのです。
今回の例では、以下のような仮説が考えられそうです。
仕事が忙しくてもスキマ時間でできる勉強法は何か?
⇒仮説:「通勤時間にポッドキャストを聴く」なら取り組みやすいのではないか?
3. 検証:仮説の正しさを、最小限の手間で確認する
立てた仮説が正しいかどうか検証します。菅野氏いわく、仮説が正しいとわかれば、ほかを検証する必要はないとのこと。「どうも違うようだ」という場合のみ、手順2に戻り、別の仮説を立てて再度検証するのです。
実際にポッドキャストを聴きながら通勤してみた結果……
「よく理解できた!」という実感を得た場合
⇒「仮説は正しかったので、これからもその方法で勉強する」
「聞いてもあまり理解できなかった」という場合
⇒「仮説は正しくなかったようなので、別の方法を試してみる」
以上の手順を踏めば、手当たり次第に勉強法を試す必要がなくなります。自分の目的に沿った勉強法を、最短時間で見つけられるはずですよ。
【2】資格勉強用の参考書・問題集は各1冊に絞る
勉強法ホッパーのなかには、資格取得に向けてさまざまな参考書や問題集を買い、手当たり次第に試している人も多いのではないでしょうか。しかし、そのやり方は非効率。参考書・問題集は、それぞれ1冊に絞りましょう。
というのも、限られた時間で複数の参考書に手を出しても、解き終わらない可能性があるから。『30代で人生を逆転させる1日30分勉強法』著書で、多くの資格取得および指導経験をもつ石川和男氏が、勉強に割ける時間が限られている社会人にとって、教材選びはきわめて重要だと述べています。
石川氏がすすめるのは、時間をかけて書店で試し読みをし、一番読みやすいと感じた参考書を1冊だけ買うこと。どの参考書にも、少なくとも試験の合格点に達するだけの情報は含まれているそう。いろいろ買ってこなしきれないより、1冊だけ買って丸ごと暗記するほど何度も取り組むほうが、はるかに効果的だと言います。
また、問題集は、最初はなるべく薄いものを1冊だけ買うのがポイントだとのこと。資格に向けた勉強においては、全範囲をひととおり把握することが最優先だからです。次の問題集に移るのは、1冊の問題集を完璧に解けるようになってから。こうすれば、教材を模索しすぎて勉強時間がなくなる……といった状況は防げるはずです。
【3】自分の認知特性に合った勉強法を知る
何が自分にとってベストな勉強法なのかわからない……。そんなさまよえる勉強法ホッパーにとって、自分の「認知特性」を知ることは、勉強法選びの効率を高めるヒントになりますよ。
認知特性とは、目や耳を通して得た情報を記憶・理解する際の、その人なりの方法のこと。医学博士の本田真美氏によると、目で見て覚えるタイプの人を「視覚優位者」、言葉で覚えるタイプの人を「言語優位者」、聞いて覚えるタイプの人を「聴覚優位者」と呼び、細かくは後述の6タイプに分けられるそうです。
認知特性によって記憶や理解の方法が異なるということは、自分にベストな勉強法も人それぞれ異なるということ。たとえば、視覚優位者が耳で聞く教材で勉強しても、はかどらないのは当然ですよね。
そこで以下では、本田氏による認知特性の解説をもとに、各タイプにぴったりな勉強法を筆者がご提案します。
【視覚優位者】
- 「写真(カメラアイ)タイプ」写真や絵など二次元で考える人
⇒イラスト中心のノートをつくる、参考書やノートのページを “見たまま” 記憶する など - 「三次元映像タイプ」映像など空間や時間軸で三次元で考える人
⇒勉強内容とまわりの風景をひもづけて覚える、勉強内容に関連する映画を見る など
【言語優位者】
- 「言語映像タイプ」文字や文章を映像化して考える人
⇒文章とイラストを使ってノートをまとめる、参考書を読みながら映像をイメージする など - 「言語抽象タイプ」文字や文章を図式化して考える人
⇒枠・線・記号を使いながらノートを書く など
【聴覚優位者】
- 「聴覚言語タイプ」文字や文章を音として情報処理する人
⇒リスニング教材を使う、参考書やノートを音読する など - 「聴覚&音タイプ」音色・音階など音楽的イメージを脳に入力する人
⇒替え歌で覚える、覚えたい文章に自分でメロディーをつける など
どの認知特性に当てはまるかは、自身でチェック可能。こちらの診断ツールを使えば、簡単に診断できますよ。また、各タイプに合った勉強法は、『あなたは文字派? 聴覚派? 6つの「認知特性」ごとに最適な勉強法教えます!』でも詳しく知ることができます。
自分にとってベストな勉強法がわかれば、勉強法ホッパーを脱して、最短距離で成果を出せるようになりますよ。
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勉強法ホッパーを卒業できそうでしょうか? この記事を参考に、あなたが本題の勉強へ本腰を入れられるよう願っています。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差
グロービス経営大学院 創造と変革のMBA|手段の目的化
東洋経済オンライン|目的と手段が混ざる人に教えたい「思考のコツ」
リクナビNEXTジャーナル|資格を取るための「参考書・問題集」の選び方・使い方とは?――「資格の大原」元講師が教える“合格勉強法”
本田真美 (2012), 『医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』, 光文社.
ダ・ヴィンチニュース|あなたに最適な記憶法も分かる!? 自分の「認知特性」を調べてみよう
みくりキッズくりにっく|本田40式認知特性テスト 診断ツール
STUDY HACKER|あなたは文字派? 聴覚派? 6つの「認知特性」ごとに最適な勉強法教えます!
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。