組織のなかのリーダーともなれば、担当する仕事の幅が広がると同時に、求められる能力の幅も広がります。そんな多様な能力のうち、「自分や相手の感情をうまく管理し、活用する能力」を指す「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」こそが最重要だと言うのは、国内トップクラスのEQカウンセラーである大芝義信さん。EQはリーダーの資質とどう関連づいているのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
大芝義信(おおしば・よしのぶ)
1975年生まれ、東京都出身。(株)グロースウェル代表取締役。楽天、ミクシィ、GREEでキャリア形成。2013年に株式会社AppBank(証券コード:6177)入社。CTOとしてIPOを経験後、2016年に株式会社グロースウェル創業、累計100社以上の支援実績をもつ。ビジネスと技術の両面から経営支援。組織支援にはEQ(心の知能指数)を導入して累計1,000名超と国内トップクラスの実績をもつ。2021年、大月市DXアドバイザー。2022年、一般社団法人日本地方創生DX協議会(JRXA)理事。著作に『組織の感情を変える』(日本実業出版)、『DX時代のIT導入マニュアル』(BookTrip)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
その場に応じて最適な言葉を繰り出せる「EQが高いリーダー」
リーダー自身と、そのリーダーが率いるチームの成果を最も大きく左右するものこそが「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」だと私は考えています。というのも、人間のあらゆる行動は感情と強く結びついているからです。そのため、自分やメンバーの行動をよりよい方向に導いてモチベーションやパフォーマンスを高めようと思えば、感情にフォーカスすることが欠かせません。
では、「EQが高いリーダー」にはどんな特徴が見られるでしょうか。それは、「感情に関する語彙が豊富で、その場のシチュエーションや相手に応じて最適な言葉を繰り出すことができる」ということです。
行動と密接に結びついている感情を理解するにも、シチュエーションや相手によって多種多様な感情をもつメンバーと最適なコミュニケーションをとるにも、言葉が重要な役割を果たしているからです。
一方、「EQが低いリーダー」の場合、その逆に感情の語彙に乏しく、シチュエーションや相手によらず同じような言葉を投げかける単一的なコミュニケーションをしがちです。つまり、自己中心的で、シチュエーションや相手に目を向けられていないのです。
こういう人は、なにかの伝達事項をきちんと伝えたか問われた場合に、「伝えた」と言います。でも、本当に大切なことは、伝わるべき人に「伝わった」かどうかです。コミュニケーションはあくまでも、「相手ありき」。相手が理解できていなければ、発信者側がいくら「伝えた」と言ったところで意味はありません。
もちろん、そんなリーダーでは部下とのあいだに認識の齟齬が起きることも少なくないでしょうし、チームとして大きな成果を挙げることが難しくなります。
「パーソナルパワー」とはEQそのもの
少し話がそれますが、ビジネスシーンでは重要な力のひとつとして「パーソナルパワー」というものもよく取り上げられます。パーソナルパワーとは、大企業に勤めているとか重要なポジションに就いているといった権威がもたせる力ではなく、「個人がもつ魅力による他者への影響力」を意味します。
そして、このパーソナルパワーとはEQそのものだと私は考えています。みなさんのまわりにも、「直属の上司だから」「重要な取引先の担当者だから」などが理由ではなく、「この人のためになら本気で頑張ろうと思える」「なぜかこの人のお願いは素直に聞きたくなる」という人がひとりはいるのではないでしょうか。
そういう人は、たとえば上司であれば、自分がミスをして落ち込んでいるときには親身になって話を聞いてくれたり共感してくれたり励ましてくれたり、あるいは、大きな成果を挙げられたときには、自分のことのように喜んでくれたりしてくれるのだと思います。
まさに、シチュエーションに応じてこちらの感情にフォーカスした言動にしてくれているわけで、そういう人のEQは間違いなく高いと言えます。
本気で感情移入して、家族など身近な人の話を聞く
すでにリーダーである、あるいはこれからリーダーになりたいという人であれば、そんな「EQ=パーソナルパワー」が高く、メンバーから慕われてチームの成果を最大化できるようなリーダーを目指しましょう。
そうなるためには、なにより感情にフォーカスする癖をつけることが欠かせません。そこでまずは、家族など自分の大切な人の話を、感情移入しながらしっかりと聞くことから始めてみましょう。
仕事から帰宅した際、同居する家族やパートナーから「今日、こんなことがあったんだよ!」と報告をされたとき、疲れからつい「ああ、そうなんだ」と受け流すような返答をしていませんか? それでは感情にフォーカスする力は育ちません。そうではなく、本気で感情移入するのです。
そう習慣づければ、徐々にでもチームのメンバーとのコミュニケーションにおいても、同じように自然と感情にフォーカスできるようになっていくはずです。
あわせて、自分の成功と失敗のパターンを認識することも心がけてください。人間にはうまくいくこともあれば失敗することもあります。誰とどんなコミュニケーションをして、自分と相手の感情はどうだったと認識したのか、その結果がうまくいったのかどうか、それらを記録して振り返るのです。
そうすることで、同じようなシチュエーションや相手とのコミュニケーションにおいて同じ失敗を繰り返すことを防ぐことができるようになっていきます。
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