新刊『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)がベストセラーとなっているコンサルタントの安達裕哉さんは、「頭がいい人」=「コミュニケーション能力が高い人」と位置づけています。
さらに、「コミュニケーション能力が高い人」は、優れた「聞く」技術を備えているのだそう。「聞く」技術の重要性はどんなところにあり、どうすれば身につけることができるのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
安達裕哉(あだち・ゆうや)
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社・ティネクト株式会社の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が「本質的でためになる」と話題になり、いまでは累計1億2,000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアとなっている。主な著書に『超アウトプット入門』(河出書房新社)、『すぐ「決めつける」バカ、まず「受け止める」知的な人』、『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』(以上、日本実業出版社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
自分から話す前に、とにかく相手に話してもらう
「頭がいい人」とは、どんな人を指すのでしょうか? 私は、「コミュニケーション能力が高い人」と解釈しています。集団で社会生活を営む人間にとって、コミュニケーション能力が重要な評価基準であるのは間違いありません(『「頭がいい人」とは「一緒に仕事がしたいと思われやすい人」。目指すなら “これ” を心がけよ』参照)。
そんなコミュニケーション能力に長けた「頭がいい人」は、優れた「聞く」技術をもっています。コミュニケーションというと、「自分が話す」ことをまずイメージするかもしれません。でも、よりよいコミュニケーションを図るには、「とにかく相手に話してもらう」のが重要です。これは、私がコンサルタントとして若手だった頃に、上司から徹底的に教え込まれたことでもあります。
コンサルタントという仕事は、相手に動いてもらわない限りいっさいの成果を出すことができません。ですから、「どうやったら相手が動くか」ばかり考えています。なぜなら、人は基本的にやりたいことしかやらないからです。
たとえコンサルタントとしてのアドバイスが有効であっても、クライアントはやりたいと思っていることしかやらないのですから、優先すべきはアドバイスの有効性ではありません。どんなアドバイスをするかということの前に、まずは相手がやりたいことを徹底的に聞き出して把握する。これが欠かせないのです。
もちろん、このような姿勢はコンサルタント以外のあらゆる職種の人にも有用なものです。仕事においては、顧客や上司、先輩、後輩、他部署の人など、周囲に動いてもらわなければならない場面が次々と訪れます。その相手を動かせるかどうかは、やはり相手がやりたいことを聞き出して把握できるかにかかっているのです。
脳のリソースのすべてを、相手の話を聞くことに振り向ける
では、具体的にどのようにして相手がやりたいことを聞き出せばいいのでしょうか。押さえるべきは次の3つです。
- 相手の言いたいことを考えながら聞く
- とにかくゆっくり話を聞く
- 相手の話を評価しない
まずは、「自分の言いたいことを考えながら聞くのではなく、相手の言いたいことを考えながら聞く」よう心がけてほしいと思います。
人の話を聞くときに、たとえば「うまいことを言おう、悩みを解決してやろう」などと、次に自分が話す内容ばかりを考える人もいます。でも、人間の脳はシングルタスクしかこなせないという話もあるように、自分が話すことを考えながら相手の言葉にきちんと耳を傾けて理解するのは至難の業です。いや、不可能だと言っていいでしょう。
実際にそうしてみると、相手の言葉と自分の言葉がかみ合わないちぐはぐなコミュニケーションになりがちです。相手からすると、「この人はちゃんと話を聞いていたのかな?」と思うことにもなりますから、その後のコミュニケーションもよくないものになってしまうでしょう。
そうではなく、それこそ脳のリソースのすべてを聞くことに向けるのです。そうしてきちんと相手の言葉に集中したほうが、事前に「次はこれについて話そう」などと考えるよりよほど相手に寄り添った言葉を紡げますし、結果的にコミュニケーションが深まります。
ゆっくり話を聞き、相手の話を評価しない
また、「とにかくゆっくり話を聞く」のも大切なポイントです。若手の頃の私自身もそうでしたが、クライアントの話を聞くようなときにはどうしても沈黙を怖がってしまい、つい矢継ぎ早に話をしていたものです。
でも、そうすると、相手がじっくりと考える時間を奪ってしまいかねません。もちろん、それでは相手の本当の気持ちや結論、言いたいことを聞き出すのは難しくなります。沈黙を恐れず、じっくりゆっくりと聞くように心がけましょう。
それから、最後にお伝えするのは、「相手の話を評価しない」こと。これは、簡単なようで意外に難しいものです。なぜなら、「相手の話を評価する」というのは「わかった気になる」こととほぼセットになっているからです。
話を聞いているうち、どうしても「この人の言っていることってこういうことだな」とわかった気になりがちです。その時点で、「もうこれ以上、話を聞かなくてもいい」と無意識のうちに判断をし、きちんと聞く姿勢が失われてしまうのです。
また、相手の話を評価すると、知らず知らず態度に出てしまう場合もあります。評価がネガティブなものだった場合、そのネガティブな感情が態度に出てしまえば、相手も敏感に察知してそれ以上深い話をしようとしなくなるのです。
ですから、話を聞くときには、「いい」も「悪い」もなく、ただ「相手がそう思っているだけの話」だと割りきり、客観的に冷静に話を聞き続けるように心がけることが大切なのです。
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