「資格試験だけでなく、仕事の勉強もしないといけない。でも、これ以上プライベートの時間を削りたくない……」
「仕事が忙しくなるにつれ、勉強時間が減ってきた。これでは試験に合格できないかも……」
多忙なビジネスパーソンにとって、勉強時間の捻出は切実な問題。成果を伸ばすには、どれだけ忙しくても勉強時間を増やすしかないと考える人も多いでしょう。
しかし、心配いりません。じつは、勉強時間を減らしても、勉強の成果は上げられるのです。
そこで重要なのは、勉強の「振り返り習慣」。今回の記事では、「YWT法」を使った勉強の振り返り方について、筆者の実践例とともにご紹介いたしましょう。
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。
日経BOOK PLUS|勉強できる子に共通する「メタ認知」とは?
STUDY HACKER|努力が報われなくて自己嫌悪に陥ったときに確認したいこと。「努力の方法、間違ってない?」
株式会社 日本能率協会コンサルティング|YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)
短時間でも勉強の成果を出すコツ
忙しいビジネスパーソンが勉強に多くの時間を費やす余裕はありません。では、短時間で成果を出すためには、何が必要でしょうか?
メタ認知を活用した「振り返り」
まず大切なのが、早い段階で勉強法を改善すること。
心理学博士の榎本博明氏は、勉強成果の差には「メタ認知が深く関係している」と述べます。メタ認知とは、下記の働きを指すのだそう。
- 自分の認知を客観的にとらえる
- 現状を評価する
- 必要に応じて、修正する
- 認知活動をコントロールする
(カギカッコ内引用元および上記参考:日経BOOK PLUS|勉強できる子に共通する「メタ認知」とは?)
これを、資格試験の勉強に当てはめてみましょう。たとえば、
――過去問を解いて、間違えたところを見直す。自分の弱点やミスの傾向を分析し、次に同じ失敗をしないよう、改善策を立てる――
このように、「冷静に振り返りのできる人」はメタ認知を活用していると言えるはず。ミスを分析して勉強法を改善すれば、成績アップにつながることは言うまでもないでしょう。
一方で、振り返りの習慣がない人は、成果を上げられないものです。その理由を、榎本氏はこう述べています。
成績の良い子は認知反応が優勢で、成績の悪い子は感情反応が優勢といった特徴がある。
(引用元:同上)
「感情反応が優勢」というのは、たとえば「なぜ覚えられないんだろう……」「間違えてばかりで自信がなくなる」など、嫌な感情が優位に働いてしまうこと。ネガティブな感情が強ければ、弱点の見直しもしたくなくなりますよね。結果として非効率な勉強を続けることになり、いつまでも成績が上がらないのです。
まとめると、勉強の成果を向上させるには、自分はいまどのようなやり方で勉強し、どの程度理解できているのかを客観的に振り返る習慣をもつことが有効だと言えます。
「ここはすでに理解しているから、復習はサラッとでよい」「ここは理解が浅いから、重点的に勉強しよう」などと、ムダを削り本当に必要な勉強にだけ注力すれば、勉強時間を減らしつつ成果を上げることができるのです。
適度な「プレッシャー」
勉強時間を短くするために、振り返りで注目すべき点はどこでしょう?
ポイントは、勉強の質を高める “プレッシャー” の度合いです。
脳科学者の中野信子氏は、「ストレスによってパフォーマンスが上がる」とし、根拠として「ヤーキーズ・ドットソンの法則」を紹介しています。その法則はこんな実験結果から生まれたのだそう。
ある一定の罰(ストレス)を与えたラットのほうが、罰を与えていないラットよりも作業効率が高まることがあきらかになっているのです。
(カギカッコ内および枠内引用元:STUDY HACKER|努力が報われなくて自己嫌悪に陥ったときに確認したいこと。「努力の方法、間違ってない?」)
中野氏はこの結果をふまえ、下記を意識すれば、自分のパフォーマンスを「最大限に引き出すことができる」と述べています。
- 適切なストレスとなりうるレベルの「目標」
- 頑張ればできるくらいの具体的な「締め切り」
(カギカッコ内引用元:同上)
たとえば、勉強に慣れてきたら、小テストをして難易度を上げる。いつもより5分短くタイマーを設定してプレッシャーをかける――のように、短時間でパフォーマンスを引き出すには “適度な緊張感を出す仕掛け” が大切なのですね。
以上をふまえると、「集中しやすいプレッシャーをかけられているかな?」と、いまの勉強目標や時間の使い方を見直し、調整するのがよさそうです。
振り返りのためのフレームワーク「YWT法」
勉強の振り返りにおすすめのフレームワーク「YWT法」についてご紹介しましょう。日本能率協会コンサルティング(JMAC)が開発した振り返りの手法で、YWTはそれぞれ下記を指します。
- Y:やったこと → 計画を実行したこと
- W:わかったこと → 気づきや感じたこと
- T:次にやること → 気づきから次の行動に反映させること
ノートに実践すると、下記のようなレイアウトになります。
JMACによると、YWT法は「あくまでも自分のために前向きな姿勢で用いる」のが原則。
(上記参考・カギカッコ内引用元:株式会社 日本能率協会コンサルティング|YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)
「わかったこと」に着目するため、「疲れて問題集まで手が回らなかった……」というような嫌な感情になることはありません。個人のペースで前向きにやり方を改良していけるのです。
「YWT法」で勉強時間の短縮にチャレンジしてみた
では、本当に効果はあるのでしょうか?
語学と教養の勉強で手一杯の筆者が、YWT法を使って勉強時間の短縮に1週間チャレンジしてみましたよ。
1日目:現状把握
初日は、語学の勉強に手がかかり、教養の読書にかける時間をつくれない状態でした。
しかし、W(わかったこと)の欄で分析してみると、語学でつまずくのは「語彙力が弱い」「品詞を理解していない」せいだとわかりました。ならば、リーディングは後回しにして、「単語テストや品詞の見直しを優先すれば改善されるのでは?」と仮説を立て、T(次やること)の欄に記入。
2日目:勉強時間の削減に成功
2日目になり、やるべき内容を絞ると、語学の勉強時間を “3分の1削減” することに成功。余った時間を教養のための読書に割り当てました。
しかし、本を15分以上続けて読むと集中力が低下すると判明したので、W欄に記入。では、高い集中力を維持して読むために10分の短い時間に区切ってみたら? とT欄で新たな仮説を立てて実践したところ……。
5日目:勉強の成果が表れ始める
5日目には、2冊の本を読了。普段なら1冊の新書に3~4時間かける筆者ですが、10分区切って読書するだけで、驚くことに1冊を2時間で読みきれたのです。
さらに、語学も問題の正答率が50%→75%にアップ、勉強の成果が表れていることを実感。振り返りの効果は絶大ですね。
勉強時間を減らすと「勉強の質」が上がる!
YWTの振り返りで気づいたのは、勉強時間を減らすと「勉強の質の向上」に直結するということです。
当初は語学の勉強に時間をかけていた筆者でしたが、W(わかったこと)の欄で分析すると、下記が浮かび上がりました。
- 優先すべき苦手な項目
- 難易度が合っていないムダな勉強
時間は3分の1削減でき、弱点をカバーすることで勉強の成果がアップ。結果的に、勉強の質を高めることに成功しました。
YWTで勉強を振り返るときのポイントは、具体的に洗い出すことです。
今回筆者は、下記のような数字を記入しました。数字は成果や進捗具合が具体的にわかるため、分析しやすくおすすめですよ。
- 問題集の得点
- 要した時間
また、「疲れてしまった」「没頭できた」など、感想を書くのも効果あり。
筆者の場合、疲れて勉強に集中できない日がありました。そこで、刺激を減らすため作業中のBGMをなくして勉強したところ、集中力が高まり、勉強の疲労も感じなくなったのです。
「よいプレッシャー」と「集中力を妨げるストレス」は人それぞれ。あえて感情面を書くことで、“自分が集中しやすい条件” が見えてくるはずです。
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YWTのフレームワークはシンプルなだけあり、自由に分析できる利点があります。自分に合った頻度で振り返り、やり方を改良して “短時間で成果が出る勉強法” を探してみてくださいね。