かつて1日10時間読書をしていたというテスラCEOイーロン・マスク氏、年50冊本を読むというマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏など、成功者には読書家が多くいます。
こうした成功者に憧れてたくさん本を読もうとするものの、「読書量を増やしてもいまいち効果が感じられない……」そんなことはないでしょうか?
もしかするとあなたは、どんなに読書をしても身にならない「二流」の読み方をしているかもしれません。この記事では、一生「二流」の読書家がやりがちな、残念な読み方3つをお伝えします。
二流は「読みやすそうな本」ばかり読んでいる
読みやすそうな本にばかり飛びつく人は、いつまでも「二流」です。
ビジネス書の愛読者でもある経営コンサルタントの藤井孝一氏は、年収1,500万円の人と比較して、年収500万円の人はすぐに役立ちそうな読みやすい本を選んでいると指摘します。藤井氏が紹介する、1,002人のビジネスパーソンを対象としたプレジデント誌のアンケートでは、役に立った本として年収1,500万円の人が『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』『コトラーのマーケティング入門』など難易度が高めの世界的ベストセラーを挙げていたのに対し、年収500万円の人は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『伝える力』といった新書を挙げていたそう。
また藤井氏は、役に立たなかった本として年収500万円の人が『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を挙げ、その理由は「内容が難しいから」だとしているのに衝撃を受けたと述べています。この本はドラッカーの『マネジメント』をわかりやすくかみ砕いたものですが、これでも「難しい」と感じるということは、圧倒的に読む力が足りていないことの表れ。
読む力を育てなければ、いま以上のレベルの知識は吸収できません。レベルの高い本を読むための思考力は、自分のレベルよりも難しい本と格闘して初めて養われるもの。ジャーナリストの池上彰氏と著作家の佐藤優氏は、読書に関する対談において次のように言っています。
池上 論理的な思考力を身につけるためには、難解な本と格闘する経験が必要不可欠ですからね。
佐藤 そう思います。とても難しいけど理屈が通っている本を丁寧に読む。そうすると、物事を論理立てて考えられるようになったり、だまされにくくなります。
(引用元:池上彰, 佐藤優(2016),『僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』, 東洋経済新報社. ※太字は筆者にて施した)
佐藤氏は格闘すべき難解な本の例として、『資本論』『精神現象学』『存在と時間』『善の研究』などの古典を挙げています。これらの本は古典の金字塔であり、読書初心者がいきなり読みこなせるものではありませんが、少しでもそのレベルに近づいていく努力が必要です。池上氏は、難解な本との格闘を「脳みそが汗をかくほど必死に向き合う」と表現しています。一流の読書は、頭をフル稼働させて難しい本を読み抜く経験のうえに築かれるのです。
知性を育てるには、「読みやすい国内ベストセラー」を卒業して「少し難易度の高い世界的ベストセラー」、さらに「難解な古典」と段階を踏んで本のレベルを上げていく読書が肝心。年収1,500万円の人や佐藤氏が挙げた本を参考に、いままで読んだことのないレベルの本にチャレンジしてみてください。
二流は「広く浅く読んで満足している」
たくさんの本を読んだだけで満足している人は、いつまでも「二流」です。
「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに、イノベーションや人材育成に関する著作や講演を行なっている山口周氏は、「広く浅い読書」では知的ストックが積み上がらないと言います。それは単純に、1回読んだだけだと必ず忘れるから。読み方が浅く読んだそばから忘れていけば、たとえ何百冊読んでも全部忘れてしまうことになります。
実際山口氏も、かつてコンサルティング業界に入ったとき、経営学だけで200冊ほどを読了したにもかかわらず、読んだ内容がまったく身についていないことに気づいた経験があるそう。つまり、量をこなすだけでは意味がないのです。では、どのように読めばいいのでしょうか。
山口氏が重要視するのは、何度でも読みたくなる本を見つけて、それを繰り返し読むという読書。繰り返し読めば、本の内容が確実な知識として定着します。読書の量ではなく質を高めるということです。
しかし、繰り返し読む価値のある「読みがいのある本」は、簡単に見つかるわけではありません。山口氏によれば、読みがいのある本に出会うにはたくさんの本に浅く接したあと、「これだ」と思ったものを何度も読み返すとよいそう。広く浅い読書は、読みがいのある本を見つけ出すための手段として行なうものだと、山口氏は言います。
あなたの読書は、「たくさんの本を読む」ということがゴールになっていないでしょうか。いろいろな本をただ1回ずつ読んで満足しているようでは、なんの知識も身についていないかもしれません。読みがいがある本を何度も読み、その本のエッセンスを確実に自分のものにする。これが、「一流」の読み方なのです。
二流は「みんなが読む本」ばかり読んでいる
誰もが読んでいる本ばかり読んでいる人は、いつまでも「二流」です。
山口氏は著書において、人と違う読書をすることで「差別化」を図るようにすすめています。
みんなが良い良いと言っている本は、みんなが読むわけで、それを読んでも「人並み」にしかならない。もし自分が他の人があまり読んでいないもの、つまりニッチな本に面白さを見出せたら、それは自分にとってユニークな差別化の源泉になるかもしれない
(引用元:山口周(2015),『読書を仕事につなげる技術』, KADOKAWA. ※太字は筆者にて施した)
誰もが読んでいる本ばかり読んでいても、結局はどこにでもいる読書家のビジネスパーソンになるだけ。「一流」はビジネス書だけではなく、哲学、史学、工学、生物学など、一見ビジネスとは関係のない本を読み、ビジネスとかけ合わせて自分だけの強みを生み出しているのです。山口氏自身も、大学の学部で哲学を、大学院で美術を学んだという異色の経歴を活かし、人文科学とビジネスをかけ合わせてコンサルティングを展開している「差別化」で成功したひとりです。
また前出の藤井氏も、ソフトバンク社長の孫正義氏が細胞分裂をヒントに数百社のグループ会社を展開したと言われていること、京セラの創業者の稲盛和夫氏が生物からヒントを得て「アメーバ経営」という独自の経営手法を考案したことを挙げ、ビジネスとまったく別の分野をかけ合わせる差別化の重要性を説いています。
では、差別化のために、ビジネス書以外にどのような本を読めばいいのでしょうか。山口氏は、なかなかアドバイスしづらいとしつつも、「本人がおもしろいと思えること」が本選びの前提条件になると言います。自分の強みをつくって差別化をすること、それは自分の個性を磨くことにほかならないからです。
業界の誰もがクリアしている基礎知識以外に、自分は何に興味があるのか。そう意識しながら、書店のさまざまな棚を見てみましょう。直接ビジネスにつながりそうになくても、自分が「おもしろい」と思える何かを学ぶ。その行為が、あなたを他人とは違う「一流」にするのです。
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本は、ただ何冊も読んでいれば力になるわけではありません。「一流」の読み方、選び方を心得て、これまでよりもずっと有意義な読書をしていきましょう。
(参考)
Business Insider Japan|著名な成功者8人が強調する「読書のパワー」
ダイヤモンド・オンライン|「一流の人」と「年収500万の人」で読む本はこんなに違う
プレジデントオンライン|ファンタジーに逃げる“下流”の人々 -「年収別」心底、役立った1冊、ゴミ箱行きの1冊【1】
プレジデントオンライン|仕組みで稼ぐ一流、スキルを磨く二流 -「年収別」心底、役立った1冊、ゴミ箱行きの1冊【2】
池上彰, 佐藤優(2016),『僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』, 東洋経済新報社.
山口周(2015),『読書を仕事につなげる技術』, 株式会社KADOKAWA.
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。