なんだか最近ストレスがたまってきた、と感じるなら、精神科医がすすめる「3行ポジティブ日記」を試してみてはいかがでしょう。 ストレス・マネジメントにおいて重要な、レジリエンスを高めてくれるそうです。
寝る前の、ほんの短い時間、1日の楽しかったことを思い出して、たった3行書くだけでいいのだとか。最近ちょっとストレスを感じている筆者もやってみました。
脳は「心の持ちよう」に影響される
早稲田大学戦略研究センター教授の枝川義邦氏は、「近年、“心の持ちよう(捉え方・認識の仕方)”に、脳活動が影響を受けることがわかってきた」と述べ、2つの実験結果を例に挙げています。
1つ目はワインを使った実験。
まったく同じワインを、ラベルだけで「高いワイン」と「安いワイン」に分け、被験者に飲み比べてもらったところ、多くの人が「高いワイン」と示されたほうを、“おいしい” と感じる結果が出たそうです。
重ねていいますが、実際には同じワインでした。
2つ目は炭酸飲料を使った実験。
2004年発表のfMRI(MRI 装置を使った脳活動の計測)を用いたアメリカの実験では、被験者にコカ・コーラとペプシ・コーラを、「ブランドを隠した状態」と「ブランドを見せた状態」で飲んでもらったそうです。
すると、前者で は“同等” に好みが分かれたにもかかわらず、後者では、コカ・コーラのほうが好まれる傾向を示したのだとか。
また、被験者に「コカ・コーラの銘柄」を示した際には、背外側前頭前野(DLPFC)、海馬、および中脳で有意に大きな脳活動が観察されましたが、「ペプシ・コーラの銘柄」を見せても特に活動はなかったとのこと。
なんだかペプシファンには複雑な結果ですが……。
いずれにせよ、実際の中身がどうであれ、高いからこのワインはおいしい、トップブランドだからこの炭酸飲料はおいしいというふうに、値段やブランドは「味覚」に影響を及ぼしやすいと示されたわけです。なおかつ、「心の持ちよう(捉え方・認識の仕方)」が脳活動に影響することも証明されたわけですね。
「心の持ちようの力」を応用するために
枝川氏は「心の持ちようの力」を応用すれば、ストレスをエネルギーに変えられるといいます。たとえば、どんなに耳が痛いことを指摘されても、とらえ方次第で「これで悪いところを直せる。いいことを教えてもらった」となるからでしょう。
じつは、その際に重要なのが、“折れない心” や “へこまない心” 、“心のしなやかさ” などと表現される概念=「レジリエンス」なのだそう。
ストレスを受け、その力なりに凹んでしまうのではなく、グーンとしなり「よーし」と心の景色を変えて、ストレスに押されたぶんビョーンと勢いよく跳ね返してしまう印象でしょうか。
一方で精神科医の樺沢紫苑氏は、レジリエンスを高めることでストレスを受け流すことができ、心が折れなくなると示唆しています。
“しなり” のいいレジリエンスによって、ストレスをエネルギーにしたり、軽くあしらったりできるわけです。樺沢氏によれば、レジリエンスを構成する主な要素は次のとおり。
- 自己認識
- 自制心
- 精神的敏しょう性(客観性・ものごと全体の見方や判断)
- 楽観性
- 自己効力感
- つながり
じつは、これらの要素ほとんどを高めてくれるのが、樺沢氏の提案する「3行ポジティブ日記」なのだそうです。
レジリエンスを高める「3行ポジティブ日記」とは
「3行ポジティブ日記」とは、たとえばランチで食べたラーメンがおいしかった、同僚とバカな話をしてたくさん笑った、企画が通ったなど、1日の終わりに今日の楽しかったことや、前向きな出来事を、たった3つ書くだけの日記のことです。
手書きでも、スマートフォンのメモでも、SNS投稿でも、何でもいいとのこと。ただし、次のルールが設けられています。
- 寝る直前に書く
- ネガティブなことは書かない
- 必ず3つ書く
同氏によると、寝る前の約15分間は記憶のゴールデンタイム。もっとも記憶に残りやすいそうです。そのタイミングで楽しいことを思い出しながら書くことにより、自分の価値を認めることができ、ポジティブになれるとのこと。日記は自分を客観的に観察する機能を持つので、自己認識や客観性も高まるはずです。
また、ネガティブなことを書くのがNGなのは、寝る前にネガティブ思考を誘発し、不安を高めて睡眠を妨げないようにするためです。
そして、今日1日のなかで楽しかった出来事を、どうにか必ず3つは思い出そうとする行為は、ポジティブ思考のトレーニングになるとのこと。
では、筆者もさっそく挑戦してみます。
「3行ポジティブ日記」をやってみる
バレットジャーナル(箇条書きの手帳)の発案者として知られるライダー・キャロル氏は、「手書き」が読み書きの能力を高めること、脳を刺激して活性化させること、記憶を持続させること、テストの平均点を上げてくれることなどを示した、ワシントン大学やプリンストン大学などの研究を紹介しています。
ストレス・マネジメントついでに脳も鍛えられるなら、それに越したことはありません。筆者も「3行ポジティブ日記」を手書きで行うことにしました。
正直なところパッとしない2日間でしたが――とにかくルールに従い、楽しかったことや前向きな出来事を、無理やりにでも3つ思い出して書いたところ、心にあったいくつかの「不安」を、いつの間にか忘れて寝床に入ることができました。
この快適さに助けられ継続できそうなので、引き続き1週間、「3行ポジティブ日記」を続けてみます。
「3行ポジティブ日記」をやってみた感想
じつは最初、無理やりポジティブなことを考える行為は、余計にストレスをためるのではないかと感じていました。しかし、実際には逆でした。
ただし、ものすごく前向きになれる、というよりも、「3行ポジティブ日記」を書いていると、小さな不安から大きな不安まで、なんだかどうでもよくなってきます。そして、とても眠くなってくるのです。
自分なりに分析してみたところ、その理由はこうです。
たった24時間のなかで、楽しかったこと、前向きなことを思い出すのは意外に大変なことでした。それゆえに、「えーと、これは楽しかったかな? 前向きなことかな? うーん、それほどでもないな。これはどうかな」などと記憶をたどっていく際、この作業に役立たないネガティブな記憶は邪魔になってくるのです。
つまり、「3行ポジティブ日記」という作業を遂行しようとすることで、「事務的」に淡々とイヤな記憶を排除できるわけです。
じつのところ、この農作業ならぬ脳作業は、結構な負荷がかかります。するとだんだん眠くなってくる……、というわけです。
それに加え、「楽しいことや前向きなこと」のハードルを、いつの間にか自分自身で上げていたことにも気づけます。
だから、「3行ポジティブ日記」を書いているうちに眠くなり、あくびをしながら寝床に向かった筆者の頭に残っていたのは、とてもささやかな“3つの良かったな”です。
したがって、記憶のゴールデンタイムに「3行ポジティブ日記」でストレス・マネジメントしてみたところ、こんなことが起こりました。
- いつの間にか、役に立たない不安を捨てていた
- ささやかな “3つの良かったな” に気づけた
- “3つの良かったな” を胸に、自然と入眠できた
確かに、心が “しなやか” になったかも?
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ともすれば、ネガティブなことばかり考えてしまいそうなストレスの多い日々。ぜひ記憶のゴールデンタイムに、「3行ポジティブ日記」をお試しくださいね。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
(参考)
日本の人事リーダー会|「日本の人事リーダー会」第11回会合レポート
Neuron|Neural Correlates of Behavioral Preference for Culturally Familiar Drinks
リクナビNEXTジャーナル|仕事のパフォーマンスUP!精神科医がお勧めする「アウトプット」術とは?
東洋経済オンライン|うつになりやすい人の意外に典型的なパターン
ダイヤモンド・オンライン|記憶、情報整理、精神の治癒……手書きが結局、いちばん効果的な理由
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