みなさんは「ゆでガエル理論」を知っていますか?
カエルを水の中に入れて水温を少しずつ上げていくと、温度変化に気づかないため逃げ出そうとせず、最終的には熱湯の中でゆであがって死んでしまう――「状況変化が緩やかだと、それに気づかず手遅れになる」ということを戒める寓話です。
実際のカエルは、ゆであがる前にきちんと逃げ出すそうですが……周囲の状況が刻々と変化しているにもかかわらず行動を起こそうとしない、そんな人は多いのではないでしょうか。そこで今回は、「ゆでガエル」状態から脱するための3つのヒントをご紹介します。
【1】“いま” にあぐらをかかない。 「ラーニングゾーン」に身を置こう
人は、「自分ができる範囲」で行動することに安心感を覚えます。ミシガン大学ビジネススクール教授でリーダーシップ論の専門家であるノエル・ティシー氏は、これを「コンフォートゾーン」と名付けました。
精神的に消耗しすぎない “避難所” として、コンフォートゾーンは必ずしも否定されるものではありません。手慣れた業務に取り組む、これまで通りのやり方で進める――たしかに楽ですよね。問題は、コンフォートゾーンに安住してしまうこと。新しいスキルがなかなか身につかず、成長が鈍化してしまうのです。
じつはティシー氏は、コンフォートゾーンのすぐ外側には「ラーニングゾーン」があるとしています。自分にとって未知なため、“新しい学び” が必要な領域です。もし、「できないこと・新しいことには手を出さない傾向にある……」という自覚があるのであれば、ラーニングゾーンに足を踏み入れて自分に負荷をかける必要があると言えるでしょう。
とは言え、いきなりラーニングゾーンに身を置くのはハードルが高いかもしれません。そんなときはスモールステップで。小さな変化でもいいので、徐々に慣れていきましょう。
たとえば、やったことのないタスクを頼まれたら断らず挑戦してみる、これまでのやり方以外の方法を模索して試してみる、など。そうやって自分のスキルを少しずつ広げる習慣をつけておけば、いざというときに「ゆでガエルになっていて手遅れ……」なんて事態も防げるはずです。
【2】やみくもな情報収集はNG。「ゴール」を明確にして
ヒューマンロジック研究所代表取締役で人材育成に詳しい古野俊幸氏は、行動への最初の一歩を踏み出せない人の特徴として「情報収集に必要以上に時間をかけすぎてしまう」という点を指摘しています。
古野氏がわかりやすい例として挙げているのは、漫画『宇宙兄弟』の主人公である南波六太(ムッタ)。作中でJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士選抜試験を受けている最中、ムッタはとある事件により「試験に100%落ちた」と思い込んでしまいます。その後ムッタがとった行動は、新聞を読む・ラジオを聞く・テレビを観るなど、なんでもいいので「新しい情報」を仕入れることでした。
次に失敗しないためにとにかく情報を集める――たしかに正しい側面もありますが、古野氏は「情報を集めただけで『とりあえず少しは前に進んでいる』と安心してしまう」ことに警鐘を鳴らしています。自分では頑張っているはずなのに、意図せず「ゆでガエル」になってしまう典型例かもしれませんね。
情報収集は、次に「行動」するための準備に過ぎません。もし過度に情報収集してしまう癖があり、肝心の行動につなげられない方は、アナリストの高辻成彦氏が述べる次の3点を事前に押さえておくことをおすすめします。
- 何をリサーチするか
- 何をリサーチの解決とするか
- いつまでにリサーチするか
このように、情報収集のゴールを明確にし、それが過ぎたら行動に移すと決めてみてください。情報収集して足踏みなんてもったいないですよ。
【3】失敗も成長の糧になる。「セルフコンパッション」を高めよう
とはいえ、いざ行動に移せるという段になっても、なかなか勇気が出ず一歩が踏み出せないという場合もあるでしょう。コンフォートゾーンに居続ければ苦労しないのに……難しいことに挑戦しない限り失敗しないのに……こんなふうに、失敗に対する恐れが、あなたを再び「ゆでガエル」状態に戻してしまうかもしれません。
そこでおすすめするのは「セルフコンパッション」を高めること。これは「自分への思いやり」を意味します。『残酷すぎる成功法則』著者のエリック・パーカー氏は、行動への自信を与えてくれるものの傲慢さも生んでしまう「自尊心」からマイナス面を除いたものが、セルフコンパッションであると言います。過剰に成功を追い求めず、かと言って失敗しても責め立てない――自分を優しくいたわれるような状態をイメージすればよいでしょう。
セルフコンパッションの効果は、さまざまな研究でも証明されています。たとえば、足立区スクールカウンセラーの知久昌史氏らの研究では、自己受容感(あるがままの自分を受け入れる)の向上、失敗などによるネガティブ感情の低減、完璧を求める心理の低減などが認められました。
セルフコンパッションを高める方法として、ここでは「自分への手紙」というワークを紹介しましょう。臨床心理士の石上友梨氏もすすめる方法です。
1. まず、身近な人でも、過去の偉人でも、有名人でも、映画・ドラマ・アニメのキャラクターでも何でもいいので、「優しくて思いやりのある理想の人物」を思い描く。
2. 次に、自分の欠点や失敗について、ただ淡々と事実のみを書く。
3. そして最後は、先に思い浮かべた「優しくて思いやりのある理想の人物」が書いたと想定し、自分に宛てた手紙を書く(自分の欠点や失敗について、優しく思いやりたっぷりに)。
(引用元:STUDY HACKER|拝啓 自信を失っている私へ――「自分への手紙」を書いたら心がすっきりして泣けてきた話)
「自分への手紙」の実践をレポートしている記事でも、「完璧ではない自分を受け入れると、怖いものなしだとわかった」といった感想が並びます。「ゆでガエル」状態にある人も、セルフコンパッションを高めることで、「失敗しても大丈夫」と恐れることなく行動に移せるようになるでしょう。
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現状に不満を感じていないなかで、無理に変化を起こそうとしても、ストレスがかかって精神を消耗します。一方で、刻々と変わりゆく世の中で、自分自身が変わっていかなければいけないのも事実。まずは自分の現状を把握し、無理のない範囲で行動を起こしていきましょう。
文 / 谷口亮祐
(参考)
日経スタイル|ぬるま湯に浸るゆでガエル社員 目を覚まさせる方法は
GLOBIS知見録|コンフォートゾーンとは、そこから抜け出して成長する方法とは?
日経ビジネス電子版|「果敢に飛び込んでいく人」を羨む必要はない
ダイヤモンド・オンライン|一生使えるビジネススキル、一次データの「リサーチ力」を鍛えよう!
プレジデントオンライン|失敗を恐れなくなる「最強の感情」の効力
知久昌史, 石村郁夫(2014),「弱みに寛容になるプログラム効果の検討」, 日本ヒューマン・ケア心理学会.
ニューロマインド|セルフコンパッションが、職場のチーム力を向上させる
STUDY HACKER|拝啓 自信を失っている私へ――「自分への手紙」を書いたら心がすっきりして泣けてきた話