世のなかでは「趣味と仕事は別だ」と言われます。しかし、ハイパフォーマーがもつ要素を分析している増子裕介さんと、その分析対象となったこともあり、絵を描きながら脳力開発を行なうプログラムを提供する増村岳史さんは、「趣味は必ず仕事に好影響を与えてくれる」と語ります。仕事を楽しみながら高い成果を出す秘訣について聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
増子裕介(ますこ・ゆうすけ)
1965年6月5日生まれ、兵庫県出身。株式会社T&Dコンサルティング代表取締役。東京大学教養学部卒業後、株式会社電通に入社。約20年の営業生活を経て、2008年に発足した社長直轄セクション「グローバル・ヒューマン・リソース室」の立ち上げに参加。「海外拠点を人材面から強化する」というミッションにゼロから取り組み、ローカル社員を包含する人事・人材育成の仕組みを開発し、13の拠点に導入。複数の拠点がエージェンシー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、目に見える成果につながった。電通本社においては「Dentsu Cene」プロジェクトを推進し、継続的に高い成果をあげている社員に共通する能力の見える化に成功。独自メソッドに基づく人事コンサルティングに専念すべく、株式会社T&Dコンサルティングを立ち上げ、現在に至る。
増村岳史(ますむら・たけし)
1966年1月25日生まれ、東京都出身。アート・アンド・ロジック株式会社代表取締役。学習院大学経済学部卒業後、株式会社リクルートに入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の制作および出版事業を経験。リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年、アートと人々とのあいだの垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART & LOGIC(アート・アンド・ロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に、『ビジネスの限界はアートで超えろ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「仕事を『プレイ』する」ことと「常に学び続ける」ことはセット
――おふたりの共著『ハイパフォーマー思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)には、ハイパフォーマーが共通してもつ思考・行動様式として、「仕事を『プレイ』する」ことと「常に学び続ける」ことをセットで考えているとありました。
増子 そもそもの話として、私が行なっているハイパフォーマー分析の結果、継続的に成果を挙げ続けているハイパフォーマーは例外なく、「仕事を楽しみながら遂行する人(=プレイヤー)」だとわかりました。
同じ仕事をするのであっても、その仕事を楽しんでやるのか、それとも嫌々やるのかでそれぞれの成果に大きな差が生まれるのは容易に想像できるはずです。ここで注意してほしいのは、「プレイ」するとは「楽をする」という意味ではないということ。
仕事を「プレイ」しているハイパフォーマーの好例が、野球のメジャーリーグで大活躍を続けている大谷翔平選手です。メジャーデビューした2018年、ジャスティン・バーランダーという屈指の好投手と初対戦した大谷選手は、4打席でヒットはゼロ、しかも3三振を喫しました。ところが、試合後のインタビューで大谷選手は、「個人的にものすごく勉強になった」とニコニコと笑いながら語ったのです。
バッターとして投手に打ち取られるのが楽しいはずがありません。でも、おそらく「これからやらなければいけないこと、やれることがたくさん見つかったぞ!」と大谷選手は思ったのではないでしょうか。
目の前にある困難なハードルを乗り越えるためになにが必要なのかと考え、それを実現するために徹底して努力を続ける。その先に大きく成長して結果を出す。それこそが、「プレイ」するということなのです。
もちろん、困難なハードルを乗り越えるには、「常に学び続ける」姿勢が欠かせません。そして、学び続けて自分の成長を感じられるのは、楽しさを感じる、つまりプレイすることにもつながります。だからこそ、ハイパフォーマーたちは「仕事を『プレイ』する」ことと「常に学び続ける」ことをセットで考えているのです。
「仕事を『プレイ』できない」場合の理由と対処法
――ただ、「仕事を『プレイ』せよ」と言われても、「そうはできそうもない」と感じる人もいそうです。
増子 仕事をプレイできない要因としては、ふたつの可能性が考えられます。ひとつは、本当ならプレイできるはずなのに仕事のおもしろさに気づいていない可能性です。
このケースに対処するには、「同じ仕事をしていて楽しそうにしている人」に話を聞くのが一番です。「どうして楽しそうなのか」と尋ね、その答えを聞けば、自分では見落としていた楽しみを見いだせるかもしれません。
もうひとつの可能性は、単純にそもそも仕事に合っていないということです。すべての人が楽しみを見つけられる仕事は存在しません。周囲の人に「どうして楽しそうなのか」と尋ねてその答えを聞いてみてもピンとこないのなら、ほかに自分が楽しめる仕事を探すのがいいでしょう。
私自身も電通で20年ほど営業を担当していましたが、そのあとで人事の仕事に携わるようになって、まさしく楽しさを感じました。その経験が、ハイパフォーマー分析といういまの仕事につながっています。
増村 「石の上にも3年」という言葉もあるように、楽しさを感じられるようになるにはある程度の時間が必要であることも認識しておいてほしいですね。転職市場が活性化しているのもあって、すぐに仕事を変えようとする人も多いものですが、仕事の全容やその楽しさが見えるようになるには、やはり一定の時間が必要なのだと思います。
趣味での経験は必ず仕事にもフィードバックされる
――「常に学び続ける」うえで、注意すべき点はありますか?
増村 「スキル」に偏りすぎないという点です。「学ぶ」というと、どうしても「新たなスキルを身につけること」だと考えがちですよね。そうではなく、「自分の好きなことを追求し続ける」のだって学び続けることなのだと思います。
「趣味と仕事は別だ」と言う人も多いものですが、私はそうは思いません。なぜなら、どちらも同じ人間が同じ脳を使ってやっているからです。趣味での経験がどこかで仕事につながることだってまったく珍しくはありません。
世のなかの偉大なイノベーションを見ていくと、なんらかの課題を与えられ、「よし、これを解決しよう」と、まさしく仕事としてとらえて生まれたケースはそう多くないのです。
スティーブ・ジョブズが開発したMacintoshによって、印刷物のデータ化(DTP)という革命が起きました。ただし、ジョブズは「印刷物のデータ化をしよう」と最初から考えていたわけではありません。
Appleを創業する以前、大学を中退してヒッピーだったジョブズは、かつて自分が在籍していた大学の授業に忍び込み、文字を美しく見せるための手法である「カリグラフィー」を熱心に学んでいました。文字の美しさにただ魅了されていたからです。そこに、「これを仕事に活かそう」といった意識はありませんでした。
しかし、その経験が、Macintoshに美しく細やかなフォントを導入することにつながり、ひいてはDTPの道を切りひらいて一般化させることにつながったのです。
ですから、読者のみなさんも、好きな趣味を徹底的に追求すればいいのです。同じ人間が同じ脳を使ってやっているのですから、趣味での経験は必ず仕事にもフィードバックされます。
増子 私はいま58歳ですが、講談と三味線を習っています。それらのスキルそのものでなく、そのように年をとってもなにか新しいことを学び続けようとする姿勢は、私の仕事に対しても間違いなくいい影響を与えてくれていると思います。
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