仕事に関する愚痴がたまっている人は多いのではないでしょうか? 職場に対して何の不満もない、という人はなかなかいないはず。
とはいえ、周りの同僚や上司、さらには会社そのものにストレスを感じていても、自分の気持ちを愚痴としてアウトプットするのには多少のためらいを覚えますよね。愚痴を聞かせる相手にストレスを押しつけてしまうことになるかも……問題解決の努力を怠る人間だと思われてしまうかも……といった懸念があります。
しかし、愚痴を完全にため込んでしまうのもまた、ストレスの元。そこで今回は、仕事に関する愚痴をどう処理するべきか、お教えしましょう。
仕事の愚痴を言うデメリット
まずは、仕事の愚痴を言うデメリットを確認しましょう。
相手を不快にさせる
愚痴をこぼすデメリットは、聞いてくれた相手に不快感を与えてしまう恐れがあること。愚痴を言う側は、日頃の不満を吐き出せるのでスッキリするかもしれませんが、聞いている側は、必ずしも同じ気持ちでいてくれるとは限らないのです。
飲みの席などでいつも愚痴をこぼしていると、「この人と話しても楽しくない」と思われ、周りの人が離れていってしまうかもしれません。愚痴を聞いてもらう相手は、慎重に選ぶようにしましょう。
問題の解決が遠ざかる
愚痴をこぼすことで、問題の解決が遠のいてしまうケースもあります。たいてい、愚痴を言う目的とは、現状への不満を吐き出すこと。「その不満をどうやって解決するか?」というところまで話が進みにくいものです。
たとえば、「ウチの上司が話を聞いてくれなくてさぁ」という愚痴をこぼすと、不満を吐き出せたことでそれなりに満足してしまい、「どうすれば上司に話を聞いてもらえるのか?」「話を聞いてくれないのはなぜなのか?」とまで考えを深める意欲がなくなってしまいます。要するに、“口ばかりで努力をしない人” になってしまう恐れがあるのです。
「ネガティブ中毒」に陥ってしまう
メンタルコーチングの専門家マッツ・ビルマーク氏によると、ネガティブ思考には、ある種の “中毒性” があるのだそう。
ネガティブなことを言うと、周りの人が親身になってくれたり、力を貸してくれたり、あるいは面倒なことを肩代わりしてくれたりする場合がありますよね。また、「上司が話を聞いてくれなくてさぁ」と、問題を上司のせいにしてしまえば、自省の必要がなくなり、楽をすることができます。
このように、「ネガティブなことを言うと良いことがある」という成功体験をすると、さらに愚痴が多くなり、ネガティブ思考が強化されていく……という悪循環にハマってしまう恐れがあるのです。仕事の愚痴には、デメリットが多いのですね。
仕事の愚痴を言うメリット
仕事などの愚痴を言うのは「ダメなこと」というイメージが強いですが、愚痴との付き合い方・向き合い方によっては、いくつかのメリットも考えられます。
ストレスを解消できる
愚痴をこぼすメリットは、もちろん、ストレス解消です。仕事などでストレスがたまっているとき、友だちなどに愚痴をこぼすことで気持ちを晴らした経験は、誰にでもあるでしょう。自分ひとりではどうにもできない問題や、どうしても処理できないストレスを抱えてしまった場合には、素直に人に打ち明けるのも手です。
しかし、愚痴をこぼす相手によっては、批判や反論をされ、かえってストレスが増してしまう恐れも。精神科医の奥田弘美氏は、愚痴を話すのに適した相手の条件として、以下の4つを挙げています。
- 口が堅い人(信頼できる人)
- ネガティブすぎずポジティブすぎない人(癒やし系の人)
- 話に対して評価や批判をしてこない人
- 求めてもいないアドバイスをしてこない人
愚痴がたまってしまったときには、上記の条件を満たす人だけに打ち明けるのが無難です。
思考を整理できる
愚痴をこぼすことが「思考の整理」につながる場合も。奥田氏によると、自分の気持ちをアウトプットしているうちに悩みが整理されていき、頭がクリアになっていくのだそう。たしかに、人と話していると、自分の口から思いもよらない言葉が出てきて、「私はこんなことも考えていたのか」と気づかされることがあります。
アウトプットは、自分の本当の思いに気づいたり、心の底にたまっている感情を言語化したりするために必要なプロセスです。悩みが明確になれば、次に起こすべきアクションのヒントや、解決の糸口が見つかりやすくなるかもしれません。
問題発見のキッカケになる
仕事術に関する著書を多くもつ経済学者・陰山孔貴氏によると、愚痴は「理想と現実の間に生じたギャップ」なのだそう。たとえば、不親切な上司について愚痴をこぼしたくなるのは、「上司は親身であるべき」という自分の理想と、現実の上司のあいだにギャップがあるからなのです。
したがって、「愚痴っぽい」ということは、現状の仕事や職場にどんな欠陥が存在しているか、問題発見をする力に長けているということでもあります。その問題発見能力を仕事で活かすには、居酒屋で愚痴って終わるのではなく「どうすれば解消できるか?」と建設的な思考を働かせていくのが大切です。
仕事の愚痴がたまったときの対処法
どうしても仕事などの愚痴を吐き出したいときには、どのような対処法があるのでしょうか? “誰かに聞いてもらう” 以外で考えられる方法を3つご紹介します。
ノートに書き出す
愚痴をノートに書き出すと、ただ話すのと違い、自分の感情や思考の痕跡が文字として残ります。そのため、書き出した言葉を冷静に振り返り、「ここは自分が間違っているんじゃないか?」「これは○○すれば解決できるんじゃないか」など、客観的に分析することが可能になるのです。それに、黙々とノートに書き出すだけならば、他人に不快感を与えてしまう心配もありませんよね。
経営者でビジネス本作家の臼井由妃氏は、愚痴を紙に書き出す際のコツとして、以下の2点を挙げています。
今の気持ちを思いつくまま書く
愚痴を紙に書くときには、余計な遠慮をせず、自分が今思っていることをそっくり吐き出すようにしましょう。誰に見せるわけでもないのですから、「これは書いちゃまずいかな」「これは書く必要がないかな」などと心配する必要はありません。素直に自分の気持ちをアウトプットしましょう。
自分の言葉で書く
紙とペンを用意したからといって、「ちゃんとした文章を書こう」と気合を入れる必要はありません。脳裏に浮かんだ「自分の言葉」を、そのまま外へ出すだけでいいのです。文法や文字が間違っていたとしても、あとから読み返して自分が理解できるのであれば、まったく問題ありません。
考え方を変えてみる(リフレーミング)
愚痴を言わないようにする方法として挙げられるのが「リフレーミング」です。リフレーミングとは、私たちが物事を捉える視点(フレーム)を変えることで、ポジティブ思考を促すスキルのこと。たとえば「面倒な仕事を任されたなぁ」と愚痴が出そうになったとき、「いや、自分を成長させる機会だぞ」と良い方向へ解釈し直す、という具合です。
【リフレーミングの例】
- 面倒な仕事を任された→成長するいい機会だ
- 空気が読めない人だ→自分の意思をしっかりもっている人だ
- 雨が降って嫌な気分だ→たまには雨音を聞くのもいいものだ
リフレーミングによって、愚痴やストレスを減らすことが期待できます。 リフレーミングに役立つのが、「ネガポ辞典」(iOS/Android)というアプリ。ネガティブな言葉をポジティブな言い回しに変換する例が、多数掲載されています。無料で利用できるため、ポジティブ思考が苦手な方は、ぜひ活用してみてください。
アプリやサイトに吐き出す
友だちや家族に打ち明けられない愚痴を抱えてしまった場合、インターネットを活用するのもひとつの手でしょう。「ネットに書き込む」という行為にあまり良いイメージがない方もいるかもしれませんが、匿名でないとなかなか吐露できない悩みもありますし、自分と同じ悩みをもっている人をインターネット上で見つけ、安心感を得られる場合も。
もちろん、自分の悩みとじっくり向き合いたい場合、インターネットよりもノートなどに書き出すほうが適しています。しかし、インターネット上で吐き出す方法は、「人に聞いて(読んで)もらっている感じが得られる」という点で優れていると言えるでしょう。愚痴を投稿するためにつくられた専用サイトやアプリもあるようです。
ただし、インターネット上の掲示板などに書き込もうとすると、ほかのユーザーが投稿した愚痴も目に入るので、かえってストレスを感じてしまうしれません。また、匿名だからといって過激すぎる言葉を使ったり、名前を挙げて中傷したりするのは当然ご法度。仕事などの愚痴を書き込むにしても、あくまで「自分が世の中に発信している文章なのだ」という意識を忘れずに、節度を守って利用してください。
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問題解決とつなげて考えれば、仕事の愚痴を通して自己成長や現状打破のチャンスを得られます。そのためには、愚痴を言いっぱなしで終わらせず、ノートに書くなどして客観視することが大切です。自分のなかに溜まっている愚痴を「これから解決すべき問題」として捉え直し、今一度、正面から向き合ってみましょう。
(参考)
松浦弥太郎(2010),『あなたにありがとう。暮らしのなかの工夫と発見ノート3』, PHP研究所.
東洋経済オンライン|グチばかり言う人がみずから招いている不幸
DtoDコンシェルジュ|第3回目 「自分の『ストレス解消法』がよくわからない」
シゴトサプリ|愚痴をSNSに吐き出すのって、ストレス解消になってるの?
東洋経済オンライン|飲み屋で「愚痴る」のが必ずしも悪でない理由
NIKKEI STYLE|自然と愚痴を口にしなくなるストレス吸収技がある
直井みずほ(2017),『図解でわかる! NLP』, 秀和システム.
App Store|ネガポ辞典
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。