「いざ企画書を書こうとしたものの、何を書けばいいのかわからず前に進まない……」
「報告書や挨拶文を書くときに、文章が思いつかず必要以上に時間がかかる……」
こんな経験、ありませんか?
その原因は、センスや発想力が足りないからではなく、“書くための情報を集める” という準備が足りていないからかもしれませんよ。
そこで今回ご紹介するのが、書くための情報を整理し、悩まずに書けるようにする「9マス自問自答法」です。ぜひこの記事を読んで、文章を書くときの助けにしてみてくださいね。
「9マス自問自答法」とは
「9マス自問自答法」とは、伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏が著書『「9マス」で 悩まず書ける文章術』で紹介している、文章を書くための情報を集める方法です。
9個のマス目を用意し、自分が書こうとしていることについて、1マスに1つずつ自分への質問を考えます。あとはそれに回答するだけという、とても簡単な方法です。
具体的な例を紹介する前に、9マスという枠組みが持つ効果について、山口氏の見解を見てみましょう。
9マスというと多く感じるかもしれませんが、「最低9個は考える」と自分に約束することで、脳の活動力がアップします。あらかじめマス目の量が決まっているほうが、「書きたい(埋めたい)」という気持ちが高まるからです。
9マスは、脳の能力を引き出す便利なツールなのです。
(引用元:山口拓朗 (2019),『「9マスで」悩まず書ける文章術』, 総合法令出版.)
達成目標を設けることは、脳科学的にも効果的です。精神科医の樺沢紫苑氏によれば、目標を作ってそれを達成したとき、あるいは達成できそうな目標に取り組むとき、脳ではドーパミンが分泌されるのだそう。このドーパミンには、脳の前頭葉の機能を向上させ、集中力や学習機能がアップさせる効果があるのです
山口氏は、4マスや6マスではツールとしては少し物足りず、かといって12マスや16マスでは書くのが大変そうと尻込みしてしまうので、9マスが絶妙なマス目だと述べています。達成できそうな範囲で、かつ実際の達成感が得られる数として、9というのは最適な数字なのかもしれませんね。
【手順1】質問を決めよう
それでは、実際に「9マス自問自答法」を通してどのように文章作成につなげるか、筆者自身が実践してみたので紹介していきます。
今回は、筆者自身が『「9マス」で悩まず書ける文章術』を読んで感じたことをブログにアップするイメージで書いてみることにしました。まずは、作った9マスの質問をご覧ください。
とはいえ、いきなり質問を考えようとしても、そもそも思い浮かばなかったり、どんな質問が効果的なのかわからなかったりしますよね。そこで、山口氏がすすめる質問の作り方を2つご紹介しましょう。
1.「ベーシック質問」と「スコップ質問」用意する
読みたくなる文章には「情報」と「感じたこと」がセットになっていると、山口氏は述べています。両者をバランスよく文章に盛り込むのに効果的なのが、「ベーシック質問」と「スコップ質問」です。
「ベーシック質問」とは、文章のテーマに関する基本的な情報を集めるためのもので、事実を問います。これに対して、「スコップ質問」は「ここを掘り下げるとおもしろそう!」と思うポイントを具体的にしていく質問です。
言い換えると、「ベーシック質問」は誰が答えても回答の内容が変わらない質問、「スコップ質問」は答える人の視点や感じ方によって回答が大きく変わる質問とでもいえるでしょうか。上でいうと、自問1~3が「ベーシック質問」、自問4~9が「スコップ質問」になります。
2. 迷ったら「7W3H」を使う
山口氏は、ほとんどの質問は以下の「7W3H」でまかなうことができると述べています。
- Who(誰が/担当・分担・主体)
- What(何を/目的・目標・内容)
- When(いつ/期限・時期・日程・時間)
- Where(どこで/場所・行き先)
- Why(なぜ/理由・根拠)
- Whom(誰に/対象)
- Which(どっちを/選択)
- How(どのように/方法・手段)
- How many(どのくらい/数・量)
- How mach(いくら/金額・費用)
なかでも、「スコップ質問」として特に使えるのは「Why(なぜ?)」です。書き手の考え方や見解がダイレクトに反映されるので、文章にオリジナリティを出して読む人の心をつかむのに最も効果的とのこと。上でいうと、自問6が該当します。
また、読む人に有益な文章を作るときは、「How(どのように)」が有効です。実践する方法を具体的に紹介することで、読者がメリットを感じやすくなります。自問8が該当しますね。
ですので、質問に迷ったら「7W3H」、なかでも「Why」と「How」を使ってみましょう。
【手順2】質問に回答する
それでは、各質問に回答してみます!
あくまで「文を書く前の自分だけのメモ」という感覚があるので、執筆への活かし方や適切な表現など細かいことは気にせず、自由に書きました。それによって、自分が何を書きたいのかについて高い純度で向かい合うことができた印象です。結果、特に何を書きたくて分量を割くべきかというイメージも湧きました。
ちなみに、今回は9個の質問を立ててからすべて回答しましたが、山口氏によれば「自問1→答える」「自問2→答える」……という順番で進めるのが理想なのだそう。直前の答え次第で、次にしたい質問が変化するからです。
【手順3】これで素材はそろった。あとは文章を書いていくのみ!
実際に書いてみる前に、山口氏が文章作成の際のポイントとして挙げていることを1つだけ押さえておきましょう。それは「情熱で書いて、冷静で直す」ということです。
【情熱で書く】
完成度は問わず一気に書き上げる。情報を漏れなく書くと同時に、書きながら気づいたことや、書きたくなったこと、思い浮かんだことも入れる。
↓
【冷静で直す】
推敲と修正。重複や不要な情報を削りながら、不足している情報を足す。「ムダを削る:不足を補う=7:3」くらいの意識がベスト。
なぜこの2ステップがいいのか。それは、最初に書きたい情報をありったけ書いておくことで、それを削って磨き上げた文章がより濃密な内容になるからです。
ビジネスシーンで書く文章は、「どんなに長くなってもいい」ということは、まずありませんよね。したがって、限られた字数でできるだけ多くの情報を相手に伝えるためには、「情熱で書いて、冷静で直す」のが効果的なのです。
この件も踏まえて、実際に文章を作成してみました。今回は、筆者個人がブログ記事で字数の目安にしている700文字を制限に設けてみます。
編集部の方にすすめられた『「9マス」で悩まず書ける文章術』がすばらしかったです。ネタが浮かばない、意図が伝わらないなど、文章を書くときの悩みはさまざまですが、「9マス」を使ったいろいろな取り組みで、それらが一気に解消されます。
単なる方法論ではなく、文章への意識を変え、人の心を動かす仕組みを知ることで、文章力が向上する土台をしっかりと作ろうとしてくれているのが好印象でした。
なかでも、「文章は情熱で書いて冷静で直す」「文章は読む人へのプレゼント」という言葉への感銘が深かったです。
私自身、文章を書くということを人生の中で愛し続けてきました。しかし、コラム記事の執筆を始めてからは、自分のスキルの低さ、成長のなさを日々実感しています。好きなことを仕事にしたときに、「ただ好きなだけではいられなくなる」というよく聞く言葉は真理だなと思いました。
しかし、文章はまず情熱で書いていいんだということ。そして文章は読む人へのプレゼントであるということ。この言葉に一気に視界が広くなった気がしたのです。それらは紛れもなく、自分が今まで文章を書くうえで何よりも大切にしてきたことだったから。媒体によって形式が変わっても、文章で人の心を動かすときに大切なことは、本質的には同じなのだとわかりました。そして、これからも自分を信じて書き続けていく勇気をもらいました。
文章を書くということを根本的なところから考えさせてくれる名著です。ビジネスパーソンの方にもクリエイターの方にも、少しでも文章を書く機会がある方はぜひ一度読んでみていただきたいなと、心から思います。
(680文字)
このようになりました。自問自答で情報が集まっていたおかげで、非常にスムーズに書き上げることができました。普段は、このくらいの字数の文章を完成させるとなると、ものによっては1時間近くかかるときもありましたが、今回は推敲と修正まで含めて20分、約3分の1の時間に短縮されました。
一度書き上げた文章を完成のイメージに合わせて自在に削るスキルが大切だと、山口氏は述べています。実践するときにはぜひ、何に使う文章なのかに合わせて字数をイメージしてみてくださいね。
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読まれる文章を書くには「準備」が10割。これは、今回取り上げた本の小見出しの1つです。ぜひ「9マス自問自答法」を取り入れて、いい準備を。そして、限りあるワークライフに、いい文章を!
【こちらもあわせてお読みください!】
使える言葉がどんどん増える! 5分でできる「9マス類語変換ゲーム」で楽しく語彙力アップを。
(参考)
山口拓朗 (2019),『「9マス」で悩まず書ける文章術』, 総合法令出版.
樺沢紫苑 (2010),『脳内物質仕事術』, マガジンハウス.
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。