「本を読んだのに、あまり内容を覚えていない」
「読んでも、いまいち理解できない」
「勉強のための本は、関心が湧かなくて読み進められない」
読書をしていて、このような悩みを抱いたことはありませんか? もっと効率よく、そして記憶に残る読書にするためのテクニックがあります。それは、カナダのウォータールー大学が推奨している「SQ4R読書術」です。
今回の記事では、SQ4R読書術の方法と効果をご紹介しましょう。実際に筆者が試した結果や感想についてもお伝えします。
「SQ4R読書術」とは
「SQ4R読書術」の原点は、アメリカの教育心理学者フランシス・P・ロビンソンが当時の大学生や軍人向けに考案した、教科書を学ぶメソッド。それをもとにさらなる研究が重ねられた結果、拡張バージョンとして「SQ4R読書術」が確立しました。数々の著名な大学に普及し、なかでもカナダのウォータールー大学では「SQ4R読書術」をマニュアル化し、学生が教科書を理解するのに役立つ方法として積極的に推奨しています。
この読書術の「SQ4R」とは、以下のそれぞれの頭文字をとったもの。
- S=Survey(調査)
- Q=Question(質問)
- R1=Read(読む)
- R2=Respond(回答)
- R3=Record(記録)
- R4=Review(復習)
合計6つに及ぶ、それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
【1】S(Survey, 調査)
まずは、本の中身がどんな話題で構成されているのかを調べます。
本を開いて、索引と目次を読んでみましょう。ほかにも各章のサブタイトルはもちろん、章の終わりの要約や太字で強調されている部分などにも注目し、次のステップである質問に備えます。
【2】Q(Question, 質問)
本の調査から得た情報をふまえて、質問をします。「自分が知りたいもの」「疑問に思ったこと」などを自分の言葉で考えてみましょう。各章の見出しをそのまま、質問に変えてもかまいません。
事前に質問をつくることにより、読書をするとき、必要な情報に対して注意が働くようになります。
【3】R1(Read, 読む)
本を開き、質問に答えられるよう読んでいきます。このとき、「答えを探す」という目的を忘れないようにしましょう。
【4】R2(Respond, 回答)
本を閉じて、各質問に答えます。答えられなかったら、また本を開いて読み直しをしてみてください。本を見ずに自分の言葉で答えを説明できるようになるまで、これを繰り返しましょう。
なかなか答えられない場合は、質問の的を絞ったり、もっと抽象的にしたりなど、切り口を変えてみてもかまいません。
【5】R3(Record, 記録)
本の内容を理解し終えたら、記録をとります。本にラインマーカーを引く、余白やノートに要約する……どの方法を選択しても組み合わせてもかまいません。
あとで振り返るときに、必要な情報に目がいきやすくすることが大切です。重要なポイントだけを頭に入れるために、記録はあまり広範囲にしないよう気をつけましょう。
【6】R4(Review, 復習)
記録をもとに、定期的に復習をします。初回の復習はできるだけ早いうちが好ましいでしょう。記録した部分を確認したあと、もう一度ざっとそれに目を通してください。あとで記憶を引き出しやすくなります。
「SQ4R読書術」のメリット
世界有数の大学でこの読書術が推奨されているのには、理由があります。6ステップのなかでも特に重要な「質問に答える」という行為により、得た知識を必死に「思い出そう」とすることで、記憶力が強化される効果があるからです。
認知心理学者でワシントン大学教授のヘンリー・ロディガー氏とパデュー大学教授のジェフリー・カーピキ氏が行なった研究では、思い出す作業を挟むことで学習能力が向上することが示されています。
実験では、被験者の大学生にテキストを読んでもらい、3つのグループに分けて、以下のとおりに指示を出しました。
- グループ1:繰り返しテキストを読む
- グループ2:テキストを読んだあと、内容を思い出して紙に書く
- グループ3:テキストを読んだあと、内容を思い出して紙に書くことを3回繰り返す
そして1週間後にテストを行なったところ、最も成績がよかったのが、3のグループ。勉強中に思い出す行為を積極的に取り入れたほうが、学習効果が高いことが明らかとなりました。
これは「テスト効果」と呼ばれるもの。SQ4R読書術のプロセスでは、このテスト効果が自然と引き出され、読書内容が効果的に記憶に定着するのです。
また、トルコ・エスキシェヒルオスマンガジ大学の研究論文によれば、小学生がSQ4R読書術を実施したところ、普通の読書と比べて読解力に有意な差が表れたことが判明したそう。この調査は子どもが対象ですが、大人でも同様の効果が期待できるでしょう。「質問を自らつくり、答えを探す」というSQ4R読書術の能動的な姿勢が、読書に対する集中力と注意力に働きかけた結果だと考えられるためです。
実際にやってみた
実際に、筆者がSQ4R読書術を試してみました。用意した本は、『マッキンゼーで叩き込まれた 超速フレームワーク』(大嶋祥誉著、三笠書房)。筆者はビジネスで使えるフレームワークを詳しく勉強していません。新しい知識がどれくらい理解できるのかを実感できると思い、この本を選びました。
STEP1. Survey(調査)
目次やサブタイトルを読みます。一部を抜粋すると、こんなトピックがありました。
(画像は筆者にて作成)
STEP2. Question(質問)
調査から質問を考えます。このとき、考えた質問は10個。詳しく知りたい章に絞り、サブタイトルを読みながら、興味を抱いた用語に対する定義や、ビジネスでそれが採用されている理由などの質問を簡単に並べてみました。
(画像は筆者にて作成)
STEP3. Read(読む)
質問リストを机の横に置き、実際に読んでみます。本を読んでいくと、質問内容を忘れてしまいそうになるので、リストを振り返りながら答えを探していきました。
1冊を読むのに要した時間は3時間弱ほど。答えにあたる部分以外は、軽く目を通す程度にとどめ、必要な内容にのみ集中しました。
STEP4. Respond(回答)
本を伏せて自分の言葉で質問に答えてみます。1回読んだだけでは、まだ記憶が曖昧で、半分くらいの問いにしか答えられませんでした。そして、読み直して回答することを3回ほどくり返します。
答えるとき本文をそのまま抜き出すのではなく、理解した内容を自分なりに簡単な言葉でまとめるようにしました。そのほうが、答えやすく記憶に残るからです。
STEP5. Record(記録)
本に重要な箇所だけ付箋を貼ったあと、答えを確認しながらノートにまとめます。図や絵も書き足しましたが、復習をするとき要点を見やすくするため、極力書きすぎないよう注意しました。
(画像は筆者にて作成)
STEP6. Review(復習)
最初の復習は翌日中に行ないました。2回目、3回目の復習となると、だいぶ記憶に残っているのでさらりと目を通す程度です。通常の再読による復習だと時間を要しますが、SQ4R読書術では、驚くほど簡単に復習できました。
実践した感想
SQ4R読書術を試してみて筆者が実感したのは、「重要ポイントを記憶するのに、とても効率がいい」ということ。普段の読書なら、なんとなく理解しただけで終わり。あとでその知識を思い出しても当然曖昧です。ところが、SQ4R読書術を活用すると、「質問に答える」という目的があるので、必要な情報に対する感度が高まり、「覚えよう」という意識が働くのを感じました。
「自分の言葉にして答える」というステップでは手こずりましたが、自分の言葉で説明できるようになると、丸暗記ではなく理解に落とし込めたことを実感できました。「読んでもいまいち理解できない」という悩みや、「わかったつもりになりがち」という問題を解消したい人におすすめです。
さらに、記録でノートにまとめれば、本のすべてを再読する必要もありません。時間を節約できたうえ、復習する頻度を増やせました。勉強用の読書術として活用するには、まさに最適。勉強のための本がなかなか読み進められない人に、ぜひ実践していただきたいです。
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読解力と記憶力が高まる「SQ4R読書術」。読書の内容が身につかないと感じたら、一度試してみてくださいね。
(参考)
21st CENTURY STUDY SKILLS|What is SQ3R?
UNIVERSITY OF WATERLOO|Building Your Reading Skills: A Guide for Students
MCLAUGHLIN LIBRARY|Reading Textbooks with SQ4R
現代ビジネス|【研究結果】本当に何かを習得したいなら、学習ではなく〇〇が効果的
ERIC|Effect of the SQ4R Technique on the Reading Comprehension of Elementary School 4th Grade Elementary School Students
Study Spot|Reading Comprehension (SQ4R) – Part 2: Active Reading
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。