「なかなか勉強がはかどらずずっと焦っているばかり……」
「要領が悪く、仕事のスピードが同僚よりもはるかに遅い……」
気持ちに行動力が追いつかず、こうしたお悩みを抱えて困っている人はいませんか?
今回は、みなさんの行動力をぐんと上げる目標設定の手法「Google式10X(テンエックス)」を筆者の実践例とともにご紹介しましょう。
目標を “10倍” する「Google式10X」の考え方
「Google式10X」とは、目標として最初に決めた数値に「0」をひとつ足し、10倍の成果を目指すこと。『Google式10Xリモート仕事術』の著者であり、国内でただひとりGoogleが授与する資格をふたつ保持している平塚知真子氏によれば、これはGoogleで長年受け継がれてきた社内哲学だそう。
平塚氏は、Googleでは「10%アップではなく、10倍を目指す」という考え方があると言います。ビジネスの世界では、実現可能な利益を求めるため、前年よりも10%増の目標を目指すのが一般的。しかしGoogleがより難しい10倍を目標にあえて設定するのは、理想の未来に目を向けるため。
10倍の目標を達成した理想の未来から逆算し、達成のためには何が必要で、どんな行動を起こすべきなのかを具体的に考えて、着実に実行していく。このような10倍成長を目指す姿勢のことを「10X(テンエックス)」と彼らは呼んでいるのです。
ビジネスパーソンに「10X」が重要なワケ
「Google式10X」の考え方は、Google社員だけではなくすべてのビジネスパーソンに有効です。いったいなぜでしょうか。
私たちが「Google式10X」の考え方をすると、たとえば次のような目標設定が見込めます。
- 「1ヶ月で本を5冊読む」×10= 「1ヶ月で本を50冊読む」
- 「今年の売上は前年比1割増を目指す」×10=「今年の売上は前年比10割増を目指す」
前述のように、私たちは通常「10%の成長」を目指すもの。このような「10倍の成長」を目指すことは、一見すると不可能に思えるでしょう。しかし、コンサルティング事業を行なうプロノイア・グループ代表取締役のピョートル・フェリークス・グジバチ氏は、10%の成果アップは達成できるかできないかのギリギリなラインであるため、モチベーションが続かないと言います。
一方、10倍の成果アップといったように到底達成できないと思えるような目標を掲げると、むしろどうすれば達成できるのかを考え抜くようになるのに加え、実行しなければならないという責任感が生まれるのだとか。
また平塚氏は、10倍の成長を目指そうとすると、革新的なアイデアを考えたり、社内での立ち振る舞いが変わったりするほか、新鮮な気持ちで行動できるようになると伝えています。つまり、不可能に思える目標をわざと立てることで、いままでのやり方では達成できないと自覚し、従来とは違う新たなルールや方法を模索することに意義があるということ。大事なのは決して達成できる目標を立てることなどではないのです。
「Google式10X」思考法で目標を立ててみた
実際に筆者も「Google式10X」思考法を試してみました。今回は「1日に新書を1冊読む」という目標を10倍にして、「1日に新書を “10冊” 読む」と設定。読みたい新書10冊をリストアップしました(下の画像・左ページ。右ページについては後述)。
とはいえ、1冊の新書を読むにはそれなりの時間が必要。どうすれば1日に10冊もの新書に目を通せるかについて模索しました。そこで実践しようと考えたのが、以下のふたつの方法です。
まずひとつめが「ページの端から端まですべてを読まない」こと。最初のページから順に読んでいくのではなく、あらかじめ「得たい情報や知識」を明確にしておき、それらを目次や見出しなどで探してから読みたい箇所へダイレクトに飛ぶことで、1冊にかける時間を極端に短くしました。
これは「スキミング」と呼ばれるテクニックです。メンタリストDaiGo氏によると、スキミングのメリットは、自分がすでに知っている情報とそうでない情報を選別できる点にあるそう。本を読む際に、事前知識がある部分は読み飛ばし、逆に知らないあるいはもっと知りたいと思った箇所を熟読すると、メリハリがついて読書スピードは格段に上がるとのこと。
そしてふたつめが「頭のなかで音読しない」ことです。NBS日本速読教育連盟理事長の佐々木豊文氏いわく、読書をするときは大多数の人が「文字を見る」→「音声化する」→「理解する」という流れで本の内容を理解しているそう。文章を無意識に頭のなかで音読しているのです。
しかし、速読家の脳では音声化のプロセスが省略され、「文字を見る」→「理解する」のフローになるそう。『速読日本一が教える すごい読書術――短時間で記憶に残る最強メソッド』の著者である角田和将氏によれば、音声化のプロセスを省略するには1文字単位ではなく1行単位で読めばよいとのこと。したがって、筆者もそれを心がけました。
これらふたつの速読メソッドを数日間実践し、読んだ本のタイトルと日付をメモしたものが、上の画像・右ページです。
「Google式10X」で当初の目標を大幅に上回ることができた
上記の読書法は、普段の読書習慣では使うことのなかった方法だったため、とても新鮮に感じました。実際に数日間続けたところ、読むスピードは格段に向上。「今日は〇〇を学ぶんだ」というモチベーション維持にもつながりました。
最終的に1日6冊までしか目を通すことはできませんでしたが、「Google式10X」を使う前にイメージしていた目標は「1日1冊読めたらいいな」というものでしたから、目標を大幅に更新できたことになります。新たなメソッドを手に入れ、成果につなげられた経験は、とても価値あるものだったと思います。
みなさんが「Google10X」を実践する際は、実際に達成できるかどうかはあまり考えず、自分の目標を数値化してそれを10倍してみてください。いますぐには達成できなかったとしても、のちのちできるようになるかもしれません。大事なのは、実際に達成できるかどうかではなく、いかに達成できるかを考えること。この手法を用いて目標をあいまいにせずはっきりと数値化すれば、より具体的な達成方法を考え、実践できるようになりますよ。
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自分の設定した目標を10倍にするだけの「Google式10X」思考法。不可能に思える目標を立てることが、行動力を爆上げするきっかけとなるのです。なかなかはかどらなかった勉強も、遅くて困っていた仕事のスピードも、きっと改善するはず。モチベーションを高めて行動したい人は、ぜひ一度試してみてください。
(参考)
平塚知真子(2020), 『Google式10Xリモート仕事術――あなたはまだホントのGoogleを知らない』, ダイヤモンド社.
ピョートル・フェリークス・グジバチ(2017), 『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』, SBクリエイティブ.
東洋経済オンライン|「速読しないで多読する人」の超合理的なやり方
佐々木豊文(2018),『即効! 成果が上がる 速読の技術』, 明日香出版社.
国立研究開発法人 情報通信研究機構|速読の脳活動
ダイヤモンド・オンライン|読書において、なぜ「音読の癖を捨てる」必要があるのか?
【ライタープロフィール】
YG
大学では日韓比較文学を専攻し、自身の研究分野に関する論文収集に没頭している。言語学にも関心があり、文法を中心に日々勉強中。これまでに実践報告型の記事を多数執筆。効果的で再現性の高い勉強法や読書術を伝えるべく、自らノート術や多読の実践を深めている。