仕事も人生も、なかなか思うようには進まないもの。ついイライラして、周囲に不機嫌な態度をとってしまうこともあるでしょう。
そんな感情をもて余しているなら、まずは「怒り」を理解することから始めてみませんか。アドラー心理学によれば、怒りの構造を知ることで客観的になれるのだとか。怒りをコントロールする方法とあわせてご説明しましょう。
アドラー心理学で「怒りの構造」を知ろう
アドラー心理学カウンセリング指導者の岩井俊憲氏によると、アドラー心理学では、「怒り」を「ある感情が“怒り”というかたちで表面化したもの」と考えるそうです。
つまり「怒り」は、単体では成り立たない「二次感情」だということ。人は、不安や寂しさなどの【一次感情】が満たされないとき、怒りという「二次感情」を使って対応するのだとか。
一次感情:不安・寂しい・つらい・悲しい・心配・苦しい・落胆・悔しい
二次感情:怒り
例を挙げましょう。A先輩が、突然決まった会議の前に少し打ち合わせをしておこうと、些細な用事で外出していたB後輩と約束していたとします。しかし、それをすっかり忘れていたB後輩が、外出先から会議の時間ギリギリに戻ってきたため、思わず怒りがこみ上げてきた……。この場合の感情の動きはどうなっているのでしょうか
A先輩は、「あーあ、打ち合わせをしておきたかったのに」と「落胆」します。あるいは、打ち合わせができなかったことで「不安」になったり、「B後輩が遅くとも会議の30分前に戻ってきていたら少しでも打ち合わせできたのに」と「悔しさ」を感じたりするでしょう。こういった一次感情を抱いたのち、二次感情として「怒り」が生まれ、それをB後輩に向けてしまうのです。
アドラー心理学によると、「怒り」には以下4つの代表的な目的があるのだとか。
<支配>――親と子・上司と部下・先輩と後輩・教師と生徒などの関係による
<主導権争いで優位に立つこと>――夫婦間・同僚間・友人間による
<権利擁護>――プライバシーや人権を脅かされるなどの場面で
<正義感の発揮>――ルールやマナーを守らない人への怒り
先ほどの例では、A先輩がB後輩に対して<支配>する目的や、<正義感の発揮>といった目的があると考えられるでしょう。
また、怒りの根底には、その人物固有の「こうするべきだ」「こうしなければならない」といった思考や信念があるとのことです。
アドラー心理学で「怒り」抜きの伝え方を学ぶ
しかし岩井氏いわく、「怒りは瞬間的にしか効き目がない」とのこと。
先ほどの例では、A先輩に怒りを向けられたB後輩が、口先だけで謝り、陰で「あの程度のことで怒るなんて面倒くさい先輩だなぁ」などと、まったく反省せず同じことを繰り返すかもしれません。
そのため岩井氏は、もしも怒りが湧いたら、その奥に潜む一次感情を相手に伝えたほうが建設的だと述べます。 再び、前出のA先輩とB後輩で例えてみると――
――と、ただ二次感情の怒りをぶつけるのではなく、次のように、満たされなかった「落胆」「不安」「悔しい」といった一次感情をしっかりと伝えるわけです。たとえば――
――と、本来は曖昧な感情を順序立てて明確に説明されたら、さすがのB後輩も思わず納得し、「あぁ、そ、そうですよね……。すみません。これからは気をつけます」と言ってくれるかもしれません……!
「NLP的」に怒りをコントロールする
ここまで、「怒りの構造」と「怒りを用いない伝え方」について学びました。次は、NLPの性質をもつ「怒りのコントロール方法」を学びましょう。
NLPとは、Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)のこと。1970年代に、数学者のリチャード・バンドラー氏と言語学の助教授ジョン・グリンダー氏によって開発された心理学であり、言語学かつ心理療法でもあるのだとか。「脳と心の取扱説明書」とも呼ばれているそうです。
昭和大学保健医療学部講師の大谷佳子氏によると、(コーチングや)NLPにはアドラー心理学の影響が見受けられるとのこと。「アドラー心理学は(コーチングや)NLPの源流」と表現されることもあります。
そうしたことをふまえ、NLP学び方ガイド(NLP-JAPAN ラーニング・センター運営)のなかの、「NLP的・怒りのコントロール法」を紹介していきます。
1. 怒りの要因を知る
まず最初は、怒りの要因を探るべく、以下3つの質問を自分に投げかけます。
- 以前どんな場面で怒りを感じたか?
- 自分が大切にしている価値観は何か?
- 自分がこうするべき、こうしなければならないと思っていることは何か?
2. 行動するかイメージ
次に、「怒りを感じたときにとりたい行動」を決め、繰り返しイメージトレーニングしておきます。たとえばこんな行動です。
- イラっときたらスーッと深呼吸
- イラっときたらサッとその場を立ち去る
- イラっときたらそっと目を閉じる
3. 怒りを感じた自分を客観視
怒りを感じたら客観的になれるような行動(想像)をして、「怒っている自分」に気づけるようにします。気づくことで「対応・改善・変化」を可能にするためです。
- 「あ、ただいま、自分は怒り始めております!」などと心のなかで実況中継
- 映画のスクリーンのなかの「怒っている自分」を想像する
4. 怒りを紙に書きまくる
怒りが収まらないときは、ひたすら怒りの感情や理由を紙に書いてみます。「もう何も書けない」ところまで続けると、いつの間にか怒りの感情が消えていることも。
5. 毎日の自分自身のケア
運動不足、寝不足、疲労は、怒りを感じやすく、増幅しやすくするのだとか。そうならないように毎日、自分自身をケアしましょう。
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アドラー心理学で「怒り」を理解して、NLP的に怒りをコントロールする方法を紹介しました。ぜひお試しくださいね。
(参考)
岩井俊憲著(2014),『人生が大きく変わる アドラー心理学入門』,かんき出版.
大谷佳子著(2020),『対人援助の現場で使える 承認する・勇気づける技術』,翔泳社.
NLP学び方ガイド(NLP-JAPAN ラーニング・センター)|「NLP的」怒りのコントロール法
ラーニング・センター 公式サイト・神経言語 プログラミング|NLPとは?
ダイヤモンド・オンライン|いつも愚痴を言ったり腹を立てているあなたへ「アドラーからの警告」
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。