「同僚の相談に乗っていたら、なんだか疲れてしまった……」
「上司から言われた嫌味のことを、いつまでも引きずっている……」
このように、職場の対人関係で消耗していませんか? 人間関係に疲れやすいあなたは、もしかすると “アレ” ができていないのかもしれません。
今回は、「人間関係で消耗する人」と「人付き合いが楽にできる人」の違いを3つご紹介しましょう。
1. 人付き合いが楽にできる人は【聞き方】が違う
相手の話に「わかるわかる」「私もそう思います」と過剰に同感してしまうことはありませんか?
「聞く力」は対人関係において重要なスキルだから、しっかり相手の話を聞いてあげなきゃ……と、相手がどんな意見であっても同意することは、人間関係で消耗する原因となります。
公認心理師・産業カウンセラーの大野萌子氏によると、近年 “聞き疲れ” を感じる人が増えているそう。その理由のひとつとして大野氏が挙げるのが、「相手の言葉に同調しすぎてしまう」こと。
相手に同感しすぎると、自分の感情が揺れて疲労するうえ、相手が依存してくるようになると大野氏。自分の心を守る点でも、相手と対等な関係を築くという点でも、「親身に話を聞いてあげることがいい」とは一概には言えないのです。
では、人間関係がうまくいく「疲れない聞き方」とは、どのようなものなのでしょう。
公認心理師・HSP専門カウンセラーの武田友紀氏は、同意ではなく「理解」することを推奨しています。
「自分はそうは思わない」ことに同意、共感しようとするのは、気持ちを無理に曲げることであり、聞いていて負荷がかかります。でも、「あなたにとってはそうなんだね」と認めるのであれば、相手の考えと距離を置きつつ、否定せずに聞くことができます。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|『世界一受けたい授業』で話題!「繊細さん」が無理なく人の話を聞く方法)
たとえば、雑談の場で同僚が、「せっかくいい提案をしても、上司は評価してくれない。やっぱり経歴で人を差別しているんだよね」と愚痴をこぼしたとしましょう。ここで「そうだよね」と同意するのはNG。
「あなたはそう感じたんだね」「なるほど。そう思ったんだ」
と、相手にとっての事実として認めるスタンスをとるのです。
中立的な相づちを打てば、自分の本心を偽ることもありません。「聞いてますよ」という姿勢を相手に示すこともできるとのこと。実際に武田氏は、カウンセリングの場でこの方法をとるのだそう。
相手に感情移入しようとするのではなく、「そうなんだ」「なるほど」と距離を置いて聞いてみれば、自分の心を消耗させずにすむはずです。
2. 人付き合いが楽にできる人は【断り方】が違う
「この仕事をお願い」と頼まれると、自分がどんなに忙しくても断れない……。まじめな人ほど、「断る」ことに苦手意識を感じているのではないでしょうか。じつは、“断り下手” も対人関係で心がすり減る原因のひとつ。
心療内科医の鈴木裕介氏は、人間関係で消耗しやすい人は「過剰適応」傾向にあると指摘しています。
鈴木氏によれば、心理学では以下ふたつの「適応」があるとのこと。
- 「外的適応」:社会的要求に応えている状態
- 「内的適応」:自分の気持ちが満たされている状態
先ほど述べた「過剰適応」とは、「外的適応」はできているが、「内的適応」ができていないことを指すそうです。つまり、他人の要求を優先するあまり、自分の欲求を抑圧している状態のことです。
過剰適応の背景には、自分と他人との境界線が曖昧になっていることが挙げられると、鈴木氏は言います。相手に嫌われるのを恐れ、要求に応え続けてしまう――つまり「自分の領域」に他人を入り込ませてしまっているというのです。
“ココロとカラダをつなぐカウンセラー” のおのころ心平氏によると、自分と相手の領域を分けるために必要な境界線のことを、心理学では「バウンダリー」と呼ぶそう。上記のような問題は、「バウンダリー・オーバー(境界線越え)」が発生している状態と言えます。
相手の要求に応え続け、バウンダリー・オーバーの状態をつくってしまうことの悪影響は、心が疲弊することだけに留まりません。
鈴木氏は、要求を断らずに受け入れてばかりいると、しだいに相手の期待値が高くなると言います。「あの人なら、当然これくらいはしてくれる」と、都合のいい存在として見なされてしまうとのこと。こうなってしまうと、相手の要求に振り回される一方ですよね。
そうならないためには、NOと言う技術を知り、相手との境界線を引きましょう。
コミュニケーション講師の吉井奈々氏が提案するのは、「100%断る」のではなく、「70%だけ断る」「50%だけ断る」という方法です。
吉井氏によれば、断るのが苦手な人は「何かを頼まれたら、YESかNOか、完全に引き受けるか完全に断るかの二択しかない」と考える傾向にあるそう。そして「完全に断ったら、相手に悪いな……」と思いがちなのだとか。
それを払拭するのに有効なのが、「部分的に断る」スキルを身につけること。
具体的には——
「今週中にこの仕事をお願いしたい」と頼まれたとき
- 「ご依頼ありがとうございます。申し訳ありませんが、今週中だと目途が立たなく難しいです。来週末までならできるのですが……」
- 「依頼されたものの5割はできます。ですが、あとの半分は難しく、どなたか助けてくださると幸いです」
「無理です」「できません」と100%断るのではなく、「ここまではできるけど、ここからは難しい」と自分にとって無理のない範囲を伝えてみましょう。
罪悪感による心の疲れをなくせますし、少しでも “協力したい意思” が相手に伝わり、お互いの関係もよくなるはず。
断れなくて心が消耗しがちな人は、ぜひ70%や50%だけ断ることを試してみてはいかがでしょうか。
3. 人付き合いが楽にできる人は【言い返し方】が違う
「こんなこともできないなんて、君は無能だな」と上司から嫌味を言われたり、同僚が自分のミスをあなたに責任転嫁したり——このような場面で、あなたは我慢せず言い返すことができますか?
対人関係で消耗する人としない人の違いは、“言い返し方” にもあるのです。
脳科学者の中野信子氏は、「上手にキレる」ことは自分を守るための重要なスキルだと説きます。上記のような理不尽な場面でさえ何も言い返せない人は、どうなるでしょう。中野氏は、悪意のある相手は「反撃しない人」をターゲットに攻撃し続けるため、「怒れない人」はいずれ搾取される側になると指摘します。
中野氏によれば、人間はヒエラルキーを重視する社会的な生き物。強い人や権力のある人に従ううちに、その状態を心地よく感じるようになってしまうとのこと。怒りを我慢して言い返さずにいると、支配関係に慣れ、自分の裁量権をしだいに失っていくというのです。
とはいえ、感情的に怒りをぶつければ、関係は悪化してしまうでしょう。そこで、精神科医のゆうきゆう氏が提案するスマートな言い返し方を試してみてください。
- 「要するに、問題は〇〇ということですね」と要約して返す
相手が感情的になっているケースで特に有効。要約して返すことにより、相手が自身の感情を客観的に見つめ直しやすくなり、相手の攻撃の勢いが収まる。さらに、「聞いてますよ」という好意的なメッセージを伝えることもできる。 - 「どういう意味でしょうか?」と返す
皮肉や嫌味を言われたときに効くフレーズ。ゆうき氏いわく、相手が皮肉や嫌みを言うのは、悪口をぼかすため。相手は、はっきりと悪口を言うほどの勇気をもっていないので、「どういう意味ですか?」と真意を尋ねるだけで、相手をしり込みさせられる。
あなたもぜひ理不尽な場面で言い返すスキルを磨いてはいかがでしょう。きっと、人間関係で疲れきってしまうことが減るはずですよ。
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対人関係で消耗しやすいのは、自分のことを後回しにしているから。今回の記事を参考に、自分と相手の双方にとってちょうどいい関係を築いてくださいね。
人付き合いに現在進行形で疲れている方は、「『人間関係に疲れたな』と思ったら最初にやるべき3つのこと」もお読みください。
(参考)
NIKKEI STYLE|聞き上手さんの「聞き疲れ」を防ぐ処方箋
ダイヤモンド・オンライン|『世界一受けたい授業』で話題!「繊細さん」が無理なく人の話を聞く方法
PHPオンライン衆知|「他人に振り回される人」のチェックリスト…心療内科医が教える“自分を守る方法”
ウーマンエキサイト|人間関係の境界線の引き方。悪意のない親切の対処法【苦手な人とうまく付き合う“境界線”の引き方 第1回】
ダイヤモンド・オンライン|【断りベタ必見】断ってるのに「なぜか感じいい」断り方ベスト2
新R25|“キレ”なければ搾取される。脳科学者・中野信子が語る「キレることの重要性」
東洋経済オンライン|言い返せない人は反撃のコツがわかっていない
東洋経済オンライン|言い負かされる人と言い返せる人の決定的な差
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。