やるべきことを書き出した付箋を、机にたくさん貼りつけている人はいないでしょうか? その付箋だらけな状況、じつはあなたの脳を疲れさせてしまっているかもしれません。
今回の記事では、ビジネスパーソンの日常生活において、知らぬ間に脳疲労を引き起こす3つの行動をお伝えします。ついやってしまっているものはないか、普段の仕事スタイルを振り返りながら読んでみてください。
【脳を疲れさせる行動 1】机にToDoリストを貼る
脳を疲れさせてしまう1つめの行動は、やるべきことを書いたToDoリストを机の見える場所に貼っておくこと。タスクが生じるたびに付箋に書き込んでは、「忘れないように」と、パソコンまわりやデスクの上にペタペタ。そんな人は要注意です。
作業療法士の菅原洋平氏によれば、ToDoリストが常に目に入る状態だと、脳はマルチタスクをしていると認識してしまうのだそう。マルチタスクとは、複数の異なる作業を同時に行なうこと。マルチタスクは脳に大きな負担を与える原因になります。
というのも、マルチタスクをすると、記憶を一時的に保存する脳の「ワーキングメモリ」がキャパオーバーしてしまうため。精神科医の樺沢紫苑氏いわく、ワーキングメモリとはいわば「人間の脳のフォルダー」であり、じつはこのフォルダーは3つしかないとのこと。つまり、脳は一度に多くても3件のタスクをこなすので精一杯。それ以上の情報量が入ってくると混乱してしまうのです。
マルチタスクでワーキングメモリがキャパオーバーすると、仕事効率は低下します。「これもやらなきゃいけない、あれもやらなきゃいけない」と同時に多くのことを考えてしまい、ひとつのことに集中できないからです。また、マルチタスクをしている脳の状態が日常的に続くと、ストレスホルモンであるコルチゾールが、記憶をつかさどる海馬を傷つけ、記憶力の低下も引き起こすとのこと。ど忘れが頻繁に起こるほか、ひどい場合だとうつ病の原因にもなりかねないと樺沢氏は言います。
脳をマルチタスク状態にさせないために、菅原氏はToDoリストを引き出しなどの見えない場所にしまっておくようすすめています。リストを確認してやることを決めたらいったん引き出しに戻し、また次のタスクを行なう際に出して確認する。このようにして、脳を疲れさせない工夫をしましょう。
【脳を疲れさせる行動 2】長時間同じ作業を続ける
脳を疲れさせてしまう行動の2つめは、長いあいだ座りっぱなしで同じ作業を続けること。休憩をとらずにデスクワークにのめり込むのは、考えものですよ。
長時間同じ作業を続けると、「飽きた」と感じてくることがあるでしょう。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏によると、飽きたと感じるのは脳が疲れているサイン。同じ作業を続けていると、脳内の特定のネットワークのみを酷使することになるため、そこへ負荷が集中します。そして、負荷が集中した部分の神経細胞は酸化ストレスにより疲弊し、情報処理能力の低下などを引き起こしてしまうのだとか。その結果、「これ以上脳を酷使するな」という警告のアラームとして、頭が重くなったり、目がしょぼしょぼしたり、眠くなったりといった症状が現れるのです。
また、長時間の作業がデスクワークなどの場合、長いあいだ同じ姿勢で座っていることになりますよね。梶本氏は、長時間座りっぱなしでいると股関節が圧迫され、血流が滞ってしまうと述べています。そうすると、酸素や栄養が全身に行き届かなくなるうえ、脳や自律神経に疲労物質がたまってしまうのです。
梶本氏によると、同じ作業を続けるのは1時間~1時間半に収めるといいとのこと。この程度の時間が、脳が疲れずに同じ作業を続けられる最大の時間です。そして約1時間ごとにこまめに休憩をとり、休憩中は少しでも体を動かすことをおすすめします。立ち上がって歩くほか、座ったままかかとを小刻みに動かすこと(いわゆる貧乏ゆすり)も効果的だそうですよ。脳疲労の予防や回復を図るために、長時間同じ作業を行なわず、適切に休憩をとってくださいね。
【脳を疲れさせる行動 3】ネガティブな感情をもちすぎる
脳を疲れさせてしまう行動の3つめは、過去のことを悔やんだり未来のことを不安に思ったりして、ネガティブ思考に陥ること。仕事でミスしたことをくよくよと思い悩みがちな人や、「仕事がうまくいくか」といつも心配な人の脳は、いつの間にか疲れているのです。
精神科医の川野泰周氏によれば、ネガティブな感情をもつと、脳内で感情をつかさどる扁桃体が過度に働くのだそう。すると、今度は理性をつかさどる大脳皮質の前頭葉が、扁桃体の活動を抑えようとします。もともと多くのエネルギーを消費する部分である前頭葉が、扁桃体の働きを抑制するために通常よりも活動的になることで、とても大きなエネルギーロスが発生。その結果、脳が疲れるのです。
また川野氏は、ネガティブな感情や過剰なストレスによって、やる気や安心感を保つ神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリン、快楽を感じさせる神経伝達物質のドーパミンの分泌量が減少してしまうと言います。これも、ネガティブ感情が脳疲労の原因となるメカニズムのひとつ。
これらの神経伝達物質がうまく分泌されなくなると、喜怒哀楽のコントロールができなくなったり前向きで明るい気持ちや感情が湧かなくなったりもするので、気をつけたいところです。
脳疲労を予防するための方法として、川野氏は「マインドフルネス」をおすすめしています。マインドフルネスとは「目の前のことに集中する」という意味。具体的なやり方としては、背筋を伸ばして座って目を閉じ、自分の呼吸だけに集中してみてください。
とはいえ、呼吸だけに集中するのはなかなか難しいかもしれませんね。そんなときは、鼻を出入りする呼吸やお腹の膨らみを感じながら、それを実況中継してみるとうまくできるそうですよ。「吸って、吐いて」「膨らんで、しぼんで」という感じでやってみましょう。
マインドフルネスを1日何回やるか、1回あたり何分やるかというルールは厳しく決めなくてもかまわないとのこと。自分が心地よくできる時間でよいのです。休憩時間や仕事の合間など、短い時間でできることですのでぜひ試してみてください。やっていくうちに、不安感や脳疲労解消の効果が徐々に現れてくるはずですよ。
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私たちは、日常の気づかぬところで脳を疲れさせてしまいがち。早めに気づいて予防策や改善策をとり、脳をいたわってあげましょう。
(参考)
STUDY HACKER|マルチタスクによる脳への負担を減らす方法。「〇〇を正す」のが意外と効果的
NewsPicks|【樺沢紫苑】集中力が続かない原因はマルチタスクの“脳疲れ”
マイナビウーマン|疲労と睡眠の医学博士が教える。「飽きた」は脳が疲れているサインだった!
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【ライタープロフィール】
YUKA
大学ではフランス語を専攻。高校では一年間オーストラリアへ留学。海外への一人旅も経験し、夢は海外移住。趣味は音楽鑑賞・グルメ巡り・旅行など。