マルチタスクによる脳への負担を減らす方法。「○○を正す」のが意外と効果的

菅原洋平様インタビュー「ワーキングメモリを働かせる方法」01

仕事上のミスを減らすには、「覚えた情報を次の行動に反映させる」ことに役立つ「ワーキングメモリ」をうまく働かせなければならない――そう語るのは、作業療法士であり、脳の機能を生かした人材開発を行なっている菅原洋平(すがわら・ようへい)さん(『仕事のミスを誘発する「ワーキングメモリ」低下のサイン。あなたはいくつ当てはまる?』参照)。では、どうすればワーキングメモリをうまく働かせられるのでしょうか。菅原さんは、「姿勢を正す」という、ちょっと意外な方法を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

菅原洋平様インタビュー「ワーキングメモリを働かせる方法」02

マルチタスクの多くは自分自身で生み出している

「ワーキングメモリ」は脳の機能ですから、ワーキングメモリをうまく働かせるためには脳をうまく働かせる必要があります。

では、脳をうまく働かせるにはどうすればいいでしょう? 多くの人は、筋トレのように脳に負担をかければかけるほど、脳は鍛えられて働けるようになると考えているように思います。でも、実際は真逆なのです。脳をうまく働かせるには、脳にかかる負担をなるべく軽減してあげる必要がある。

そう考えると、同時に異なる作業を進める「マルチタスク」は、脳をうまく働かせるための大きな障害と言えます。でも、実際の仕事の場では、異なる案件を同時に進めるといったことは多く、ついマルチタスクになりがちですよね? もちろん、どうしても必要なマルチタスクはあります。でも、必要ではない無駄なマルチタスクを減らすことはできます。

そもそも、みなさんがやっているマルチタスクの多くは、みなさん自身が増やしているものです。たとえば、パソコンで書類を作成しているとき、手元のスマートフォンになにか通知があれば確認してしまうこともあるでしょう。これは、書類を作成しながらスマートフォンをチェックするというマルチタスクです。では、その状況をつくっているのは? みなさん自身ですよね。

菅原洋平様インタビュー「ワーキングメモリを働かせる方法」03

プレーヤーである自分を監督者としてコントロールする

こういった、自分自身でマルチタスクが生まれやすい状況をつくっている例はほかにもいろいろあります。たとえば、デスクの上に複数の案件の書類を広げていること。ToDoリストの付箋をパソコンに貼っていること。自分あてのリマインドメールをいくつも設定していること……。そうやって多くの情報を次々に脳に入れて、自分自身でマルチタスクをつくっているのです。

そういうことをなるべく減らしていけば、なくすことができないマルチタスクだけが残ることになります。その「本当に必要なマルチタスク」をしっかりこなすために、脳の容量を確保しておかなければなりません。限られた脳のエネルギーを、必要なマルチタスクに集約するわけです。

ただ、そうはいっても、先に挙げたToDoリストや自分へのリマインドメールは、仕事を進めるうえで必要なものでもありますよね。でも、やり方次第でマルチタスクを生むことは避けられます。

ToDoリストの場合なら、いつでも目につくところに貼っているから、ひとつのタスクを進めながら「次はこれをやらなければ……」と考えるといったマルチタスクを生んでしまう。だとしたら、デスクの引き出しなどにしまえばいいだけのことです。ToDoリストを見て、進めるタスクを決めたら引き出しにしまう。そのタスクが終わったら、またToDoリストを取り出し、次に進めるタスクを決めて再びしまうのです。

リマインドメールもやり方次第。それぞれの予定の直前など、いつでもリマインドメールが届くように設定していれば、そのメールが届くたびにマルチタスクになってしまいます。そうではなく、自分あてのリマインドメールが届く時間を限定しておけばいい。たとえば、始業時には午前の予定のリマインドメール、昼休みには午後の予定のリマインドメールが届くようにするといった具合です。

そのように、自分自身の監督者として、プレーヤーである自分がうまく働けるようにコントロールする意識をもつことが大切です。

菅原洋平様インタビュー「ワーキングメモリを働かせる方法」04

デジタル作業でミスをなくすには、姿勢を正す

また、少し意外に感じられるかもしれませんが、姿勢を正すこともマルチタスクを減らすことに役立ちます。

脳の働きのひとつに、情報を「体に起こったリアルな変化」として受け取り、その価値を「現在行なっている作業にはいまの体の使い方が最適なのか」という点で選別するというものがあります。つまり、作業効率が上がる体の使い方ほど価値が高いと脳は判断するのです。

たとえば、料理をする場合なら、包丁などの使い方や姿勢が悪ければ、料理の出来が悪くなるということがすぐにわかります。そのため、脳の働きによって「体の使い方や姿勢を正そう」という意識が出てくる。

ところが、パソコンやタブレットを使うデジタル作業の場合には、極端に言えば寝っ転がってでもできてしまいますから、姿勢の悪さが仕事の出来具合に影響を与えていることに気づきにくい。すると、脳は「情報を選別する」という重要な働きをしてくれません。つまり、不要な情報のマスキングもしてくれなくなり、結果的に情報の波に飲み込まれてマルチタスクになりやすくなってしまうのです。

ですから、特にデジタル作業をすることが多いという人は、マルチタスクを減らすために姿勢を正すことを心がけてみてください。格段に仕事の効率が上がるはずです。

【菅原洋平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
仕事のミスを誘発する「ワーキングメモリ」低下のサイン。あなたはいくつ当てはまる?
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【プロフィール】
菅原洋平(すがわら・ようへい)
1978年8月30日、青森県生まれ。作業療法士。ユークロニア株式会社代表。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許を取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて脳のリハビリテーション業務に従事。その後、脳の機能を生かした人材開発を行うビジネスプランをもとにユークロニア株式会社を設立。現在、東京・ベスリクリニックにて外来を担当する傍ら、企業研修を全国で展開している。『脳をスイッチ! 時間を思い通りにコントロールする技術』(CCCメディアハウス)、『朝イチのメールが残業を増やす』(日経BP)、『脳に任せるかしこい子育て』(すばる舎)、『頭がいい人は脳を「運動」で鍛えている』(ワニブックス)、『自律神経はどこまでコントロールできるか?』(ベストセラーズ)、『脳内整理ですべてうまくいく!』(日本文芸社)、『「寝たりない」がなくなる本 「効率のいい睡眠」を手に入れる方法』(三笠書房)、『やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術』(KADOKAWA)、『頭がよくなる眠り方 記憶力が高まり脳が働き出す』(あさ出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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