“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。

“精神科医の禅僧”が教える「脳が疲れる根本原因」と、マインドフルネスをすすめる科学的理由01

肉体的な疲労と違って、脳の疲労はなかなか自覚しにくいものです。ですが、脳が疲れていれば、仕事で大きなミスを犯してしまう可能性も高まります。そんな脳を、なるべく疲れさせないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

お話を聞いたのは、精神科医であり禅僧でもある川野泰周(かわの・たいしゅう)さん。まずは、脳を疲れさせる根本的な要因を脳科学的視点から教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

脳が疲れる根本原因は「ネガティブな感情」と「マルチタスク」にあり

脳を疲れさせる大きな要因として、まずは「ネガティブな感情」が挙げられます。

脳のなかで感情を司るのが扁桃体という部分なのですが、たくさんのネガティブな感情を持つと、その扁桃体が過活動の状態になります。これに反応するように、理性を司っている大脳皮質の前頭葉が、扁桃体の活動を抑えようと一生懸命頑張って働きます。この前頭葉は元来多くのエネルギーを消費することが知られていますが、こうして扁桃体の活動を抑制しようとする際、さらなるエネルギーロスを起こし、脳が疲れるというわけです。

また、ネガティブな感情や過剰なストレスを多く感じると、セロトニンやノルアドレナリンといった、前向きなやる気や安心を担保している神経伝達物質、ドーパミンという快楽や楽しさを感じさせる神経伝達物質の働きも停滞することになります。それも、ネガティブな感情が脳を疲れさせるメカニズムです。

それから、「マルチタスク」も脳を疲れさせる要因です。

脳は、処理の仕方によって働く部分が異なります。ひとつのものに集中して処理している場合は、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークという部分が働きます。一方、複数のことを同時に処理するマルチタスクの場合は、脳のデフォルト・モード・ネットワークという部分が働きます

そして、問題となるのはそのエネルギー消費量です。デフォルト・モード・ネットワークは非常にエネルギー効率が悪いとされていて、脳が消費するエネルギーのじつに6割がデフォルト・モード・ネットワークによって使われるという報告もあります。多くのエネルギーを使うということは、それだけ脳を疲れさせるということ。これが、マルチタスクが脳を疲れさせる理由です。

“精神科医の禅僧”が教える「脳が疲れる根本原因」と、マインドフルネスをすすめる科学的理由02

脳の疲労はもはや現代病のひとつといっていい

大量の情報にさらされやすいいまの時代は、非常に脳が疲れやすい時代だといえます。何かの作業をしていても何かを考えていても、次々に新しい情報が飛び込んできますよね。よって、現代人は必然的にマルチタスクの状態になってしまうのです。

また、そうでなくても、「いい会社に入れば一生安泰」といった時代は終わり、先行きが見えないといわれるのがいまという時代ですから、未来を考えるにも不安というネガティブな感情を持ちますし、過去を振り返るにも「あのとき、こうしておけばよかった」というふうにネガティブな感情を持ちがちです。

いま現在、やるべきことをやりながらも、ついネガティブな感情を持って未来や過去のことを考えてしまう。これは、脳を疲れさせる2大要因である「ネガティブな感情」と「マルチタスク」の両方を持ってしまっている状態といえます。これでは、脳が疲れてしまうのも当然のことです。

また、同じ面積あたりに過ごしている人の数が多ければ多いほどうつ病や不安障害の罹患率が上がるという研究結果もあります。日本では東京をはじめとした都市の人口集中が問題視されていますが、都市に住む人にとっては、脳の疲れやすさという点でも問題なのです。そう考えると、脳の疲労はもはや現代病のひとつといってもいいのかもしれません。

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目の前のことに集中すれば、脳の疲労は軽減される

そんな時代だからこそ、脳をなるべく疲れさせない方法、あるいは脳の疲れを解消する方法を知っておく必要があります。

その方法としてわたしがすすめるのはマインドフルネス。マインドフルネスとは、本来、「目の前のことに集中する」という意味を持っています。これは、もともと仏教の瞑想にルーツがありますが、インドから中国を経て伝来し、日本で醸成された仏教のひとつのかたちである「禅」にも深くつながりを持っていると考えられます。

禅というと、多くの人が坐禅をイメージするかもしれませんが、坐禅は禅の修行のひとつに過ぎません。雑巾がけや草むしり、あるいは料理をつくったり食べたりすることも修行です。それら、生活の行為ひとつひとつ、目の前のことに脇目も振らずに注力すること自体が、禅においては修行なのです。

そして、目の前のことに集中するということは、先に述べたエネルギー効率が悪いデフォルト・モード・ネットワークではなく、脳のセントラル・エグゼクティブ・ネットワークを使うことになります。つまり、古来より伝承されてきた禅の修行生活それ自体がマインドフルネスであり、修行を通して目の前のことに集中することが、じつは脳の疲労を軽減することにもなっていたという科学的エビデンスが、現代になって確立されたわけです。

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わずか30秒の呼吸への集中でも脳の疲労軽減に効果あり

わたしがおすすめするマインドフルネスは、座っている状態で目を閉じて、自分の呼吸に集中するというもの。本来、坐禅では半眼といって、目は開けた状態で下のほうを見て行うのですが、オフィスなど注意力を削がれる人やものが多い場所では、目を閉じたほうが取り組みやすいでしょう。

さて、目を閉じて座ったら、背筋を伸ばし、鼻を出入りする空気の流れ、あるいは空気によって体が膨らんだりしぼんだりすることを感じてください。そして、その様子を心のなかで実況中継するのです。「入った入った、出た出た」「膨らんだ膨らんだ、しぼんだしぼんだ」という具合です。

そのうち、頭のなかに雑念が湧いてくるはずです。そのことに「うまくいかなかった」などと思う必要はありません。なぜなら、雑念が湧くのは当然のことで、その雑念を振り払って再び呼吸に集中を戻すときにマインドフルネスの効果はさらに高まるからです。そういう意味では、雑念が湧いたときはチャンスともいえます。

そして、その一連のプロセスも実況中継しましょう。「入った入った、出た出た」「今日はなにを食べようかな」「あ、雑念だ、呼吸に集中を戻さなきゃ」「膨らんだ膨らんだ、しぼんだしぼんだ」という要領です。

1回あたりの時間を決める必要はありません。30秒でも1分でも、自分が心地良くできる時間でいいでしょう。そして、できれば1日3回くらいのマインドフルネス習慣を心がけてほしいところですが、そこまでできなくても問題ありません。

実際、わたしが協力したある企業の社員さんたちには、1日3回のマインドフルネスを推奨しましたが、実際には3回できなかった人のほうが多かった。それでも、4週間後には彼らが感じる幸福度が格段に上がったり、不安や気分の状態が顕著に改善されたり、疲労度が低減して集中力が向上したりといった目に見える結果が導き出されました

仕事の合間や休憩時間にもできるものですから、ぜひ試してみてください。続けていれば、大きな効果をきっと感じられるはずです。

“精神科医の禅僧”が教える「脳が疲れる根本原因」と、マインドフルネスをすすめる科学的理由05

【川野泰周さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「疲れすぎた脳」が休まる最高の習慣はあるのか? 精神科医の禅僧に聞いてみた。
やっぱり「書く習慣」は最高だった。脳が疲れた現代人こそペンと筆を持つべき理由。

【プロフィール】
川野泰周(かわの・たいしゅう)
1980年生まれ、神奈川県出身。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。2005年、慶應義塾大学医学部医学科卒。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行を行う。2014年末より臨済宗建長寺派林香寺の住職となる。現在は寺務の傍ら、都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。また、ビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代など幅広い対象に講演活動も行う。『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『ずぼら瞑想』(幻冬舎)、『ぷち瞑想習慣』(清流出版)、『悩みの9割は歩けば消える』(青春出版社)、『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方』(インプレス)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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