「つい楽をしたくなり、挑戦や努力を避けがち」
「イライラしてカッとなることが多い」
「なかなか決断ができない」
こういった傾向があるのであれば、あなたの脳は「感情系」が優位になっていて、「思考系」が十分に機能していない状態だと言えそうです。
思考系とは情報を整理し合理的な判断をする機能で、感情系とは喜怒哀楽や原始的な欲求に関する機能のこと。そんな感情系と思考系を上手に働かせ、感情系優位の状態を解消するにはどうすれば良いのか、詳しく紹介していきます。
感情系が優位になると「楽なほうへ流される」
脳神経外科専門医の築山節氏いわく、気の進まないことに直面するとき、人の脳内では思考系よりも感情系が早く反応するのだそう。困難なことや嫌なことに対して、感情系は「できれば避けたい……」という反応を示します。人の脳は本来的に、困難を後回しにして楽をしたがる性質を持っているのです。
だからといって、感情系優位の状態を放置しておいていいわけではありません。なぜなら、嫌なことをどんどん後回しにした結果、のちのち余計に大きな痛手を被ることにもなりかねないからです。
たとえば、取引先との約束に遅刻して先方に怒られたとしましょう。本来なら事の顛末を上司に報告すべきですが、それをすれば上司からもひどく怒られることは必至。そんなとき、感情系が優位になっていて “逃げ” の反応をしたがる脳の働きに従うと、上司に報告せずごまかしてしまうことになります。
でもそんなことをしたら、あとになって事実が露見した際、上司からさらなる大目玉をくらうことになりかねませんよね。困難を前にすれば感情系が優位になるのは仕方ないとはいえ、何も対処せずいたら大変なことになってしまうのです。
感情系が優位になると「怒りっぽくなる」
イライラや怒りといった感情は、感情系が優位になっているときに生まれやすい。そう話しているのは、アンガーマネジメントアドバイザーの嶋津良智氏です。
嶋津氏の説明によると、そもそも人間の感情には第一感情と第二感情があります。第一感情とは、不安や悲しみ、苦痛や寂しさなど。その第一感情をもとにして生まれるのが第二感情で、怒りは第二感情にあたります。
たとえば、同僚たちが自分抜きで昼食を食べに行っていたことを知り、「何で声をかけてくれなかったんだ」という怒りが湧いたとしましょう。この怒りは、「自分は嫌われているのだろうか」という心配や「行きたかったな」という悲しみ(第一感情)から生まれた第二感情だというわけです。
嶋津氏いわく、こうした状況でカッとなってしまう理由は、感情系が優位になっていて思考系が活性化していないために、第一感情に気づくことができていないから。それゆえ、怒りという第二感情の発生を抑えることができないのです。
反射的に怒ったりイライラが表情や態度に表れたりしてしまうことが多いあなた。感情系優位のままでは、人間関係がうまくいかなくなってしまうかもしれませんよ。
感情系が優位になると「決断できない」
経営コンサルタント横山信弘氏の話では、感情系優位の人は決断力がないとのこと。正しい決断ができないどころか、決断すること自体を避けがちになるのだそう。
先に築山氏の解説として紹介したように、人は困難なことに対しては感情系が優位になり、「面倒くさいのは嫌だから楽をしたい」と思うもの。「決断」という行動にも同じことが言えます。「決断を避けて現状を現状のまま維持するほうが楽だから、決断なんかしたくない」となってしまうのです。
たとえば、自分の仕事の中に、Excelの高度なテクニックを使えばもっと速くこなせる作業があるとします。この状況で感情系が優位に働くと、「新しい機能を覚えるのは面倒だし、今のやり方に慣れている。現状維持が一番楽だ」と考えてしまいます。そうなると、「作業の仕方を変える」という決断を避けることとなり、結局何も変わらないままになってしまうのです。
「感情系優位」の状態を解消する方法
ここまでの話の中に、ご自身の悩みに当てはまるものはありましたか? では、感情系優位な人が抱えがちな問題を解消する方法を解説しましょう。キモは「思考系を優位にする」ことです。
【1】楽なほうに流されがちな人は「逃げずに1分でも早く処理する」
築山氏がアドバイスするのは、嫌なことから目を背けたくなったら、逃げるのではなく、嫌な時間を1分でも短縮するという方法です。逃げて一時的に楽になっても、結局あとでツケが回ってきます。少しでも早く目の前の問題を処理するほうが得策なのです。
嫌なことが起きたら、思考系を働かせて問題の解決方法を考え、すばやくそれに取りかかりましょう。たとえば、先ほどの「取引先との約束に遅刻して先方に怒られた」という例であれば、「今ここでごまかしたら、あとでどうなってしまうか」を考え、すぐに正直に上司に報告します。たとえ上司に叱られたとしても、隠して逃げたあとで叱られるよりは、よほど軽く済むはず。嫌な問題が消えるだけでなく、精神的にも楽になれるのです。
【2】すぐ怒る人は「『1、2、3』と数える」
嶋津氏いわく、いったん怒り始めるとその怒りはどんどんエスカレートしてしまうので、とにかく「すぐに怒らない」ことが大切だとのこと。そのための効果的な方法として嶋津氏が提唱しているのが、「『1、2、3』と数える」という方法です。
感情系が優位だと、怒りのもとである第一感情に気づくことができないので、思考系を働かせ「いま自分はなぜ怒ろうとしているのか」を考える必要があります。そこで、「1、2、3」と3つ数えて、反射的に感情系が優位になった状態から思考系優位の状態に変えるための “間” を作るのです。
たとえば、先ほどの「自分抜きで昼食に出かけた同僚たちに対し怒りを覚えた」という例なら、その事実を知った時点で、頭の中で「1、2、3」と数え心を落ち着かせ、「自分の第一感情は何だろう?」と考えましょう。心配や悲しみといった第一感情があることに気がつければ、突然怒りが湧き上がることはないはずです。
「怒りっぽい」のは直したくても直せない癖だと諦めていた人でも、こうして感情系と思考系をコントロールできるようになれば、徐々に怒りっぽさは落ち着いてくることでしょう。
【3】決断できない人は「『三択法』と『ダブルレーミング』で決断力アップ」
横山氏は、決断力アップの方法として「三択法」と「ダブルレーミング」を提唱しています。「三択法」とは、課題に対し「ノープラン(現状維持)」「チャレンジプラン(がんばればできるかも)」「ビッグプラン(理想を超えていて、無理そうだ)」の3種類の選択肢を書き出すこと。「ダブルレーミング」とは、それぞれの選択肢に対しうまくいく確率(A)とうまくいかない確率(B)を数字で表すことです。
先ほどの「作業スピードアップのために、覚えるのが面倒なExcelの高度なテクニックに挑戦するか否か」の決断をする場面を例に説明しましょう。
【ノープラン】
挑戦しない。ゆえに作業は速くならない(A:0%/B:100%)
【チャレンジプラン】
挑戦する。最初は大変かもしれないが慣れれば作業スピードはアップ(A:90%/B:10%)
【ビッグプラン】
挑戦するうえ、別のテクニックも取り入れてさらなる高度化を図る(A:10%/B:90%)
このように書き出すと、おのずと思考系が働き、冷静に考えることになります。どのプランでいけばよいかの決断も、容易に行なえるようになるのです。
横山氏いわく、この方法をとれば、デメリットやリスクを無視するような感情任せの意思決定や決断回避はできなくなるとのこと。決断が苦手な方、ぜひお試しください。
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脳を上手に思考系優位に切り替えられれば、仕事や人間関係はぐっとスムーズになるでしょう。「自分は感情系優位になりがちかも……」と感じた方は、今回解説した感情系優位の解消方法をぜひ実践してみてください。
(参考)
築山節(2013),『頭が良くなる脳の時間割 起床後から仕事中、アフター5、睡眠中まで、脳に効く24のコツ』,マガジンハウス.
タウンワークマガジン|怒りはコントロールできる!? 忙しいワーママへ子育て中のイライラに「怒らない技術のススメ」
プレジデントオンライン|実はカンタン「怒らない技術」10のコツ-原因は親の"心の枠"
ダイヤモンド・オンライン|【第2回】意思決定できない組織は、なぜ、3つの「直感の罠」にハマってしまうのか?
ダイヤモンド・オンライン|【第5回】決断の新兵器――「朝の三択」
【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。