「そんなに頑張ってもいいことないよ。もっと適当にやればいいのに」などと言われ、モヤモヤしている努力家さん、頑張り屋さんの皆さま、朗報です。あなたの努力は報われるかもしれません。
最新研究をもとに、「頑張って働くといいことがある」科学的根拠を説明します。
「働いたあとのビールはうまい」を科学的に証明
「働いたあとのビールはうまい」などとよく言いますが――玉川大学脳科学研究所教授の坂上雅道氏ら研究グループは、この言葉のように、頑張って働いた(=コストを払った)あとの1杯(=報酬)がおいしい(=価値が高い)と感じているときの脳メカニズムを明らかにしたそうです。
本研究では、ニホンザル2頭に対して行動実験を行ない、神経伝達物質のドーパミンを放出するドーパミンニューロン(中脳にある神経細胞)の活動を測定しました。ドーパミンは、意欲や報酬に関わる脳内物質だと言われています。
行動実験の内容は、「課題を行なうとジュースをもらえる」というもの。課題は「努力しなくてもいい課題:ローコスト(負担が低い)」と、「努力が必要な課題:ハイコスト(負担が大きい)」の2種類。いずれの課題に対しても、同じ量の「ジュース:報酬」が与えられます。
このかたちで実験を行なったところ、努力して(ハイコストを払って)得た報酬のほうが、何もしない(ローコスト)で得た報酬よりも、報酬の価値が高くなると示されたそうです。
研究者らによれば、ドーパミンニューロンは、負担が大きい(ハイコスト)課題の価値を下げる働きがあるのだそう。
つまり、「これは負担が大きい→だから価値が低い→よって報酬も低い」という状況です。この、期待感低めの状態に、想定していたほど低くはない実際の報酬が与えられると、誤差が生じます。
すると、思ったより「報酬価値が高い」と感じられるわけです。
逆に負担が少ない(ローコスト)課題の場合は、予測と、実際の報酬との誤差が少ないので、負担が大きい(ハイコスト)課題ほど、報酬の価値を感じられません。
たとえば――仕事に努力を惜しまなかったAさんと、適当に仕事をこなしたBさんが同じチームで、同じように上司から「皆よく頑張った。本当におつかれさま。心から感謝を伝えたい!」という言葉をもらったとします。
Aさんにとって、その上司の言葉は価値の高い報酬になるけれど、Bさんにとっては、さほど価値のある報酬ではないわけです。「よし、今日はご馳走するぞ!」という上司に連れられていった店で飲食した際も、AさんとBさんとでは、味の感じ方が大きく違うはず。本当に、「頑張って働いたあとのビールはうまい」のです。
この流れでいくと、Aさんのように頑張った場合、「よし、明日はもっと頑張るぞ!」と、よりいっそうポジティブな方向に進みそうではありませんか?
「努力すると学びが進む」ことも発見
するとやはり、前出の研究グループが「コスト(努力)によって報酬価値が高まるなら、その活用で学習も促進されるはず」と考え、調べた結果、コストがあったほうが(=努力したほうが)学習が進むとわかったのだとか。この発見は、世界で初めてとのことです。
具体的には、前項の説明にあった2種類の課題(ローコスト課題とハイコスト課題)と、報酬(ジュース)に加え、「課題を行なうと報酬をもらえる」「課題を行なっても報酬を得られない」という選択肢を導入して実験を行ないました。その結果、コストがあるほどニホンザルさんたちの学習が早くなり、正答率(報酬をもらえるほうを選ぶ)が高くなったわけです。
これはもはや、「努力は報われる」と言ってもいいのではないでしょうか!?
努力が報われやすくなるコツ
しかし、努力さえすれば報われる、というわけでもないようです。
株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏は、日経 社会人大学院サーチのインタビューに「努力の方向性が違うと、ただ同じところをグルグル回るだけなので成功しない」と語っています。
また、予備校講師の林修氏も、リクナビNEXTのインタビューに対し、「頑張っているのにうまくいかないのは、出るレースを間違えているから」と語りました。「誰よりも努力するのは、自分が勝てる場所でやるべき」だと林氏は言います。
その人に適した場所、方向で努力しない限り、結局その努力は報われないということ。では、どうしたら私たちは「自分が勝てる場所」を見つけられるのでしょう?
じつはその答えも、同インタビューで林氏は語っています。
とりあえず、まずいろいろと、少しでもいいから手を出してみたらいいんです。どっかに必ず、「あれ?こいつよりオレのほうがうまくいくな」というものがあるはずです。常に自分を客観的に見て自分を分析していたら、すぐにピンとくるはずですから。
(引用元:リクナビNEXTジャーナル|【いつやるか?今でしょ!】林先生のキャリアパス「勝てる場所で誰よりも努力する。それが勝つための最強の法則」)
その際は、自分ができることを増やそうとするのではなく、「自分ができないことを増やす」ことが大切なのだそうです。林氏いわく「できることはひとつでいい、ほかはできなくてもいい」とのこと。
つまり、「自分ができないこと」を増やして、それらをことごとく削ぎ落としていけば、本当に自分が得意なことを確実に絞り込んでいけるということ。 最終的にたったひとつの自分の「核」をみつけることができれば、それに一点集中できるはず。そこでやっと、徹底的に努力してこそ【努力が報われる】わけです。
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「頑張って働くといいことがある」科学的根拠と、「努力が報われやすくなるコツ」をお伝えしました。
とにかくいろんなことに挑戦し、できなくても「よし、どんどん絞り込めるぞ」と考え、自分の「核」を見つけてみてください。 見つけたら、あとは努力するだけ。もれなく、より確実な成功への道のりが見えてくるはずです……!
(参考)
玉川大学 研究所|世界初!「働いた後のビールはうまい」脳内メカニズムを発見!-報酬を得るための努力がその報酬の価値を上げる脳メカニズム-
リクナビNEXTジャーナル|【いつやるか?今でしょ!】林先生のキャリアパス「勝てる場所で誰よりも努力する。それが勝つための最強の法則」
日経 社会人大学院サーチ|ファーストリテイリングの柳井正社長(上)
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STUDY HACKER 編集部
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