「なぜあの人は、難しい仕事を任されても乗り越えていけるのだろう」
「どうしてあの人は、うまくまわりを巻き込んで仕事ができるのだろう」
あなたの身近にも、そんな “何かと順調にいっている人” はいませんか? うまくいくのは運がいいから――とは限りません。物事をうまく運べるような考え方をすることも、大切なのです。
今回の記事では、仕事がいつもなぜかうまくいっている人の思考習慣を3つお伝えしましょう。
「ほとんどのことは対処できる」と考える
仕事が順調な人ほど、余裕があるように見えますよね。それは、彼らは「およその不安は実現しない」ととらえているから。うまくいく人は、「ほとんどのことは対処できる」と考えるのです。
明治大学教授で『図解ストレス解消大全』著者の堀田秀吾氏によると、「心配事の9割は起こらない」のだそう。(カギカッコ内引用元:PRESIDENT WOMAN Online|科学が証明、「不安だ」を「〇〇している」に言い換えるだけで実力が3割増しになる)
にわかに信じがたい割合ですが、研究結果もあります。ペンシルベニア大学の研究(2020年)で、不安になりやすい29名を対象に、30日にわたり「不安が実際に現実化」したかどうかの追跡調査を実施。すると結果は、被験者が抱える不安の91.4%が的中しなかったのだそうです。(National Center for Biotechnology Information|Exposing Worry’s Deceit: Percentage of Untrue Worries in Generalized Anxiety Disorder Treatment より)
つまり、ほとんどの心配は取り越し苦労だということ。「上司からまた叱責されたら嫌だな」「顧客の対応で失敗したらどうしよう」などの不安は、必ずしも現実化するわけではないのです。
また、そうした不安を抱えすぎると、行動できなくなるといった事態を招くおそれもあるでしょう。心配ばかりすることは、仕事にデメリットをもたらす可能性があるわけです。
一方で、仕事を順調に進められる人は、不確実な不安をあれこれ考えることはしません。「ほとんどのことは対処できる」とポジティブなイメージをもつのです。
心理学者のジェニス・ヴィルハウアー博士は、メンタル改善のアプローチとして近年注目されている、「将来の前向きな出来事に焦点を当てる」という方法を紹介しています。その主な効果はこちら。
- 反芻思考の減少
→ポジティブな未来に焦点を当てることで、否定的な思考のサイクルを断ち切ることができる - 楽観主義の増幅
→将来のシナリオを前向きに想像することで、より楽観的な見通しを立てられる - 目的意識の創造
→ポジティブな未来をイメージすることで、目標や願望を見つけることができる - 不安の軽減
→未来に対する前向きな考えや計画は、将来に関する不確実性を減らすことができる
(Psychology Today|Why Thinking About the Future Can Improve Depressionよりまとめた)
ヴィルハウアー博士の提案どおり、筆者も未来志向で、「ほとんどのことは対処できる!」と考える習慣をつけてみることにしました。
じつは、筆者も不安になりやすい性格。STUDY HACKERの記事を書きながら、「この情報は正しいのかな」「この文章構成で読みやすいかな」と心配になるあまり、作業が停滞することも少なくありません。
しかし、「編集部と協力しながら直していけばいい」と前向きなイメージをもつと、「構成を変更するかどうか」「資料AとBのどちらが相応しいか」などの小さな意思決定に深く悩まなくなったのです。肯定的に想像する癖をつけたことで、「問題が発生してもリカバリーできる」という意識がもてるようになり、不安が減ったのかもしれません。
もちろん、十分な備えができるという意味で、ほどよい不安や緊張はパフォーマンスを高めてくれるでしょう。しかし過度な心配は、作業の停滞を招く原因にもなりえます。「対処できる」という楽観思考で、行動力を上げていきましょう。
「0.2%でも改善できないだろうか?」と考える
「いまのやり方で問題ない」――こんなふうに現状に安心してばかりいるようではいけません。仕事がうまくいっている人は、「もっと改善できないだろうか?」と考え、やり方を変えているものなのです。
経営コンサルタントの本田健氏は、変化が激しいいまの時代には、「これまでの前提を捨てて、ゼロベースで考えること」が必要だと言います。(カギカッコ内引用元:@DIME|どんな時代であっても仕事がうまくいく人に共通する5つの行動)
“ゼロベースで考える” には、「思い込みや先入観にとらわれない」ことが大切。(グロービス経営大学院教員・村尾佳子氏の解説。カギカッコ内引用元:GLOBIS CAREER NOTE|ゼロベース思考とは?身に着けるメリットと習得のポイント)
たとえば、何かのイベントを企画するとき、「5年前はこのやり方でうまくいったから、今回もそれでいいかな」などと考えたらどうなるでしょう。環境に配慮する消費者が増えたり、オンラインのイベントも珍しくなくなったりしているなか、従来のやり方にしがみついたところで、うまくいくとは限らないはず。一度 “ゼロ” の視点から、「現在の状況で、求められているものは?」と一考する必要があるのです。
経済評論家の勝間和代氏は、「現状維持が安心安全!」と考える「現状維持バイアス」の危険性について、こう述べています。
現状維持バイアスのデメリットには、行動の過度なパターン化に陥りやすいということもあります。1つの環境に特化して過度に最適化すると、逆に柔軟性を失い、ちょっとしたトラブルにも脆弱となります。
(引用元:プレジデントオンライン|いつの間にか「終わった人」になる人、いつも最前線を走る人を分ける"0.2%の習慣" 以下カギカッコで示した勝間氏の見解も同じ)
加えて、「現状維持は『安定』ではなく、『ゆるやかな後退』」だと勝間氏。いまのやり方で問題ない――と考えるのはラクな反面、少しずつ不安定な方向へと自分を導くことになってしまうのです。
ではどうすれば、私たちは現状維持の思考から抜け出せるのでしょうか。勝間氏は「小さく日常を変化させていく」という「0.2%の改善」を推奨しています。コツは、
「我慢しなくてもいい方法はないか」「もっと楽にできないか」「改善できるところはどこか」をいくつか考える
(引用元:同上)
ことだとか。
筆者もつい現状維持に身を置きがちなので、「もっと楽にできることは?」と考え、仕事環境を見直してみることにしました。
筆者は作業をしながらメモをとることが多いのですが、ときには「メモをとるのが遅い」「手が疲れる」と悩むことも……。そこで、ペンを変えてみました。グリップは手にフィットする柔らかいもの、ラフに軽く書けるよう芯は太いもの――このように、仕事で使うペンにちょっとだけこだわってみたのです。すると、メモをとるときの負担が減り、「紙にペン先を滑らせる感覚が心地いい」と気分も上がるようになりました。
ペンを変えただけという本当にわずかな変化ですが、「もっと楽にできる方法」に意識を向けることが、作業効率を大きく左右するのだと実感しました。あなたも、我慢しているものを0.2%変える習慣で、現状維持の思考から脱してみませんか。
「相手はどう思うだろう」と考える
どんな仕事も誰かと協力し合うことが求められるなか、うまくいく人は「相手の視点」で考える習慣があります。
グロービス経営大学院教員の嶋田毅氏は、上司や部下、同僚と働くうえでの注意点について、次のように述べています。
「彼/彼女はこういう仕事をする機能」と見た瞬間に、人を動かすことは難しくなります。彼らのやりたいことや「野心」、あるいは嫌がることなどを常日頃、コミュニケーションを通じて理解しておくことがまずは必要です。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|頭がいい人の「仕事がうまくいく」1つのコツ)
つまり、相手への理解が必要だということです。
たとえば、上司が部下の「得意/好み」を知ることは、部下のモチベーションを引き出す手がかりとなるでしょう。部下が上司の「嫌がること」を把握していれば、物事の伝え方を工夫することも可能なはず。相手を理解することは、共同して仕事するために欠かせないスキルと言えるのです。
株式会社インキュベータ代表取締役で、社内起業のサポートに特化したコンサルタントの石川明氏も同様に、周囲の人たちの気持ちや心理を汲み取る力の重要性を説いています。
組織におけるプロジェクトは、自分ひとりで動かせるようなものではありません。それに関わる関係部署や経営陣の感情的な共感が得られていなければ、サポートを得られないばかりか、逆に抵抗に見舞われるなどしてそのプロジェクトは頓挫してしまうでしょう。
(引用元:STUDY HACKER|本当に仕事ができる人がもつ「奥深い力」。磨くには「人の気持ちを考える」習慣が何より大切だ)
プロジェクトを実行する、意見を出す――このような場面で共感を得るためにも、相手の視点に立った言動が大切になってくるはずです。
では、相手の視点で考えられるようになるには、どうしたらよいでしょう。石川氏は「人の気持ちを考える」ことを習慣にすることを推奨しています。相手の「行動」から「気持ちや背景を想像」するのです。(カギカッコ内引用元:同上)
以下に例を挙げてみます。
- 上司がよく、部下である自分に「A社の案件についての進捗状況」を聞いてくる(行動)
- 上司は「部下に任せたものの、うまく進められるかな……」と気になっているのかも(気持ち)
- A社に上司の知人がいるから、信頼を落としたくないのだろうな(背景)
- 自分の部下は、プレゼンが近づくと顔がこわばる(行動)
- きっと部下は、不安と緊張でいっぱいなんだろうな(気持ち)
- 以前にプレゼンで失敗して、そのことが忘れられないのだろう(背景)
このように、気持ちや背景を想像したうえで仮説を立て、行動に移してみましょう。何も考えずにいたときに比べて、相手と協力し合えて仕事がうまくいく場面が増えるはずですよ。
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仕事がうまくいく3つの思考習慣をご紹介しました。参考にできるものがあれば、ぜひ試してみてくださいね。より快適に働き、成果を実感できるようになることを願っています。
(参考)
PRESIDENT WOMAN Online|科学が証明、「不安だ」を「〇〇している」に言い換えるだけで実力が3割増しになる
National Center for Biotechnology Information|Exposing Worry’s Deceit: Percentage of Untrue Worries in Generalized Anxiety Disorder Treatment
Psychology Today|Why Thinking About the Future Can Improve Depression
@DIME|どんな時代であっても仕事がうまくいく人に共通する5つの行動
GLOBIS CAREER NOTE|ゼロベース思考とは?身に着けるメリットと習得のポイント
プレジデントオンライン|いつの間にか「終わった人」になる人、いつも最前線を走る人を分ける"0.2%の習慣"
ダイヤモンド・オンライン|頭がいい人の「仕事がうまくいく」1つのコツ
STUDY HACKER|本当に仕事ができる人がもつ「奥深い力」。磨くには「人の気持ちを考える」習慣が何より大切だ
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。