インターネットやスマホが浸透したこともあり、便利なツールや新たなビジネスが次々と生まれています。どんな時代になるのか誰にも予測できない「明確な答えがない」いま、かつてBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)でコンサルティング業務に従事していた高松智史(たかまつ・さとし)さんは、だからこそビジネスパーソンは「考える力」を磨かなければならないと言います。
そして、そのためには「口癖」が重要な役割を果たすのだそう。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「いいですか?」と聞くのではなく、「議論しましょう」と言う
「考える力」を学んだり伸ばしたりするには、「口癖」を大事にすべきだというのが私の考えです。
考える力は目に見えない力のために、「以前と比べると考える力が身についた!」とはダイレクトに感じづらいものです。でも、「言葉が変わった」ということは認識しやすいですよね。それが、口癖を大事にすべきだという理由です。
考える力を伸ばすことを、これまでの自分にはなかった考え方を身につけるということだととらえると、「思考の癖を変える」と言い換えてもいいでしょう。ですから、考える力を伸ばす際には、口癖をトリガーにしましょう。そうすれば、言葉が変わり、その結果として思考の癖も変わりやすいのです。
では、考える力を伸ばすために使うべき口癖をいくつか紹介していきましょう。そのひとつが、「議論しましょう」です。そして、その対極にある言葉が、「どうでしょうか?」「いいですか?」です。
上司から振られた仕事にせっせと取り組んで、ある程度できたところで上司に「こんな感じでいいですか? どうでしょうか?」と聞く。よく見られるシーンですし、かつてであればそれでもよかったかもしれません。
でもいまは、「明確な答えがない」時代であり、私たちは常に「答えがないゲーム」に取り組まざるを得ないのです。答えがないのですから、上司からしても「これでいいですか?」と聞かれても困るというものです。
「答えのないゲーム」をしているかぎり、その終着点は必ず「議論」になると私は考えています。「どうでしょうか?」「いいですか?」と相手に採点してもらおうとするのではなく、「議論しましょう」と言って複数の選択肢を比較検討するなかで、相対的にベターな選択肢を見つけることができるのです。
「あえて逆の意見をつくる」ことで、先入観から脱する
考える力を伸ばすため、次におすすめしたい口癖は、「あえて逆の意見をつくるとすると」というものです。
たとえば、会社の誰かが「Aさんはちょっと能力が足りないから、あのプロジェクトのメンバーから外れてもらおう」と言ったとします。そのとき、「その意見もわかるけれど、あえて逆の意見をつくるとすると」というふうに口にして考えるのです。
そうすると、Aさんのことが少し違った存在に見えてきます。「たしかに仕事の能力は足りているとは言えないけれど、体力はある」だとか、「まさにいま勉強をして能力を伸ばしている最中だから、近いうちに必ず戦力になってくれる」のように、Aさんのいい面が見えてきます。もちろんそれでも結論は変わらないこともあるでしょうけれど、この現象こそが大事なのです。
というのも、人間は愚か者だからです。愚か者がゆえに、一度思い込んだ思考に縛られてしまって、ある物事の限られた面しか見えなくなってしまいがちです。それではもちろん思考は深まりません。「あえて逆の意見をつくるとすると」という言葉によって先入観や思い込みを払拭し、物事のあらゆる面に目を向けることができれば、それまでは見えなかった考えに至ることもあるでしょう。
また、この口癖は、先の例のように低評価したものの異なる面を見つけて思考を深めることのほか、もともと高評価したものをさらにブラッシュアップすることにも有効です。
社内で「これは素晴らしい」と高評価された企画案があるとします。そこで、「あえて逆の意見をつくるとすると」の出番。こう言うと、高く評価されていた企画案のなかにも、手放しで「素晴らしい」と言っていたときには見過ごしてしまっていた欠点が見つかるかもしれません。そうして、その企画案をよりよいものにしていくこともできるというわけです。
「あえて批判すると」という言葉で、物事の欠点を見つける
この「あえて逆の意見をつくるとすると」の応用バージョンとして最後に紹介するのが、「あえて批判すると」という口癖です。
じつは、これはコンサル用語のひとつでもあります。クライアントの案などをストレートに批判してしまうと、相手との関係をこじらせることにもなりかねないからです。「この商品、売れないと思いますよ」と言うのではなく、「この商品に対してあえて批判的な立場をとらせてもらうと」というふうにワンクッション置いて問題点を指摘するわけです。
この言葉を使えば、まさに誰もが見過ごしていた、あるいは目をつむっていた欠点というものを見つけて排除することができます。逆に言うと、たとえ大手企業であっても、時にとんでもない低評価を受けるような欠点だらけのプロダクトを世に出してしまうこともあるのは、この言葉を使っていないからです。
数年前、あるコンビニチェーンのコーヒーマシンが多くの批判を浴びたことがありました。そのコーヒーマシンのデザインには、ある有名デザイナーが起用されたことが知られています。発表時こそ「クールで洗練されている」と話題にもなりましたが、いざ店頭に置かれると、レギュラーサイズが「R」、ラージサイズが「L」と表示されていることなどから「わかりにくい」という批判が多く寄せられ、実際にボタンを押し間違える客も続出しました。
おそらく、コンビニ側からすれば「有名デザイナーに依頼したのだから、いいものができるに違いない」とか、それこそ「批判的なことは言えない」といった考えに至ったがゆえに、そんなコーヒーマシンを世に出してしまったのでしょう。
それまでのあいだに、コンビニ側が「もちろんいまのままでも素晴らしいのですが、あえて批判すると」と口にすることができれば、結果は違ったのではないでしょうか。
【高松智史さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「正解が全然わからない」ときの正しい考え方。“2つ以上の○○” をつくれば思考は深まる!
仕事で強いのは「示唆」をベースに動ける人。元BCGコンサルが教える、最高の示唆を導く3つの言葉
【プロフィール】
高松智史(たかまつ・さとし)
「考えるエンジン講座」/株式会社KANATA代表取締役。一橋大学商学部卒。NTTデータ、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を経て「考えるエンジン講座」を提供する株式会社KANATAを設立(https://www.kanataw.com/)。コンサルタントやビジネスパーソンを中心にこれまで3,000人以上が受講。同講座は法人にも人気を博しており、これまでにリクルート、塩野義製薬、三菱商事、アクセンチュア、デロイト等での研修実績がある。YouTube「考えるエンジンちゃんねる」の運営者でもある。著書に『コンサルが「最初の3年間」に学ぶコト』(ソシム)、『フェルミ推定の技術』(ソシム)、『変える技術、考える技術』(実業之日本社)などあり、著者累計25万部。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。