出社時間や会議の開始時刻に間に合おうと心がけているのに、なぜか遅刻してしまうことが多い人はいませんか? 交通機関の乱れにせよ、不測のトラブルにせよ、どんな理由であれ遅刻を繰り返していては信用問題に関わるもの。今回は科学的な観点から「遅刻」を考え、その予防策を提案します。
ビジネスパーソンが「5分の遅刻」で失うもの
ちょっとぐらい遅刻しても謝ればいいだろう……そう考える人もいるかもしれませんが、じつはほんの少しの遅刻でもその影響は計り知れません。
通勤に関してリサーチをしている通勤総合研究所が2017年に発表したデータによると、83.5%もの人が「ビジネスでは相手がわずか5分遅刻しただけでも、その人に対する印象が悪くなる」と答えているそうです。
しかも、遅刻が与える影響は、遅刻したその場限りには留まりません。プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役の秋山進氏は、遅刻が仕事に与える影響について以下のように述べています。
「5分遅刻する人」という印象は、マイナスのイメージを生む。その人のパフォーマンスについての憶測にもつながる。「いつも5分遅れてくるような人は、どうせ仕事もいい加減なんだろう」と。そうやって会議に遅れるたびごとに、その人は信望を損ねつづけているのだ。そして本人はそのことに気づかない。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|「会議に5分遅刻します」が組織を壊す本当の理由)※太字は筆者が施した
つまり、仕事でどんなに優秀な成果を出していようと、遅刻というたったひとつの要因が、その人のイメージを著しく悪化させてしまうのです。
そもそも、なぜ遅刻してしまうのか?
遅刻による悪影響がこれほどまでに大きいのなら、ぜひ遅刻を防ぎたいもの。そのためにはまず、なぜ遅刻してしまうのかを知ることが大切です。
ここで、ある研究結果を紹介しましょう。ワシントン大学の心理学の研究者らが、体感時間と遅刻の関係性を明らかにするためにある実験を行ないました。実験で行なわれたテストは、次の2つです。
【テスト1】
被験者はまず簡単な雑学問題を解き、それに要した時間がどれくらいだったと感じたかを報告しました。報告時間と実際の時間を比べ、報告時間のほうが実際よりも短かった人は「過小評価グループ」、長かった人は「過大評価グループ」に分けられました。たとえば「実際には10分も経っていたが、8分で解き終えたと報告した」という被験者は過小評価グループに分けられます。
【テスト2】
次に被験者は、
- パズルと雑学問題に取り組み、雑学問題を解き終えたらすぐにボタンを押す
- パズルはいつでも切り上げて良いが、雑学問題は全て終えなければならない
- ボタンはできる限り実験開始20分に近いタイミングで押す
という条件のテストに取り組みました。つまり、テスト2では、テスト1で得た「雑学問題にはこのくらい時間がかかる」という感覚を頼りに、適切なタイミングでパズルを切り上げる必要があるということです。
【結果】
その結果、テスト2においてボタンが押された時間は、過小評価グループの被験者は約22分後、過大評価グループの人は約18分後。それぞれ、20分からズレてしまっていました。これは、各個人が体感時間のズレによって、パズルを切り上げるべき適切なタイミングを誤ってしまったためです。
このように、体感時間のズレは行動計画に大きな影響を与えるのです。普段の生活で遅刻しやすい人は、「身支度は10分で終わるという予測をしたにもかかわらず、実際は15分以上かかってしまい約束の時間に遅れる」といったように、体感時間を過小評価する傾向にあるのです。
それでは、これを踏まえて遅刻を防ぐ方法を考えてみましょう。
遅刻を防ぐメソッド1:体感時間のズレを認識する
冒頭でも紹介した「遅刻しないように行動しているつもりなのになぜか遅刻してしまう」という人が遅刻を防ぐには、体感時間を正す必要があります。
そのための方法として、マサチューセッツ大学教授のクラウス・ホワイトボーン氏は、以下の2つの対策を提案しています。
対策1. 自分の体感時間がどのようにズレているのかを知る
まずは自分の体感時間のズレの傾向を知ることが大切です。自宅から最寄りの駅までの所要時間や、朝ごはんの準備から片付けにかかる時間など、日常のさまざまな行動にどれだけ時間がかかっているかを予測し、実際の時間と比較してみましょう。予測よりも実際には時間が長くかかっていたという人は、意識的に予測時間を多く見積もるように修正する必要があります。
対策2. 時計をこまめに見る
自分の体感時間のズレを知った後は、こまめに時計を見る習慣をつけましょう。その都度、体感時間と実際の時間を一致させられるので、それらのズレを最小限に抑えることができるようになります。
遅刻を防ぐメソッド2:不測の事態もできるだけ想定して動く
交通トラブルが起こったり前の予定が長引いたりするなど、不測の事態で遅れることが多いと感じているのであれば、それも徹底的に想定して動くことが必要です。
これを徹底しているのが、航空会社のANAです。定刻通りの運行は不測の事態を想定した周到な準備のもとで実現しています。たとえば、勤続20年以上のベテランパイロットでも、不測の事態に備えるための「イメージフライト」を行なっているのだそう。
予想天気図を見て、『どの高度を選ぶか、どの高度まで選択できるか? 上限は? 下限は?』などを考え、また、着陸する空港の滑走路について、空港周辺の地図を見ながら『山がここまでせり出していて、鉄塔もこの位置にある。そうであれば、着陸3分前にはこの高度は保っておかなければならないな』と考えを巡らせます
(引用元:東洋経済オンライン|信用されない人は「1秒」の想像力が足りない)
パイロットたちは、ぼんやりと予定の流れを確認するだけではなく、そのときの光景や行動を順を追って丁寧に考えます。そして、「思ったよりも時間がかかりそうだ」「こういった状況もありえるかもしれない」といったようにさまざまな場面を想定することで、不測の事態にも対応できるようにしているのです。
また、パイロットだけではなく、整備部門においても、この徹底した準備は共通しているのだそう。事前情報と状況が異なっていた場合や、追加作業が発生した場合、スケジュールが押した場合などをも想定した周到な準備の元で、時間通りに整備業務を遂行しているのです。
こうした行動の仕方は、航空会社だけに限ったことではありません。これを私たちの生活に当てはめてみると、「出張先では慣れない土地で道に迷う可能性もあるから、かなり余裕を持っておこう」「電車はこのくらい遅延するかもしれないから、それでも間に合うように動かなければ」などのように、いろいろ応用することができそうですね。
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計画や予測の精度を上げていくことが、予期せぬ遅刻を未然に防ぐためには必要不可欠です。ぜひ今回紹介した方法を試してみてくださいね。
(参考)
PRTIMES|ビジネスシーンでの“5分”の遅刻は許される?「印象が下がる」83.5%も! “ちょい遅刻”はスマホの有効活用で解決!?遅刻は恋愛にも影響!!23.4%が恋人の遅刻が別れるきっかけに
ダイヤモンド・オンライン|「会議に5分遅刻します」が組織を壊す本当の理由
HUFFPOST|なぜあの人はいつも遅刻するのか?心理学で説明された3つの原因と対策
Psychology Today|This Is Why Some People Are Always Late
Emily R Waldum and Mark A. Mcdaniel(2016),”Why are You Late?: Investigating the Role of Time Management in Time-Based Prospective Memory,”J Exp Psychol Gen.Vol.145,No.8,pp.1049-1061.
東洋経済オンライン|「5分遅刻」で信用をなくす人に足りない視点
東洋経済オンライン|信用されない人は「1秒」の想像力が足りない
【ライタープロフィール】
梅野凌矢
東京大学工学部所属。鹿児島県立鶴丸高等学校出身。大学では人間の認知システムを中心に勉強中。大学の吹奏楽団体に所属していて、担当はホルン。趣味は音楽ゲーム、読書など。Perfumeがとても好き。