仕事で壁にぶつかったときや行き詰まったときに、それでもしっかりと前へ進んでいく力を得るためには、「自分らしさ」という要素にヒントがあると野球評論家の野村克也さんはいいます。
行き詰まっているのは自分なのに、そんな自分自身へと戻っていくのは勇気がいること。それでも、野村さんが「自分らしさ」にこだわるのがよいと考える理由とは? 今回は、長期的視野に立って人間の成長をとらえる、野村流「仕事論」のエッセンスをご紹介します。
【格言】 自分らしさを追い続けることが、 いつか何倍もの利益になる
「世の中には、必ずあなたのことを見てくれている誰かがいる」 わたしはこの言葉が好きだ。
現役引退後、プロ野球評論家として活動していくなかで心がけたのは、「誰にも負けない野球理論を構築する」ことだった。ストライクゾーンを9分割にした『野村スコープ※』は、そうしたスタンスから生まれたという背景がある。どうしたらテレビの視聴者に野球をわかりやすく伝えられるか──。それをつねに模索し、アイデアを出し、自分の理論を高めようと努力を続けた。結果的に、その活動がヤクルト球団と出会わせてくれ、監督として招聘してくれることにつながった。
いまの時代は、直接的な利益を求めようとする者ばかりだが、遠回りでも、人目につかなくても、自分らしさを追い続けることが、いつか何倍もの利益になることがあるのだ。
どんな仕事にせよ、信念を持ち続けること。そして、人との出会いを大切にし、礼を尽くすこと。これが本当に大切なことなのだ。
※野村スコープ ストライクゾーンを9分割し、配球を解説、予測する野村オリジナルのツール。独自のデータに基づくこの「野村スコープ」解説を、1980年代にテレビ中継で初めて試み、配球の読みだけでなく、打者や投手心理を深堀りして話題となった
【プロフィール】 野村克也(のむら・かつや) 1935年、京都府に生まれる。京都府立峰山高校を卒業し、1954年にテスト生として南海ホークスに入団。3年目の1956年からレギュラーに定着すると、現役生活27年間にわたり球界を代表する捕手として活躍。歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王などその強打で数々の記録を打ち立て、MVP5回、首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回など、タイトルを多数獲得。また、1970年の南海でのプレイングマネージャー就任以降、延べ4球団で監督を歴任。ヤクルトでは「ID野球」で黄金期を築き、楽天では球団初のクライマックスシリーズ出場を果たすなど輝かしい功績を残した。現在は野球評論家として活躍中。
Photo◎産経ビジュアル
*** 自分のやり方で行っていたはずが、気づかないうちに「他人がうまくいった方法」に飲み込まれていることはよく起こります。もちろん、他人の方法を取り入れることは悪いことではありませんが、自分らしさや、自分が得意とするものを見失ってしまえば本末転倒ですよね。
迷いが生じたときは、これまで積み重ねてきことを信じて「自分らしさ」に戻ることが大切。そうしたひたむきな努力を続けるからこそ、どこかで誰かが見ていてくれるのかもしれません。