「東大に入学した理由は何ですか?」 同級生に聞くと、こう答える人がいる。
「世の中に役立つ研究をして、困っている人を助ける発見をしたいから」 「自分が何事にも先頭に立ち引っ張っていけるリーダーになりたいから」
立派だし、これらの理由を否定するつもりはない。 ただ、「成績をあげる」という観点からいくと、こうした目標、モチベーションというのはあまりよくないということがわかってきた。
「意識高い系」な目標でなくても、十分モチベーションを保てるということをお伝えしたい。
目標を立てるのは「気持ちいい」からだった
そもそも、なぜ人は目標を立てようとするのだろうか。
それは、「目標を達成すると気持ちいい」からだ。
脳には「報酬系」と呼ばれる仕組みがあることがわかっている。
何か行動を起こしたとき、それに対して報酬が呈示されたときには、脳内でドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を分泌する神経が活発化。脳内で快感を感じる部位がはたらき、「またしたい!」と感じるからだそう。(参考:国里愛彦, et al. "うつ病において報酬系の機能は阻害されるか?―うつ病と報酬系に関する認知神経科学的検討―." (2008).)
そう、目標を達成すると、脳の中でその達成感を「報酬」として認識。気持ちいい!!と感じるから、またやりたくなるのだ。
これが目標をたてる理由。
エサがあるから頑張れる。動物に学ぶ「報酬」の意味
人の場合はわかった。では、動物ではどうだろう。
イヌやイルカなど、ある程度発達した脳を持つ動物なら、芸を仕込むことができる。 では、そうした動物はなぜ芸をするのだろうか。
「芸をすることによって人間を楽しませたい!」 「自分が他のイルカたちを引っ張っていきたい!」
そう考えているかというと、そんなはずもない。 やっぱりイヌやイルカも人間と同じ。「気持ちいい」からやっているのだ。
ただしこの場合、人間と違って「報酬=目標」ではない。それはドッグフードであったり、餌のイワシであったりする。
芸をすると、エサをもらえる。そうすると、脳内の報酬系で「気持ちいい」と感じる。 だからまた芸をやりたくなる。
こういう理由で動物たちは芸をやってくれるのだ。
「セコい」目標設定で脳をブーストさせよう
人間の場合。 目標をたてるとそれが報酬になる、といったが、果たしてそれは本当に効果的な「報酬」なのだろうか。
よく考えてみてほしい。
例えば勉強する目標として「東大に合格する」というのを立てるしよう。脳では、それを達成したときに「気持ちいい!」と感じる。
でもこの目標、何回も達成できるものではないということにお気づきだろうか。 確かに、一度達成したときの快感は凄まじいものだろう。 脳内では快感物質のオンパレードになるに違いない。
でも、その快感は普段感じることができない。 毎日の勉強は、「報酬」がない状態で続けることになるのだ。
勉強以外でも、これは同じ。目標をあまりに大きくしてしまうと、快感を感じるはずの「報酬」がないまま努力をしなければならない。イヌやイルカに、エサをあげずにウルトラC級の芸を覚えこませようとしているのと同じなのだ。
そこで筆者が提案したいのが、「目標はセコく設定する」ということ。
例えば、「勉強を90分続けられたらチョコを一口食べる」「今度の模試でいい点をとったらばあちゃんから5000円もらえる」なんていう風に。
何も高尚な目標でなくても、いやむしろ高尚でないからこそ、脳は激しく活性化し、努力を続けることができるのだ。
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立派な決意。素晴らしい。高尚な目標。最高だ。
でも、毎日の努力を続けるとき、そうした「大きな目標」を目指すのはしんどい。 目標はセコく。現金なやつの方が、かえって成功するのかもしれない。
参考 池谷裕二|受験脳の作り方 国里愛彦, et al. "うつ病において報酬系の機能は阻害されるか?―うつ病と報酬系に関する認知神経科学的検討―." (2008).
