日々の仕事がたくさんありすぎて、気がついたら大きな仕事が手付かずのまま締め切り直前になってしまっていた、という経験はありませんか? 大事な仕事を優先しなければいけないのはわかっているのに、いろいろなタスクに追われて、大事なことが後回し……。そうなってしまうのには、実は理由があるのです。今回はその理由を説明するとともに、「INOテクニック」というタイムマネジメントのメソッドを紹介します。
なぜ、大きな仕事に手をつけられないのか
私たちの仕事は、重要な仕事と重要でない仕事の2種類に分けることができます。しかし先にも述べたように、私たちはついつい前者の仕事を後回しにしてしまいがちですよね。ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノ氏らは、この理由を「完了バイアス」という言葉を用いて以下のように説明しています。
その主な一因は、人間の脳は何かを完了すること、およびそれがもたらす喜びを求めるようにできているからだ。我々はこの傾向を「完了バイアス(completion bias)」と呼んでいる。
(引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー|仕事の生産性と質を高めるために「完了バイアス」を利用せよ)
すなわち、我々には「仕事の中身や重要度とは関係なく、仕事を終えること自体やそれによる達成感を求める」という性質が備わっているということです。
これを我々の普段の仕事に置き換えて考えてみましょう。メールの返信や書類整理などの小さな仕事に時間をかけすぎてしまい、プロジェクトの進行などの重要な仕事に十分な時間をかけられなくなるといった状況は、完了バイアスによるものなのだと説明できます。
つまり、我々にはもともと簡単な(すぐ終わる)仕事を優先してしまう傾向があり、困難な(時間のかかる)仕事を後回しにしてしまうという生来の特性があるのです。
時間の使い方を見直す「INOテクニック」
ではこの完了バイアスとうまく付き合い、大きな仕事にも計画的に取り組むためにはどうしたら良いのでしょうか。
タイムマネジメントのコーチングとトレーニングを提供するリアルライフEという団体の創設者であるエリザベス・グレース・サンダース氏は「INOテクニック」というものを提唱しています。これは我々の活動を「投資的な活動(Investment activity)」「ニュートラルな活動(Neutral activity)」「調整的な活動(Optimize activity)」の3つに分類してみるというテクニックで、それぞれ以下のように分類されます。
投資的な活動(I):大きなリターンが期待できるもの(重要なプロジェクト、休暇など) ニュートラルな活動(N):必ずしも大きなリターンは得られないもの(会議や軽い運動など) 調整的な活動(O):大したリターンは得られないもの(メールの確認や事務処理など)
サンダース氏は、INOテクニックを用いることで「調整的な活動」に費やす時間を減らし「投資的な活動」に最大限の時間を割けるようにすることを最終的な目標としています。また、そのためには調整的な活動には質よりもスピードを追求することが必要とも述べています。
では、その手順をご紹介します。
1. その週のうちに行うべき仕事をリストアップする。 2. リストアップした仕事のうち、必ず行う最優先の「投資的な活動」を特定し、それを行う時間を先に確保する。 3. 毎日、I・N・Oのそれぞれの活動にどの程度の時間を費やすのかを決める。 4. 活動を記録し、その時間配分が適切なものであったかを振り返る。
あらかじめ時間配分を決めておくことで、無意識に簡単なタスクにばかり時間をかけることも無くなります。また、やるべきことが日単位・週単位で分かっているため、手付かずのタスクに気を取られることも無くなり、やるべきことに集中できるのです。
INOテクニックを実践する際のコツとしては、
・予定がずれ込むのを防ぐために、最優先の活動は週の前半の早い時間に時間を確保する。 ・想定よりも時間がかかることが判明した活動については、その活動にさらに時間をかける価値があるのかという観点から、予定を組み直すかどうかを考える。
などが挙げられます。
また、「調整的な活動」を早めの時間にいくつか設定してテンポよくこなしていくことで、大きな仕事に対する精神的なハードルを下げる、という完了バイアスの特性を逆手にとったテクニックを使ってみても良いかもしれません。運動をする前には必ず準備運動をして体をウォームアップするように、大きな仕事の前には小さな仕事で肩慣らしをするのです。
*** 無意識に簡単な仕事にばかり手を伸ばしてしまっては、生産性が下がってしまいます。完了バイアスに支配されないようにするためにも、是非今回紹介した「INOテクニック」を試してみてください。
(参考) ハーバード・ビジネス・レビュー|仕事の生産性と質を高めるために「完了バイアス」を利用せよ ハーバード・ビジネス・レビュー|優等生が陥りがちな時間管理の罠:少ない労力で最大の成果を出す法 @人事オンライン|仕事の進め方のコツは? 知っておきたい「完了バイアス」という心理