あなたには、絶対に譲れないものはありますか。絶対に曲げられないものはありますか。この激変する毎日を生きる中で、自分の中の一つの軸を貫くことは、たしかに難しいでしょう。
しかしそんな世の中だからこそ、周りに振り回されたり、流されたりしないように気をつけなければなりません。そのために必要なのが、自分の憲法であり、価値観です。「YesかNoか」「白か黒か」という二者択一でなくても、行動の規範となるべきメルクマールは必要なはずです。
今日は、迷えるあなたに送る「自分ルールの作りかた」講座です。
自分ルールとは何か
そもそも、自分ルールとは一体何なのでしょうか。
イェール大学を卒業後、マッキンゼーに入社、現在では独立しデルタスタジオという教育機関を運営する渡辺健介氏は、自分ルールを「憲法」と表現しています。「何が正しくて、何が間違っているか」「何が正義で、何が悪か」「何が美しく、何が醜いか」といった価値観の軸、行動規範となるものが「憲法」。言葉は違いますが、自分ルールと本質的には同じもの。自分が日々何気なく下している判断や決定の裏に潜む、価値観や考え方を文章にしてみたもののことを指します。
例えば、あなたは今日の昼、ランチを友人と食べたかもしれませんが、それはどうしてでしょうか。どうして一人で食べにいかなかったのでしょうか。どうして食堂ではなく、レストランを外で探したのでしょうか。
何気ない行動にも、必ず理由があるはずです。その理由は、自分の価値観やものの考え方から生まれているはずです。それを、文章にしたもの。それが自分ルールであり、自分の憲法なのです。
なぜ自分ルールが必要なのか
では一体、なぜ自分ルールが必要なのでしょうか。別にそんなものがなくても、私たちは生きていけるし、その時々でやりたいことをやればいいんじゃないの? と考える人は多そうです。
別に、友達とランチを食べにいった理由なんて考えなくても、楽しい時間を過ごせます。食堂に入ろうが、レストランを探そうが、腹は膨れます。では一体、どうしてルールが必要なのでしょうか。
それは、他人に流されないようにするためです。自分の価値観がはっきりしないために、他人の価値観に従って行動してしまうことは、よくあることです。具体的な話をしてみましょうか。あなたの友人のAさんは、いつも外にランチを食べに出かけます。数人の友人と一緒にハイソなお店に入り、写真を撮ってSNSに上げるのです。一方あなたはいつもコンビニでおにぎりとパンを買い、デスクで一人で食べています。もちろんAさんとも仲は良いですし、あなたにも友人はたくさんいます。ランチタイムの過ごし方が違う。それだけの話です。
しかし、あなたはそんなAさんのランチの写真を見て「何となく」羨ましいと感じてしまいました。まるでパンとおにぎりのランチが劣っているかのように。次の日から、あなたはAさんに美味しいランチへ連れていってもらうことにしました。憧れのおいしくておしゃれなランチに、あなたは大満足。SNSに上げることはしませんでしたが、写真だってバッチリ撮影しました。
しかし、そんなことを数日も続けていると違和感に気づきました。まず、お昼ご飯代がかさむということ。コンビニで買えば400円くらいで済むお昼も、おしゃれなレストランに行けばその3倍はかかります。別にお金に困っているわけではありませんが、ちょっとした痛手です。次に、お昼休みが短くなってしまうということ。レストランを探しにいくと、お昼休みの60分をフルに使います。その結果、ご飯を食べたらすぐに仕事に戻らなければいけません。今まで、ランチ後デスクでコーヒー片手に読書していた10分間が、なくなってしまったのです。
ここで、あなたは気づきます。自分はランチを「一人で簡単に済ませ、時間を有効に使うためのもの」として捉えていたことに。一方Aさんは「みんなで楽しくおいしいものを堪能する時間」として考えていました。自分のルール、価値観が定まっていないと、他人に流されてしまうのです。
いわゆる「意識高い系」の構造も同じです。別に、誰もが起業したいわけではないはずです。海外留学だって、行きたい人だけが行けばいいはず。しかし、自分ルールがはっきりしていないから、「起業すべき」「留学すべき」「そのためにセミナーに行こう」となってしまうのです。
自分ルールのつくりかた
自分ルールが定まっていないために、他人の価値観に流され、違和感や焦燥感に駆られる人が増えるのは、残念なことです。しかし、そう簡単に自分ルールなんて大層なもの作れるのか。そう疑問に思う人だって多いはずです。たしかに、自分の核を見つけ出す、というとなかなか難しく聞こえるかもしれません。でも、実際にやることは単純です。
自分の行動を、丁寧に見直してみましょう。先ほどは、自分のランチを見返して初めて、「ランチは一人で簡単にすませるもの」という価値観に気づけました。これを繰り返せばいいのです。なぜ電車では座らずにつり革を掴んでいるのですか? なぜそばではなくうどんを食べたのですか? なぜスポーツを続けているのですか? 何でもいいんです。自分の行動を丁寧に見直すことで、その裏に潜む自分の価値観、自分のルールに気づくことができるでしょう。
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もう、他人に振り回されるのはやめにしましょう。人のものを羨むのも、焦燥感を抱くのも、あなたが劣っているからではありません。自分のことをよく知らないからなのです。自分ルールを見つけて、もっと気持ちよく毎日を送りませんか?
参考 渡辺健介著(2009),『自分の答えのつくりかた-INDEPENDENT MIND』,ダイヤモンド社.