残念ながら、東大教授だからといってスピーチが上手いわけでは、ない。
講義中ずっと黒板の方を向いたまま、学生の方を見ない。 ボソボソと喋っていて聞こえない。 説明もなしに専門用語を羅列する。
こんな教授が、東大にもたくさんいる。というか、そうした教授の方が多いくらいだ。(もちろん、学問の魅力を存分に伝える素晴らしい講義をしてくださる先生もたくさんいることは、ここで断っておく。)
それは仕方ないのかもしれない。東大教授はサイエンティスト・研究のプロなのだから。彼らは決して、スピーチ能力で選抜されたわけではない。ジョブズのように聴衆を惹きつけるプレゼンや、オバマのようにエネルギーに満ちた演説を求められてはいない。
しかし、一般社会人として「人に伝わる話し方」を目指すのは、当然ではないだろうか。みなさんの中にも、自分のスピーチスキルに自信がない人がいるかもしれない。東大教授の講義はなぜつまらないのか。眠くなってしまうのか。彼らに反面教師になってもらい、考えてみようじゃないか。
今日は、「講義が下手クソな東大教授」の特徴をご紹介し、どうしたらもっとうまく話せるのかお教えしよう。
「喋り方」はどうでもいい
正直なところ、スピーチにおいて声の大きさやどもり口調はそこまで影響しない。声の小さい人はマイクを使えばいいし、どもり口調は練習によって改善できる。大事なのは中身。そう、説明の仕方なのだ。
1 主語がない
日本語は、主語を省略することの多い言語だと言われている。確かに、主語を明示せず伝わる場面もある。
日常会話で「いやー昨日のテストできなくてさ」「え?誰が?きちんと主語を明示してくれないとわからないよ!」とはならない。
しかし、人に説明をする際には話が別だ。複数種類の有機化合物の話をしていて、いきなり「反応性が高く沸点が低いのは〜」と言われても、それがどの化合物の話なのか判然としない。途切れず集中して話を聞けば、主語を省略されてもついていけるもしれない。しかし、多くのスピーチにおいて、そんなに熱心な聴衆はいない。
もし「伝わりやすさ」に自信がないのなら、意識して主語を明示してほしい。それだけで、グッとレベルが上がるはずだ。
2 話の階層がごちゃごちゃ
二つ目の特徴がこちら。物事には階層がある。大きなテーマがあり、その下にまた複数の項目が存在し、そのそれぞれに小さな話題が所属している。
新しい話題に入った時、それが今まで説明してきた項目に含まれるものなのか、それとも対立する大きな話題なのか、それを明示しなければ、相手は混乱するだろう。逆にもし明示してくれれば、理解しやすいし、メモも取りやすい。これはどの分野にも共通のこと。大学の講義だけでなく、新商品のプレゼン、企画の説明、ひいては取引先との交渉にも生きてくる。
階層構造をはっきりさせたスピーチメモを予め用意しておき、本番に臨もう。
3 どこの話をしているか明示しない
配布資料やテキストを使う教授も多い。そんな時に困るのが、どこについて話をしているか全くわからない時だ。スライドが切り替わったり、次のページに話題が移動した時には、当然そのことを伝えなければ理解できない。ましてや、前のページや資料に戻る時、何ページが飛ばして移動する時はなおさら注意が必要だ。そのまま話を続けていては、聴衆を置いてけぼりにしてしまう。
「次は◯ページに移ってください」「ちょっと資料のココに戻って話をすると…」 とこれから移動する先を示す。その上で、今どこの話をしているのか、今の話がどれに関連するものなのか。現状の話についても言及すると丁寧だ。
4 説明のない専門用語を羅列する
自分の話を最もよく理解するのは、自分だ。自分が何を伝えたいかはっきりしているし、話の中に出てくる専門用語だってわかる。しかし、それを相手に伝えなければ意味がない。
特に専門用語の場合、①初めて聞く人が大多数だし、②意味を言葉から推測できないことが多い。この二つの理由から、説明なしで使った場合にはほぼ間違いなく伝わらない。少しでも専門的な用語かな、と思ったら、必ず説明を入れるようにしよう。これを解消するためには、プレゼンや説明の前に、家族や友人に聞いてもらうのが有効だ。
専門的な知識がない人が聞いたら、なんと思うか。それを確認してから本番に臨もう。
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いかがだろうか。東大教授なのに、こんなこともできないの? と思った方がいるかもしれない。
しかし、それは間違いだ。東大教授なのにできないのではない。東大教授も間違えてしまうくらい、誰もがみな意識せず「伝わらない話し方」をしているということだ。みなさんも、ぜひ考えてみてほしい。自分の話し方が、人に伝わりやすいかどうかを。