皆さんは女性脳と男性脳という言葉を聞いたことはありますか? ここ数年流行りで、ずいぶんと本も出版されています。「女性は感情的で論理的に考えることが苦手、男性の方が数学が得意で感情を理解するのは苦手。これらは脳の構造が男女で違うから仕方ない」、そう聞かされると思わず納得してしまうかもしれません。
しかし最新の研究結果によると脳の構造に男女で差はないことが明らかになりました。
脳に性差は存在しない
英国のロザリンド・フランクリン医科大学の研究チームが6000件を超えるsMRI(構造的核磁気共鳴画像法)検査の結果をメタ分析したところ、脳の海馬の大きさに男女差はないという結果が示されました。海馬は脳の中で記憶を司り、感情を感覚に結び付ける部位です。 これまでは海馬は女性の方がかなり大きいと考えられており、これが「女性の方が感情豊かで言葉を記憶する能力が高い」という性差の根拠となっていたのです。 しかし、実はこうした脳の男女差の情報はサンプル数の少ない解剖データに基づいたもので推測の域を出ないものだったのです。
今回の研究結果では他にも、「脳の左半球と右半球をつなぐ脳梁の大きさに男女差がある」という説や、言語処理の方法に男女で大きな違いがあるという説も否定されました。これらも今まで、男女の考え方や志向の違いの根拠として度々挙げられていたものです。
固定観念にとらわれていませんか
これらの研究により、「女性だから理系科目は苦手」という説に脳科学的な根拠はないことがわかりました。しかし実際には理系に進む女子は少ないですよね。数学は苦手、国語や英語の方が得意という女性も多いのではないでしょうか。 それは女性はこう、男性はこう、といった情報を刷り込まれることで生まれる思い込みのせいかもしれません。 人間にとって思い込みの力は強烈です。思い込みで死ぬこともあるのです。
2005年クリフトン・メアド博士が発表した論文にある患者の例が報告されています。 末期の肝臓がんと診断され余命数か月と告知された患者が告知後がっくりと気落ちしみるみる体力を失い余命もまっとうできず亡くなりました。しかし驚くべきことに患者の死後医師の診断が間違っていたことがわかったのです。彼は不幸にも、「自分ががんで死ぬ」と思い込んだせいで死んだのです。
逆に偽薬を信じ「自分は治る」と思い込むことで病気が回復するプラシーボ効果というものもあります。人間の思い込み、あるいは信念は、科学的な根拠さえ覆してしまう強さを持っているのです。
*** 思考能力に男性だから女性だからといった差はありません。 女性は数学や理科は苦手、あるいは「金融の営業は男性に向いている仕事」「研究職でも、教授にまでなるほどの才能があるのは男性ばかり」など、性差で進むべき道を狭めようとすることがあれば、一度苦手意識や思い込みを取り払って、それらに向き直ってみませんか。
今まで見えなかった世界がきっと開けてきますよ。
(参考) Science Direct|The human hippocampus is not sexually-dimorphic: Meta-analysis of structural MRI volumes 東洋経済オンライン|人間は「思い込み」だけでも死んでしまう!