“なぜか余裕に見える人” が必ず知っている3つの原則。一流は「やらない」という選択肢を持つ。

大手外資系IT企業に勤めるビジネスパーソンでありながら、琉球大学客員教授や複数のスタートアップ企業の顧問、NPOのメンターなどさまざまな顔を持つ澤円(さわ・まどか)さん。ビジネスシーンでは「世界ナンバーワン・プレゼンター」としても知られます。

今回は、11月に上梓されたばかりの澤さんの最新刊から、すべてのビジネスパーソンに贈る金言をピックアップ。第1回のテーマは、「時間とタスク」。あたりまえと思っていた時間の使い方を疑えば、いま本当にやるべきタスクも見えてきます。そして、大きく成長することができるのです。

構成/岩川悟 清家茂樹(ESS) 写真/榎本壯三

「時間」はもっとも貴重なリソース

僕がみなさんに最初にお伝えしたいのはこの事実です。

人の命は永遠ではなく、いつか必ず死ぬ――

人間はいつか死ぬ生きものです。生まれてから死ぬまでの時間は有限であり、その大前提は誰もがみな平等です。

もちろん寿命の長さはそれぞれちがうだろうし、いつどのタイミングで死ぬのかもわかりません。でも、いずれにせよ人生に「終わり」があることは絶対的な事実です。僕たちは、その「終わり」に向かって常に前へと進むしかなく、後退はできません。

つまり、自分の命の時間というものは増えることがなく、残り時間は減っていくしかない、ある意味では残酷なものであるということです。

この「残り時間を増やすことはできない」という事実を、ぜひ頭に刻み込んでほしいのです。その理由は、いまみなさんが直面している仕事や生活上の問題の多くは、「時間を無駄にしていること」、あるいは「時間の無駄に対する抵抗感が薄れていること」によって引き起こされていることがほとんどだからです。

時間は有限であり、ものすごく貴重なもの

そのことが本当に腑に落ちたら、みなさんの未来は俄然、明るくなるでしょう。まず、自分の時間の使い方が丁寧になり、その時間をもっと有意義に過ごそうとして「質」の面を大切にしはじめます。同じ時間を過ごすなら、当然快適なほうがいいし、楽しいほうがいいし、意義あるほうがいいですからね。

また、おのずと他人の時間を無駄に奪うこともなくなります。自分の時間を大切にできるようになると、自分だけでなくまわりの人間まで幸せにしていくのです。

いまこの瞬間に僕たちに与えられているものを考えたとき、場所や地位や属性などは個人差が大きいかもしれない。でも、時間だけは誰にも等しく与えられています。その面では、みな同じ条件のもとで生きていると言えるかもしれません。

たとえ社長であっても、新入社員であっても。

膨大なタスクを効率的にこなす3つの原則

時間を大切にするためにまず意識してほしいのは、過ぎ去ったことに時間を使うのではなく、未来に目を向けること。過去に学ぶ必要はありますが、過去の出来事そのものが変わることはありません。過去に起きたことに一生懸命に時間を使うのは、とてつもなく無駄なことなのです

未来のことに時間を使うためには、いま現在のタスクを効率良くこなして「考える」時間をつくる必要が出てきます。

あなたのまわりには、すごく忙しいはずなのになぜかゆったりしているように見える人はいませんか? あくせくしていなくて、いつも悠々とした雰囲気の人。こうした人たちは、優先順位の立て方が上手なこともありますが、タスクを効率的にこなすための「3つの原則」を確実に身につけています。

【タスクを効率的にこなす3つの原則】 ①できるタスクとできないタスクを理解している ②やると決めたひとつのタスクに集中している ③タスクにかかるスピードを把握している

順に説明します。

① できるタスクは自分でやりますが、自分がやるとかえって時間がかかる優先順位の低いタスクは、迷わずアウトソーシングする。具体的には、得意な人にやってもらったり、ツールを使って自動化したりするとベスト。また、「タスクとして捉えない」という選択肢もあります。そうした観点から、まずはタスクを取捨選択します。

② やると決めたタスクに集中しましょう。ひとつのタスクに集中して取り組むと、スピードが上がり作業にかかる時間が短くなります

それぞれのタスクにかかる時間を把握しておくと、急用が入っても予定を調整しやすくなります。たとえば、ある作業に2時間かかると知っていれば、たとえ急用で中断しても、前後1時間ずつ振りわけるなどして確実に終えられる算段ができるでしょう。

このように、自分が得意なことを着実に行いながら同じように他の人にも得意なことをしてもらい、ともに突っ走れる仲間を増やしていくこと。そのためには、「原則①」がより大切なポイントになります。ここでのアウトソーシングを、僕はこう呼んでいます。

他人と「時間の貸し借り」をする

たとえば、僕はプレゼンを専門分野にしていますから、限られた時間でオーディエンスにインパクトがある話をすることは得意中の得意。だからこそ、プレゼンの依頼が多方面から舞い込みます。

プレゼンで大切なのは、コンテンツ(中身)と当日のパフォーマンスに尽きます。ですから、まずはプレゼンに集中できる最良のコンディションをつくることに注力しなければなりません。

そこで、コンテンツの材料となるクライアントのプロファイル分析や事業内容の精査は他者と協働することにしています。いわば、他者の時間を借りるわけです。他にも、当日の参加者や前後のプレゼンのバランスなどについての質問も投げておき、情報収集をまかせています。

なぜこんなことができるかと言えば、まわりから「この人がオーディエンスにもっともインパクトを与えるプレゼンができる」と思われているから。言い換えると、僕は僕で得意なことを他者から丸ごとまかされているというわけなのです。

ボトルネックがわかれば仕事のスピードが上がる

一つひとつのタスクではなく仕事全体のスピードは、ボトルネック(遅れを引き起こす障害)によって左右されます

これは、物理学者のエリヤフ・ゴールドラットが書いた大ベストセラー『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)でも詳しく紹介されている「全体最適化理論」のこと。全世界で1000万人以上が読んだとされ、ビジネスの原則としてよく知られています。

つまり、自分が最高のスピードを出せる状態にするには、まずボトルネックを知り、それをどう改善するかがポイントになるというわけです。つかえているところを取り除き、突っ走れる状態にしておくということですね。

そこで、先に述べた「原則③(タスクにかかるスピードを把握している)」の話に戻りますが、まず自分の仕事のスピードを把握することが、仕事や学習全体のスピードを左右するポイントになります。自分の仕事のスピードが早くなったかどうかを知るには、そもそも自分の仕事のスピードを知っておかなければならない、ということはおわかりいただけると思います。

いまの自分のスピードを測るためには、仕事の中身をすべて棚卸しする必要があります。そして、すべてのタスクについて「どのくらいの時間で完成するのか」を順に測っていきます

このとき、あまり細かく測るとその作業自体に時間がかかってしまうので、だいたいの感覚でいいでしょう。あるタスクにかかる時間が1時間なのか3時間なのか、はたまた丸1日なのか。そのくらいの単位でも十分。いずれにせよ、なににどのくらいの時間をかけているのかを知ることが大事です。

実際にやってみると、「えっ! 会議にこんな時間をかけていたの!?」「細かい事務作業が多過ぎる……」と、きっと驚くはず。意識せずに無駄に費やしている時間は、みなさんが思っている以上にとても多いものです。

ちなみに僕の場合、たとえば1時間のプレゼンのコンテンツをつくるなら、どんなテーマであれ3時間あればスライドがつくれます。つまり、パソコンに向かう時間を必ず3時間は確保する必要がある。ただし、それはあくまで作業時間です。アイデアや構想を練る「考える」時間は、また別に確保することになります。

そして次は、「時間がかかっている」と思うタスクの改善案を練っていきます。ここに、あなたのボトルネックが潜んでいるわけですが、一般的にボトルネックとなっている事柄にはこのような要因があります。

●習熟度が低い ●やり方が自己流 ●そもそも興味がなく嫌々やっている

習熟度が低かったり、やり方が自己流だったりする場合は、練習を重ねたりうまくいっている人に教わったりすることで解決する可能性がぐんと高まります。自分の絶対スピードが上がると成長の実感も得られるので、やればやるほどモチベーションも上がっていくでしょう。

無意味なことから「逃げる」のも大切な選択肢

では、「興味がないこと」や「嫌々やっていること」にはどのように向き合えばいいのでしょうか?

僕は、「自分の人生において意味がない」と思うなら「やらない」ことを強くおすすめします嫌なことなんてやらなくていいのです。逃げちゃえばいいんです。

もちろん、これは万人にあてはまる方法ではありません。逃げられないこともあるだろうし、その人の性格にも大きく関係します。それでもなお、僕は「やらない」「逃げる」という選択肢を持っておくことはとても大切だと思っています。

仕事であれば、自分の苦手なことが得意な人を見つけておくのもひとつの手。向いていないのにやっていると、時間もかかるし完成度も上がらない。かえって人に迷惑をかけてしまいます。

であれば、迷わず人に頼ればいい。他の人の時間を借りて、別のかたちで時間を返して、できる限り自分の貸しが多くなるような状態にしておく。ここで重要なのは、相手とWin-Winになるための「交換条件」を考えることでしょう。

相手が自分をヘルプすることで利益になるような状態をつくればよく、それが「交換条件」になる。ちなみに、僕は数字に関する仕事はからきしダメ。国家予算級の単位で計算をミスってしまうので、エクセルを使うような仕事が発生したらその道のプロに頼むことにしています。そして代わりに、その人の苦手なタスクはできる限りカバーします。

「そんなに簡単じゃないよ」という意見があるのもわかりますが、僕がいちばん伝えたいのは、「自分がいちばん幸せな状態を考えよう」ということなのです。

これだけ多様な価値観が世の中にあることが明らかになり、個人の選択肢も無限に広がりつつあるいまの時代。それでも、人に与えられた時間の総量は変わらない。だからこそ、僕は「時間の貸し借り」が欠かすことのできない考え方だと確信しています

お互いの時間を有効に使うことで、みんなが面白い体験をたくさんできるようになる。時間は有限でとても貴重だからこそ、その時間を自分のためにたくさん使えるようにして、もっと幸せを追求していいのだと思います。

逆に、後ろ向きの言動で誰かの生きるスピードにブレーキをかけるのは、僕に言わせれば「時間泥棒」。また、なにも与えるつもりがなく、他人の助けばかりを求めるのは「時間の借金王」とでも言えばいいでしょうか。よくいる、お世話になっている取引先だからとわざわざ挨拶のためだけに大勢でやってきたり、失礼にならないようにといちいち電話したりしてくる人は、「礼儀正しく時間を奪う人」なのです。

「礼儀正しく時間を奪う人」になってはいけない。

礼儀を重んじるあまり人の時間を奪ってしまうよりも、どんどん自分の時間を貸したり、相手の時間を借りたりして、もっとスピーディーに、面白い世の中に変えていくほうが断然いいと思いませんか?

「与える時間がない人はどうすればいいの?」と言う人もいますが、自分の時間を貸すことは、小さなことならなんらかのかたちでできるはず。人の助けになることなら、どんなことでもいいじゃないですか。資料作成を手伝ってもいいし、経費の計算を代わりにやってあげてもいい。

まずは、「時間の貸し借り」をして信頼関係を築いていくことが大切。これを続けていけば、知らないうちに自分自身が相手にとっての「時間の投資先」になっていきます。

ポイントは、先に貸しをつくること。得意なことを自分で決めて、その得意なことで先に相手の役に立ってしまいましょう。すると、自分がやりたいことをしたいときや、困ってしまったときに助けてもらえるようになります。

※今コラムは、澤円著『あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント』(セブン&アイ出版)をアレンジしたものです。

【澤円さん「あたりまえを疑え。」 ほかの記事はこちら】 「最悪なマネージャー」に共通する3つのこと。“部下と競争” はなぜマズいのか? あたりまえを疑える「変な人」になるべき理由。“普通すぎる” と絶対損する。

『あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント』

澤円 著

セブン&アイ出版(2018)

【プロフィール】 澤円(さわ・まどか) 立教大学経済学部卒業。生命保険会社のIT子会社を経て、97年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。18年より業務執行役員。06年には十数万人もの世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツが授与する「Chairman’s Award」を受賞。現在では、年間250回以上のプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。 Twitter:Madoka Sawa/澤 円(@madoka510

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