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人に何か指導する際には、主に二つの方法が考えられる。一つは口で直接指導する方法で、もう一つは指導したい内容をマニュアルにし、それを読んでもらう方法だ。
最近、均一化した指導を行うために様々な場面でのマニュアル化の重要性が訴えられている。「見て盗め」が主流の漁師の世界にマニュアル化を徹底し、売り上げを大幅にあげた漁船もあるほどだ。
(参考:日本経済新聞|若い船長育成、漁業を元気に ノウハウマニュアル化で

この例のように、口述よりもマニュアルの方が本当に最適な手段なのか。今日は脳科学の研究を紹介しながら、「場面に応じた教え方のコツ」をお伝えしよう。

口述、マニュアル、それぞれのメリットとデメリット

最初に述べたように人に何かを伝えたり指導する際には、口述とマニュアルを読んでもらう方法との二種類がある。このそれぞれにメリットとデメリットがあるので、まずはそれを理解しよう。

口述指導のメリットは、対面で表情を見ながら話せるので、相手の理解度を確認しながら進められることだ。また、分からないことがあったときにその場で質問をすることも可能だ。しかし、メモを取り損ねるとそのまま抜けてしまったり、抽象的で複雑な説明など口述だけでは伝わりにくいというデメリットがある。

一方、指導したい内容をマニュアル化して読んでもらう方法は、一度マニュアルができれば大量の人に伝えられるし、図や画像を用いたビジュアル的な指導もできる。
しかし不明な点があっても質問ができなかったり、そもそもマニュアルを作るのに膨大な労力を要するというデメリットがある。

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「ゴールがはっきりしている作業」の時にはマニュアルを

四条畷学園大の杉原氏らは、20歳前後の男女のグループに対して以下の実験を行った。
4つの工程に分かれた「箱つくり」の課題を行わせ、その時の脳のようすを観察する。工程表と箱の図が書かれたものを見せる「視覚教示グループ」と、人から説明手順を聞かせる「言語教示」では、どちらが脳が活性化したかを調べるのだ。「視覚教示」がマニュアル、「言語教示」が口で説明、にあたるだろう。

すると「視覚教示」、マニュアルを見せられた時の方が脳が活性化し、認知機能が高まったという結果が得られたのだ。箱つくりといった完成形、つまりゴールの想定しやすい作業においては、マニュアルなどを目で見た方が自分のペースで進めることができるから、なんだとか。

ものをつくる時にマニュアルを見る。これは、子どもの頃から繰り返してきた当たり前のやりかたかもしれないが、「ゴールが見えるか否か」という視点は新しい。
これはつまり、一見マニュアル化が難しい仕事でも、ゴールを明確に示してやれば、マニュアル化することができるかもしれないということだ。逆にいえば、人との深いコミュニケーションが求められる作業や、状況が流動的に変化する業務内容においては、マニュアルを作るのは非効率かもしれない。

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過度なマニュアル化はモチベーション低下を招き、顧客の信頼を失う

一方で、マニュアル化にはデメリットもある。それは、メンバーのモチベーション低下につながりかねないということだ。

しかし、そのデメリットは、以下の2点である。
(1)ルールやマニュアルの遵守が優先されればされるほど、そもそもそれが何のために作りだされたかという肝心な点が忘れられがちで、ルールのためのルールのようになってしまうこと
(2)マニュアルをあまりにも細部にわたって作りこもうとしすぎると、それは逆に現実離れしたものになってしまい、極めて使いにくいものになること

(引用元:NOMA総研|ルール重視、マニュアル重視の落とし穴

機械的に仕事を進めることのできる「マニュアル」だが、機械的になってしまうからこそ、仕事を味気ないものにしかねないのだ。

さらにマニュアルだけに沿った対応は、顧客の信頼を失いかねない。警察大学校の教授である樋口氏は、最近相次ぐ企業の不祥事の「炎上」は、マニュアル一辺倒に頼るその性質に問題があるという。

企業不祥事を数多く調べているが、対策を導入していなかった例はない。その仕組みが機能しないから問題が起きるのに、企業は不祥事が起きると、担当者の怠慢や不注意といった表面的な分析で済ませ、新規の対策を並べて一件落着にしようとする。根本原因を調べて本気で対応しなければ、なくなるわけがない。

(引用:日本経済新聞|マニュアル頼み 逆効果 警察大学校教授 樋口晴彦氏

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一見効率的に見えるマニュアル化だが、それ一辺倒では機械的な印象を与えたり、杓子定規に当てはめることで多少のずれが生じる可能性もある。基本的な方針を定めた上で、個別具体的な事例にもしっかりと目を向ける。そうした柔軟な対応が求められているのだ。

参考
日本経済新聞|若い船長育成、漁業を元気に ノウハウマニュアル化で
杉原勝美, 西田斉二, and 田丸佳希. “作業教示が作業遂行時のワーキングメモリに及ぼす影響.” 四條畷学園大学リハビリテーション学部紀要 10 (2014): 13-19.
NOMA総研|ルール重視、マニュアル重視の落とし穴
日本経済新聞|マニュアル頼み 逆効果 警察大学校教授 樋口晴彦氏


東京大学理科二類所属。県立浦和高等学校および駿台予備校出身。小さいころから自然や生き物に関心を持ち、高校時代に読んだ福岡伸一の「生物と無生物のあいだ」に刺激をうけ、分子生物学を志す。テニス歴6年。AKB48の大ファン。